社会保険労務士試験【雇用保険法/徴収法】<令和3年第10問>

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次に示す業態をとる事業についての労働保険料に関する記述のうち、正しいものはどれか。なお、本問においては、保険料の滞納はないものとし、また、一般保険料以外の対象となる者はいないものとする。
保険関係成立年月日:令和元年 7 月 10 日
事業の種類:食料品製造業
令和 2 年度及び 3 年度の労災保険率:1000 分の 6
令和 2 年度及び 3 年度の雇用保険率:1000 分の 9
令和元年度の確定賃金総額:4,000 万円
令和 2 年度に支払いが見込まれていた賃金総額:7,400 万円
令和 2 年度の確定賃金総額:7,600 万円
令和 3 年度に支払いが見込まれる賃金総額 3,600 万円

雇用保険法/徴収法 令和3年第10問 A

令和元年度の概算保険料を納付するに当たって概算保険料の延納を申請した。当該年度の保険料は3期に分けて納付することが認められ、第1期分の保険料の納付期日は保険関係成立の日の翌日から起算して50日以内の令和元年8月29日までとされた。

解答の根拠

則27条1項

本問は、「労働保険料の計算」に関する問題です。

計算ロジックを知っていればラッキー問題ですが、知識があいまいな場合は正答率が低くなる出題ですね。

実務ではこの辺りは、システムや計算ソフトなどで自動算出されてしまう…というのが本当のところですが、専門化としてどのような計算過程でそういう結果が産出されているのか、ということは、しっかり理解して、必要に応じてクライアントに説明できる状態でなければいけません。

ということで、試験的にも実務的にも落とせない問題です。

さて、肢Aは「納付期日」に関する問題です。

まずは根拠条文を確認します。

(事業主が申告した概算保険料の延納の方法)
第二十七条 有期事業以外の事業であつて法第十五条第一項の規定により納付すべき概算保険料の額が四十万円(労災保険に係る保険関係又は雇用保険に係る保険関係のみが成立している事業については、二十万円)以上のもの又は当該事業に係る労働保険事務の処理が労働保険事務組合に委託されているもの(当該保険年度において十月一日以降に保険関係が成立したものを除く。)についての事業主は、同項の申告書を提出する際に法第十八条に規定する延納の申請をした場合には、その概算保険料を、四月一日から七月三十一日まで、八月一日から十一月三十日まで及び十二月一日から翌年三月三十一日までの各期(当該保険年度において、四月一日から五月三十一日までに保険関係が成立した事業については保険関係成立の日から七月三十一日までを、六月一日から九月三十日までに保険関係が成立した事業については保険関係成立の日から十一月三十日までを最初の期とする。)に分けて納付することができる。

労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則

根拠となる施行規則第27条は、だらだら書いてあり、かつ、漢数字で表記しているので読みづらいですね…(法律なので仕方ありませんが…)

ということで、以下の通りポイントをまとめます。

●概算保険料の延納の方法

①通常(1年を3期にわけて納付する)
・第1期…4~7月
・第2期…8~11月
・第3期…12~3月 

②年度の途中で保険関係が成立した場合
・4~5月に成立…3期に分けて
 →第1期…保険関係成立日~7月、第2期・第3期は①通常と同じ
・6~9月に成立…2期に分けて
 →第1期…保険関係成立日~11月、第2期は①通常の第3期(12~3月)
・10月以降…延納できない

本問は、冒頭の問題文に「保険関係成立年月日:令和元年 7 月 10 日」とあります。

ということは、上記ポイントの②の「6~9月に成立」したパターンに該当することになり、「3期に分けて」ではなく「2期に分けて」納付できます

本肢は×です。

雇用保険法/徴収法 令和3年第10問 B

令和2年度における賃金総額はその年度当初には7,400万円が見込まれていたので、当該年度の概算保険料については、下記の算式により算定し、111万円とされた。
7,400万円 × 1000分の15 = 111万円

解答の根拠

法15条1項 / 則24条1項

根拠条文を確認します。

(概算保険料の納付)
第十五条 事業主は、保険年度ごとに、次に掲げる労働保険料を、その労働保険料の額その他厚生労働省令で定める事項を記載した申告書に添えて、その保険年度の六月一日から四十日以内(保険年度の中途に保険関係が成立したものについては、当該保険関係が成立した日(保険年度の中途に労災保険法第三十四条第一項の承認があつた事業に係る第一種特別加入保険料及び保険年度の中途に労災保険法第三十六条第一項の承認があつた事業に係る第三種特別加入保険料に関しては、それぞれ当該承認があつた日)から五十日以内)に納付しなければならない。
 次号及び第三号の事業以外の事業にあつては、その保険年度に使用するすべての労働者(保険年度の中途に保険関係が成立したものについては、当該保険関係が成立した日からその保険年度の末日までに使用するすべての労働者)に係る賃金総額(その額に千円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。以下同じ。)の見込額(厚生労働省令で定める場合にあつては、直前の保険年度に使用したすべての労働者に係る賃金総額)に当該事業についての第十二条の規定による一般保険料に係る保険料率(以下「一般保険料率」という。)を乗じて算定した一般保険料

労働保険の保険料の徴収等に関する法律

(賃金総額の見込額の特例等)
第二十四条 法第十五条第一項各号の厚生労働省令で定める場合は、当該保険年度の保険料算定基礎額の見込額が、直前の保険年度の保険料算定基礎額の百分の五十以上百分の二百以下である場合とする。

労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則

概算保険料を算出する場合に、保険料率をかける「賃金総額」はどの数字を使うかの問題です。

普通に考えれば、「え?保険料の見込を算出するのだから、当該年度の賃金総額の見込をベースにするんじゃないの?」と思いますよね。

根拠条文にも「当該保険関係が成立した日からその保険年度の末日までに使用するすべての労働者に係る賃金総額(略)の見込額」とありますので、通常はそれでOKです。

ただし、多くの企業では毎年度毎年度、賃金総額が大幅に上下することはあまりありません。

となると、毎年度「今年度はこれくらいの賃金総額見込かな…」と算出しなくても、「大体昨年度とおなじくらいだよね」として計算した方が、効率がよさそうですよね。

しかも、賃金総額の見込を使っても、昨年度の実績をベースにしても、最終的に「確定保険料」で清算しますので、だったらなるべく手間の少ない方を、とした方が良いです。

ということで、法律の定めでは「当該保険年度の保険料算定基礎額の見込額が、直前の保険年度の保険料算定基礎額の百分の五十(100分の50)以上百分の二百(100分の200)以下である場合」…つまり、なんらかの事情があって、昨年度の賃金総額実績よりも半減以上減る場合か、倍額以上増える場合以外は、昨年度実績をベースに保険料を算出してください、としています。

そこで、本問の設定を確認しましょう。

令和元年度の確定賃金総額:4,000 万円
令和 2 年度に支払いが見込まれていた賃金総額:7,400 万円

令和2年度の賃金総額見込が、令和元年度の実績の倍額以上には増えていません。

ということは、7400万円をベースにするのではなく、令和元年度の4000万円をベースにして概算保険料を算出しなければなりません。

本肢は×です。

雇用保険法/徴収法 令和3年第10問 C

令和3年度の概算保険料については、賃金総額の見込額を3,600万円で算定し、延納を申請した。また、令和2年度の確定保険料の額は同年度の概算保険料の額を上回った。この場合、第1期分の保険料は下記の算式により算定した額とされた。
3,600万円 × 1000分の15 ÷ 3 = 18万円・・・①
(令和2年度の確定保険料)-(令和2年度の概算保険料)・・・②
第1期分の保険料 = ① + ②

解答の根拠

法15条1項 / 則24条1項

肢Cは、肢Bとは逆のパターンですね。

今回は…

令和 2 年度の確定賃金総額:7,600 万円
令和 3 年度に支払いが見込まれる賃金総額 3,600 万円

令和3年度の賃金総額見込が、令和2年度の確定賃金総額の半額以下に減ってしまっています。

この場合は、令和3年度の賃金総額見込である3600万円をベースに概算保険料を算出する必要がありあす。

なお、当年度の概算保険料に、昨年度の概算保険料と確定保険料の差分を加味する点は設問の通りです。

本肢は○となり、本問の正解となります。

雇用保険法/徴収法 令和3年第10問 D

令和3年度に支払いを見込んでいた賃金総額が3,600万円から6,000万円に増加した場合、増加後の賃金総額の見込額に基づき算定した概算保険料の額と既に納付した概算保険料の額との差額を増加概算保険料として納付しなければならない。

解答の根拠

法16条 / 則25条

根拠条文を確認します。

(増加概算保険料の納付)
第十六条 事業主は、前条第一項又は第二項に規定する賃金総額の見込額、第十三条の厚生労働省令で定める額の総額の見込額、第十四条第一項の厚生労働省令で定める額の総額の見込額又は第十四条の二第一項の厚生労働省令で定める額の総額の見込額が増加した場合において厚生労働省令で定める要件に該当するときは、その日から三十日以内に、増加後の見込額に基づく労働保険料の額と納付した労働保険料の額との差額を、その額その他厚生労働省令で定める事項を記載した申告書に添えて納付しなければならない。

労働保険の保険料の徴収等に関する法律

(概算保険料の増額等)
第二十五条 法第十六条の厚生労働省令で定める要件は、増加後の保険料算定基礎額の見込額が増加前の保険料算定基礎額の見込額の百分の二百を超え、かつ、増加後の保険料算定基礎額の見込額に基づき算定した概算保険料の額と既に納付した概算保険料の額との差額が十三万円以上であることとする。

労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則

本肢は「増加概算保険料」に関する問題です。

増加概算保険料に関するポイントを、以下の通りまとめます。

●増加概算保険料の要件
増加後の保険料算定基礎額の見込額が…
・増加前の保険料算定基礎額の100分の200を超え(つまり2倍超になり)
かつ
・既に納付した概算保険料額との差額が13万円以上

「2倍超」&「13万円以上」と覚えておきましょう。

問題文を読むと、「賃金総額が3,600万円から6,000万円に増加」とあり、2倍超になっていないので、増加概算保険料を納付する必要はありません。

本肢は×となります。

雇用保険法/徴収法 令和3年第10問 E

令和3年度の概算保険料の納付について延納を申請し、定められた納期限に従って保険料を納付後、政府が、申告書の記載に誤りがあったとして概算保険料の額を決定し、事業主に対し、納付した概算保険料の額が政府の決定した額に足りないと令和3年8月16日に通知した場合、事業主はこの不足額を納付しなければならないが、この不足額については、その額にかかわらず、延納を申請することができない。

解答の根拠

法15条第3・4項 / 則27・29条

根拠条文を確認します。

(概算保険料の納付)
第十五条
 政府は、事業主が前二項の申告書を提出しないとき、又はその申告書の記載に誤りがあると認めるときは、労働保険料の額を決定し、これを事業主に通知する。
 前項の規定による通知を受けた事業主は、納付した労働保険料の額が同項の規定により政府の決定した労働保険料の額に足りないときはその不足額を、納付した労働保険料がないときは同項の規定により政府の決定した労働保険料を、その通知を受けた日から十五日以内に納付しなければならない。

労働保険の保険料の徴収等に関する法律

(事業主が申告した概算保険料の延納の方法)第二十七条(略)

(政府が決定した概算保険料の延納の方法)

第二十九条 前二条の規定は、法第十五条第四項の規定により納付すべき概算保険料に係る法第十八条に規定する延納について準用する。

こちらも条文構成が複雑ですので、以下の通り整理します。

・法第15条第3項…申告書に誤り→政府が労働保険料の額を決定し事業主に通知
・法第15条第4項…上記の訂正後の労働保険料を15日以内に納付
・施行規則第27条…労働保険料の延納の方法
・施行規則第29条…27条の延納は法第15条第4項の訂正があった労働保険料にも準用する

ということで、結論としては「政府より訂正指示があった労働保険料についても延納ができる」となります。

本肢は×となります。

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