業務上の災害により既に 1 上肢の手関節の用を廃し第 8 級の 6(給付基礎日額の 503 日分)と障害等級を認定されていた者が、復帰直後の新たな業務上の災害により同一の上肢の手関節を亡失した場合、現存する障害は第 5 級の 2(当該障害の存する期間 1 年につき給付基礎日額の 184 日分)となるが、この場合の障害補償の額は、当該障害の存する期間 1 年につき給付基礎日額の何日分となるかについての次の記述のうち、正しいものはどれか。
A 163.88 日分
B 166.64 日分
C 184 日分
D 182.35 日分
E 182.43 日分
法15条、則14条5項、昭和50年9月30日基発565号
本問の論点は「加重障害にかかる障害補償給付の額」となります。
まずは、基本的な考え方の確認のために、根拠法・根拠通達を見ていきましょう。
(障害等級等)
労働者災害補償保険法施行規則
第十四条
5 既に身体障害のあつた者が、負傷又は疾病により同一の部位について障害の程度を加重した場合における当該事由に係る障害補償給付は、現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付とし、その額は、現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付の額から、既にあつた身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付の額(現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付が障害補償年金であつて、既にあつた身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付が障害補償一時金である場合には、その障害補償一時金の額(当該障害補償年金を支給すべき場合において、法第八条の三第二項において準用する法第八条の二第二項各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める額を法第八条の四の給付基礎日額として算定した既にあつた身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償一時金の額)を二十五で除して得た額)を差し引いた額による。
上記の根拠条文のポイントとしては…
・既に身体障害がある場合で【この身体障害を理由とする障害補償給付をAとします】
・同一の部位に障害の程度を加重した場合
あとから加重した方の障害補償給付【こちらをBとします】の額は
B ー A = C【調整後のあとから加重した方の障害補償給付】 とする
障害補償給付は、100%健康な方(100%健康な部位)が障害を負った時に必要な給付額を設定しています。
しかし、不幸なことに、何らかの理由で同じ部位について加えて病気やけがをしてしまうこともあります。
その場合は、100%健康な状態(100%健康な部位)を基準とする障害補償給付を重ねて支給してしまうと、100%+100%で、200%分の補償になってしまいます。
これはさすがに補償しすぎ…ということで、調整が入るわけですね。
そこで、その調整の考え方が、上記の条文の規定の通りになります。
さて、みなさんご存じの通り、障害補償給付には「障害補償年金」と「障害補償一時金」の大きく2種類にわかれています。
● 障害補償年金…障害等級1級から7級までに該当する障害が残った場合に給付される
● 障害補償一時金…障害等級8級から14級までに該当する障害が残った場合に給付される
ここで年金と一時金の境目である、7級と8級の給付基礎日額の支給日数を見てみると…
・障害等級7級…障害補償年金:131日分
・障害等級8級…障害補償一時金:503日分
あれ?障害等級が重い7級の方が日数が少ない…となりますね。
その理由は、年金はその名の通り年ごとに繰り返し支給される性格のものであり、一時金はその名の通り一回支給したら終わり。
それを考慮して支給日数が定められているわけですね。
ここで、本問の論点である、「加重障害にかかる障害補償給付の額」に戻ります。
先ほど、
・既に身体障害がある場合で【この身体障害を理由とする障害補償給付をAとします】
・同一の部位に障害の程度を加重した場合【こちらをBとします】
あとから加重した方の障害補償給付の額は
B ー A = C【調整後のあとから加重した方の障害補償給付】 とする
とご説明しました。
このAとBが、障害補償年金同士、障害補償一時金同士であれば、そのまま引き算すれば問題ありません。
問題となるのは、調整するのが年金と一時金という性格の違うものだった場合です。
当然ですが、先ほど申し上げた通り、日数設定の考え方が両者で異なっているので、そのまま引き算してもうまくいきません。
そこで施行法では以下の規定を設けています(先ほどの再掲です)
(障害等級等)
労働者災害補償保険法施行規則
第十四条
5 既に身体障害のあつた者が、負傷又は疾病により同一の部位について障害の程度を加重した場合における当該事由に係る障害補償給付は、現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付とし、その額は、現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付の額から、既にあつた身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付の額(現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付が障害補償年金であつて、既にあつた身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付が障害補償一時金である場合には、その障害補償一時金の額(当該障害補償年金を支給すべき場合において、法第八条の三第二項において準用する法第八条の二第二項各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める額を法第八条の四の給付基礎日額として算定した既にあつた身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償一時金の額)を二十五で除して得た額)を差し引いた額による。
つまり、
・既に身体障害がある場合で【この身体障害を理由とする障害補償給付をAとします】→<一時金>
・同一の部位に障害の程度を加重した場合【こちらをBとします→<年金>】
あとから加重した方の障害補償給付の額は
B<年金> ー A<一時金>÷25 = C【調整後のあとから加重した方の障害補償給付】
と調整します。
ということで、ようやく本問の事例を検討します。
上記の式に当てはめてみたいと思います。
・既に身体障害がある場合で【この身体障害を理由とする障害補償給付をAとします】→<一時金>
→第 8 級の 6(給付基礎日額の 503 日分)
・同一の部位に障害の程度を加重した場合【こちらをBとします→<年金>】
→第 5 級の 2(当該障害の存する期間 1 年につき給付基礎日額の 184 日分)
あとから加重した方の障害補償給付の額は
B<年金:184日分> ー A<一時金:503>÷25
= 184 ー 20.12
= 163.88:C【調整後のあとから加重した方の障害補償給付】
となります。
考え方としては、「本当ならば184日分の年金となるところ、そのうち20.18日分は既に一時金として支給しているから、その分は差し引きますね」という感じでしょうか。
以上から、正答は「A]となります。