社会保険労務士試験【雇用保険法/徴収法】<令和3年第7問>

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育児休業給付に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。なお、本問の被保険者には、短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を含めないものとする。

雇用保険法/徴収法 令和3年第7問 A

特別養子縁組の成立のための監護期間に係る育児休業給付金の支給につき、家庭裁判所において特別養子縁組の成立を認めない審判が行われた場合には、家庭裁判所に対して特別養子縁組を成立させるための請求を再度行わない限り、その決定日の前日までが育児休業給付金の支給対象となる。

解答の根拠

行政手引59543

根拠となる行政手引を確認します。

59543 (3)支給要件の確認
ハ 特別養子縁組の成立のための監護期間に係る育児休業給付金の支給については、家庭裁判所において特別養子縁組の成立を認めない審判が行われた場合、その決定日の前日までが対象となる。

雇用保険に関する業務取扱要領(平成29年1月1日前版)

問題文の内容と、上記行政手引の内容が一致しています。

…と、ここで終わり、としても良いのですが、この問題を真に理解するためには、少し特別養子縁組の制度の知識も必要です。

あまり詳しい内容は社労士試験の範囲外となるために、必要な部分に絞って以下のとおり解説します。

特別養子縁組が成立するためには家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所の審判を経る必要があります。

その審判を待つ間は「監護期間」と呼ばれ、親として当該子を育てることができるかどうかを判断する「見極め期間」の意味を持ちます。

この「監護期間」は、見極め期間である以上、数日や数週間という短期間ではなく、一般的には最低でも「6か月」は必要とされているようです。

その監護期間中は、例えば共働き夫婦であれば、戸籍上の親子ではないため、従来の制度では育児休業を取得することができずに、夫婦のどちらかが育児のために会社を辞めなければいけませんでした。

そこで、それはあまりにも…ということで、法改正が入り、上記の監護期間中でも育児休業の取得やその育児休業の取得を条件とした育児休業給付の受給が認められるようになりました。

その後の家庭裁判所の審判により特別養子縁組が成立となれば、その時点から戸籍上の実親子となります。

しかし、仮に成立を認めない結果となった場合は、その時点で育児休業の取得もできなくなり、結果育児休業給付がストップする…つまり「その決定日の前日までが育児休業給付金の支給対象」となります。

本肢は○となり、本問の正解となります。

雇用保険法/徴収法 令和3年第7問 B

休業開始時賃金日額は、その雇用する被保険者に育児休業を開始した日前の賃金締切日からその前の賃金締切日翌日までの間に賃金支払基礎日数が11日以上ある場合、支払われた賃金の総額を30で除して得た額で算定される。

解答の根拠

行政手引59524

根拠となる行政手引を確認します。

59524 (4)休業開始時賃金日額の算定
イ 休業開始時賃金日額の算定に当たっては、基本手当の場合と同様に賃金締切日の翌日から次の賃金締切日までの間を1か月として算定し、当該1か月間に賃金支払基礎日数が 11 日以上ある月を完全な賃金月として、休業開始時点から遡って直近の完全な賃金月6か月の間にわれた賃金の総額を 180 で除して得た額を算定することとする

雇用保険に関する業務取扱要領

今回の問題文は、いかにもありそうな架空のルールを作って惑わそうとしていますね。

育児休業が絡むと、特別な計算式になるのかな…と疑心暗鬼になってしまいます。

このようなときこそ、「確実な基礎」が後ろ盾となって、正解に導いてくれます。

上記の行政手引の記載のとおり、休業開始時賃金日額の計算方法としては以下の通りになります。

●休業開始時賃金日額の計算方法
・休業開始時を起算として
・賃金支払い基礎に数が11日以上ある月(完全な賃金月)を直近6か月さかのぼり
・その期間に支払われた賃金を180で除する

本肢は×です。

【法改正】

なお、ご存じの通り、育児介護休業法は令和5年に改正が入っています。

育児休業も分割取得が可能となったので、本肢の中にある「育児休業」については、分割取得をした場合は最初(1回目)の育児休業のことを指すことにご注意ください。

雇用保険法/徴収法 令和3年第7問 C

育児休業をした被保険者に当該被保険者を雇用している事業主から支給単位期間に賃金が支払われた場合において、当該賃金の額が休業開始時賃金日額に支給日数を乗じて得た額の100分の50に相当する額であるときは、育児休業給付金が支給されない。

解答の根拠

法61条の7第7項

根拠となる条文を確認します。

法61条の7
 前項の規定にかかわらず、育児休業をした被保険者に当該被保険者を雇用している事業主から支給単位期間に賃金が支払われた場合において、当該賃金の額に当該支給単位期間における育児休業給付金の額を加えて得た額が休業開始時賃金日額に支給日数を乗じて得た額の百分の八十に相当する額以上であるときは、休業開始時賃金日額に支給日数を乗じて得た額の百分の八十に相当する額から当該賃金の額を減じて得た額を、当該支給単位期間における育児休業給付金の額とする。この場合において、当該賃金の額が休業開始時賃金日額に支給日数を乗じて得た額の百分の八十に相当する額以上であるときは、第一項の規定にかかわらず、当該賃金が支払われた支給単位期間については、育児休業給付金は、支給しない

雇用保険法

育児休業を取得し、育児休業給付金を受給している際に、事業主から何らかの名目で賃金を受けている場合は、育児休業給付金が調整される、という話です。

その際の基準となるのが「100分の80」という水準。

事業主からの賃金が、休業開始時賃金日額に支給日数を乗じた額の「100分の80」以上の時は、育児休業給付金がストップされます。

また、問題から少し外れますが、上記根拠条文の前半部分にあるように、当該賃金の額が、休業開始時賃金日額に支給日数を乗じた額の「100分の80」未満であったとしても減額調整が入り、当該賃金と減額調整された育児休業給付金の合計額が、休業開始時賃金日額に支給日数を乗じた額の「100分の80」を超えないように調整されます。

ちなみに、「育児休業している間って無給じゃないの?事業主から賃金が支給されるって、働いていないのにどういうこと?」と疑問を持つ方もいらっしゃると思います。

例えば、企業の中には(主に男性を意識した施策となりますが)育児休業の一定の期間を対象に独自に有給扱いの休業としているケースがあります。

育児休業が取りづらい理由の一つに、「休業中に無給になる」点があります。

例えば、妻(母)が専業主婦の場合、夫(父)が育児休業を取得すると、家計全体が無給となってしまいます。

そこで、育児休業給付金の出番ですが、どうしても100%の補償でないため、それでも取得を躊躇する方も多い…。

ということで、企業が独自に有給にして取得推進しているケースがあるのですね。

ただし、本問のように、さすがに企業側で100%(厳密には100分の80以上)の賃金を保証してくれている育児休業期間については、公的な育児休業給付金の支給はストップしますよ、となります。

本肢は×です。

雇用保険法/徴収法 令和3年第7問 D

男性が配偶者の出産予定日から育児休業を取得する場合、配偶者の出産日から8週間を経過した日から対象育児休業となる。

解答の根拠

行政手引59503-2

根拠となる行政手引を確認します。

59503-2 (3-2)育児休業給付金の支給対象となる休業
<中略>
なお、男性が本体育児休業を取得する場合は、配偶者の出産予定日又は本体育児休業の申出に係る子の出生日のいずれか早い日から対象本体育児休業とすることができる。

雇用保険に関する業務取扱要領

当たり前ですが、男性には「産前休業・産後休業」はありません。

ということは、「産後8週間」ということを気にする必要はありません。

男性には「出産」という行為はなく、妻が出産をした瞬間から「育児」がスタートしますので、その時点から育休開始となります。

なお、上記の行政手引の引用部分に「本体育児休業」という言葉が出てきます。

こちらは、令和5年の育児介護休業法の改正により創設された「出生時育児休業」と区別するために、従来からの長期取得を想定している「育児休業」のことを「本体育児休業」と呼んでいるようです。

個人的には「本体」って…出生時育休は本体ではないオマケ?と思ってしまいますが、何とか表現しようとした結果なのだろうと思慮します。

本問においては「本体」という言葉はあまり気にせず、男性の育休は
・配偶者の出産予定日
・育休の対象となる子の出生日
の早い方から育児休業とすることができる、と覚えておきましょう。

例えば、出産予定日よりも早く生まれれば、その時点から育児休業を取得することができますし、逆に出産予定日よりも遅く生まれた場合は、当初の出産予定日から育児休業を取得することができます。

要は、取得しようとしている方に有利(なるべく早い時期に育児休業を取得することができるようにする)なルールにしているわけですね。

本肢は×です。

雇用保険法/徴収法 令和3年第7問 E

対象育児休業を行った労働者が当該対象育児休業終了後に配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)が死亡したことによって再度同一の子について育児休業を取得した場合、子が満1歳に達する日以前であっても、育児休業給付金の支給対象となることはない。

解答の根拠

行政手引59681

根拠となる行政手引を確認します。

59681 (1)対象育児休業であることの確認
イ 59503 イ(ロ)①~⑦<下記参照>に掲げる理由により、再度同一の子に係る対象育児休業を取得することができる。
ロ 当該理由により当該新たな休業が終了した場合、新たな休業に係る育児休業給付金の支給は、当該理由により休業を終了した日までとなるので、この理由を確認して、再度同一の係る対象育児休業を取得する場合には、支給申請期間の指定を行う

59503 イ(ロ)
配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。<略>)が死亡した場合

上記のように、「再度」対象となる旨が記載されています。

配偶者が主に当該子の養育をするために、もう片方の配偶者が育児休業を終了して復職した後に、その配偶者が亡くなってしまった場合、復職した方の配偶者が最後育児休業を取得して当該子の養育をする必要がありますよね。

その場合には、育児休業も取得できますし、その他の要件に当てはまれば育児休業給付金を再度受給できるようになります。

本肢は×です。

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