労働基準法に定める労働時間等に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
労働基準法 令和3年第5問 A
令和3年4月1日から令和4年3月31日までを有効期間とする書面による時間外及び休日労働に関する協定を締結し、これを令和3年4月9日に厚生労働省令で定めるところにより所轄労働基準監督署長に届け出た場合、令和3年4月1日から令和3年4月8日までに行われた法定労働時間を超える労働は、適法なものとはならない。
法36条第1項
36協定は、協定を締結するだけでなく、その協定を行政官庁(労働基準監督署)に届け出て初めて有効となります。ということは、設問のように、たとえ協定上で有効期限の開始日を定めておいたとしても、届け出した日がその開始日よりもあとであれば、届け出した時点から有効となります。
この点について、私も苦い思い出があります。
一生懸命作った36協定…。従業員代表者との協議も済み、意気揚々と協定開始日前日に労働基準監督署に持ち込み届け出をしようとしました。
通常、労働基準監督署に36協定等の届け出を行うと、必要事項が漏れなく整っているかを担当の方が確認したうえで、受理印を押印していただいて届出完了!となります。
私がその届け出を行おうとした際に、なんと!不備が見つかってしまいました…。
単なる記入漏れなのでその場でこっそり書き足しちゃえ!と思いましたが、それを見ていた担当の方が「追記することで協定内容が変わっていますので、その変更後の協定内容で良いか、もう一度従業員代表が確認しないといけません」となり、その場で受理してもらえませんでした…。
「記載内容に大して影響ない修正でもダメなのか…。従業員代表に聞いたら『いいっすよ~』と秒殺で終わることなのに…」と心の中でブツブツつぶやいていましたが、目の前の担当の方は頑として受け付けてくれる雰囲気がありません。
泣く泣く会社に戻ると、あいにく従業員代表は明日まで帰らない…とのことで、協定開始日1日遅れで翌日に改めて届け出ることとなりました。
そうすると(労働基準監督署によって対応が変わると思いますが)、受理印とは別に「本協定は届出日以降に有効」という、なんともつれないハンコも押されてしまいました…。
その経験から、36協定を届け出る際は余裕を持つようになったことは言うまでもありません。
この肢は○です。
労働基準法 令和3年第5問 B
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、1か月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が労働基準法第32条第1項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第2項の労働時間を超えて、労働させることができるが、この協定の効力は、所轄労働基準監督署長に届け出ることにより認められる。
法32条の2
こちらの設問のポイントは、「当該労使協定の効力が、締結するだけで認められるのか、労働基準監督署に届けないと認められないのか」となります。
良い機会なので、このポイントについて整理をしておきましょう。
労働基準監督署への届出が必要な労使協定 | 労働基準監督署への届出が不要な労使協定 |
・ 労働者の貯蓄金の管理に関する労使協定 ・ 1ヶ月単位の変形労働時間制に関する労使協定 (ただし就業規則で定め、届け出ている場合は不要) ・ 1年単位の変形労働時間制に関する労使協定 ・ 1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する労使協定 ・ 時間外労働、休日労働に関する労使協定 (届け出て初めて効力が発生する) ・ 事業所外労働のみなし労働時間制に関する労使協定 ・ 専門業務型裁量労働制に関する労使協定 | ・ 賃金から法定控除以外の控除を行う場合 ・ フレックスタイム制に関する労使協定 (清算期間が1か月を超えない場合) ・ 休憩の一斉付与の例外 ・ 年次有給休暇の時間単位での付与 ・ 年次有給休暇の計画的付与 ・ 年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合 ・ 育児休業、看護休暇及び介護休業が出来ない者の範囲 |
覚え方のコツは以下の通りです。
①まず赤マーカーを引いた「時間外労働、休日労働に関する労使協定」は「King of 労使協定」のイメージを持ってください。法の中でも特に重要な内容なので、「届け出ないと効力すら発揮しない」という一番の力を持っています。
②次に、表の左側の「届け出が必要な労使協定」を覚えましょう。カテゴライズすると、
・変形労働時間制関連(1週間・1ヶ月・1年)
・みなし関連(事業場外みなし・専門業務型)
・おまけで貯蓄
という感じです。
労働時間に関する協定は重要→届出義務がある…というイメージですね。
③最後、表の左側は覚えられればベストですが、試験対策上は「覚えない」という判断も。義務があるものを覚えておけば、それらに当てはまらないもの…と差分で判断できると思います。
さて、設問に戻りますと、今回は「効力」という言葉が出てきており、これは「King of 労使協定」の36協定のみに当てはまることなので、誤りだと判断できます。
この肢は×です。
労働基準法 令和3年第5問 C
労働基準法第33条では、災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、所轄労働基準監督署長の許可を受けて、その必要の限度において同法第32条から第32条の5まで又は第40条の労働時間を延長し、労働させることができる旨規定されているが、満18才に満たない者については、同法第33条の規定は適用されない。
法60条第1項 / 法33条
まずは条文を確認しましょう。
(労働時間及び休日)
労働基準法
第六十条 第三十二条の二から第三十二条の五まで、第三十六条、第四十条及び第四十一条の二の規定は、満十八才に満たない者については、これを適用しない。
この「適用しない」としている条文の中に、設問にある「法33条(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)」が入っていないため、「適用される」となります。
念のため、適用しない制度として掲げられている条文を確認しておきましょう。
・ 1か月単位の変形労働時間制(法32条の2)
・ フレックスタイム制(法32条の3)
・ 1年単位の変形労働時間制(法32条の4)
・ 1週間単位の非定型的変形労働時間制(法32条の5)
・ 36協定による時間外・休日労働(法36条)
・ 労働時間及び休憩の特例(法40条)
・ 特定高度専門業務・成果型労働制(法41条の2)
この肢は×です。
労働基準法 令和3年第5問 D
労働基準法第32条又は第40条に定める労働時間の規定は、事業の種類にかかわらず監督又は管理の地位にある者には適用されないが、当該者が妊産婦であって、前記の労働時間に関する規定を適用するよう当該者から請求があった場合は、当該請求のあった規定については適用される。
法41条第2項 / 法66条第2項 / S61.3.20.基発151号婦発69号
いわゆる管理監督者と、妊産婦に対する各種制限がバッティングした場合、どちらのルールが優先するか、という論点になります。
「管理監督者だって妊産婦になれば、あまり働かせてはいけないんじゃないの?」と普通は考えますよね。
しかし、管理監督者の立場であるということは、「労働時間・休憩・休日の概念がそもそもない」ということになります。
よく、過去問解説で「管理監督者でも時間外労働・休日労働をさせることができる」との記載を見かけますが、個人的には「時間外労働・休日労働の概念がないのだから、そもそもさせる・させないの話ではない」と思っています。
例えば、女性社長が妊娠し、「身体がキツイから、私あまり働けないの」と社員に伝えたとして、「どうぞ好き勝手にお休みください」となりますよね(実際、そんな冷たい言い方はしないと思いますが…)
そうイメージできればすぐに×と判断できますが、実際我々の身近にいる「管理監督者」は、必ずしも法の趣旨に合致した場合だけではないこともあるので、「ちゃんと制限してあげないと…」と思ってしまうのだと思います。
念のため、関連通達も確認しておきましょう。
妊産婦のうち、労働基準法第41条に該当する者については、労働時間に関する規定が適用されないため、労働基準法第66条第1項及び第2項の規定は適用の余地がないが、第3項の規定は適用され、これらの者が請求した場合にはその範囲で深夜業が制限されるものであること。
S61.3.20.基発151号婦発69号
おっと! 深夜業は管理監督者でも制限されますね。これは要注意です!
割増賃金についても、深夜割増は管理監督者も対象となりますので、セットで覚えておきましょう!
本肢は×となります。
労働基準法 令和3年第5問 E
労働基準法第32条の3に定めるいわゆるフレックスタイム制を導入している場合の同法第36条による時間外労働に関する協定における1日の延長時間については、1日8時間を超えて行われる労働時間のうち最も長い時間数を定めなければならない。
法32条の3 / H30.12.128.基発1228号第15号
正攻法としては、根拠通達を押さえておくことになります。
1日について延長することができる時間を協定する必要はなく、1箇月及び1年について協定すれば足りる。
平成30年12月28日基発1228第15号 答2
この通達から、フレックスタイム制度導入している場合の36協定については、「1日について延長することができる時間を協定する必要はない」となり、×であることがわかります。
では、もしこの通達を知らなかった場合はどうしたらよいか。
「そもそもフレックスタイム制度って、目的趣旨はなんだったっけ?」と考えてみましょう。
もちろんですが、その名のごとく「勤務を柔軟にする」…最長3ヶ月の清算期間単位で労働時間をとらえる…と考えると、1日単位で時間外労働を考える必要はないことがわかります。
ということは、もちろん36協定で1日の延長時間について協定する必要もないことになりますね。
根拠条文・通達・判例が浮かばないときは、「この制度は何のために存在するのか」ということから考える…そのためには、日ごろの学習時から、単なる丸暗記や○・×だけを気にするのではなく、深く考察することが大切です。
時間はかかりますが、結果近道になると思いますし、合格後の実務でもその「深い考察」により身につけた知識が、教科書に載っていない未知の問題・課題に取り組む力を与えてくれます。
本肢は×となります。
以上のことから、正しい肢である「A」が本問の正解となります。