社会保険労務士試験【労働基準法】<令和3年第4問>

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労働基準法第 26 条(以下本問において「本条」という。)に定める休業手当に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

労働基準法 令和3年第4問 A

本条は、債権者の責に帰すべき事由によって債務を履行することができない場合、債務者は反対給付を受ける権利を失わないとする民法の一般原則では労働者の生活保障について不十分である事実にかんがみ、強行法規で平均賃金の100分の60までを保障しようとする趣旨の規定であるが、賃金債権を全額確保しうる民法の規定を排除する点において、労働者にとって不利なものになっている。

解答の根拠

法26条 / S22.12.15.基発502号

解説に入る前に、本問は「休業手当」に関する問題ですので、労働基準法の規定を確認しておきましょう。

(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

労働基準法

本肢には、「債務の履行」「反対給付」「強行法規」など、法律用語がたくさん出てきますね。

まずは、正攻法…英文を日本文に翻訳するようなイメージでだらだら解説します。

・債権者の責に帰すべき事由によって債務を履行することができない場合
→使用者側に原因があって、労働者が働けない事情がある場合…例えば、製造業で材料がなく製品が作れない!とか。

・債務者は反対給付を受ける権利を失わないとする民法の一般原則では労働者の生活保障について不十分である事実にかんがみ
→「労働者はお給料をもらえる権利を失わない」とする民法のルールだけだと、労働者の生活保障の観点で不十分である…例えば民法のルールだけだと、保障の程度について裁判で争わないと使用者が納得しない…というようなケースもあるかもしれない。

・強行法規で平均賃金の100分の60までを保障しようとする趣旨の規定
→であれば、労働基準法で、「一律60%保障してあげて!」と定めることで、明確かつスムーズに労働者の保障が実現できるよね

・賃金債権を全額確保しうる民法の規定を排除する点において、労働者にとって不利なものになっている。
→でも、労働基準法で60%でいいよ!と言ってしまったら、民法で100%保障の余地があるのに、それを否定していることにならない?60%で満足してね、という意味なの?それって労働者にとって不利なんじゃない?

となります。

この論点に対しては、通達が以下のように整理しています。

本条は民法の一般原則が労働者の最低生活保障について不十分である事実に鑑み、強行法規で平均賃金の100分の60までを保障せんとする趣旨であって、民法536条2項の規定を排除するものではない

S22.12.15.基発502号

つまり、「労働基準法で60%保障と言っているけど、残りの40%について民法を理由に使用者と争うことを禁止している意味ではないよ」ということになります。

ただ、このような正攻法で解答を導き出さなくても、「はたして労働基準法が労働者に不利となる規定をするだろうか?するわけないよね?」と思っていただければ、もしかしたら瞬殺の肢かもしれません。

この肢は×です。

労働基準法 令和3年第4問 B

使用者が本条によって休業手当を支払わなければならないのは、使用者の責に帰すべき事由によって休業した日から休業した最終の日までであり、その期間における労働基準法第35条の休日及び労働協約、就業規則又は労働契約によって定められた同法第35条によらない休日を含むものと解されている。

解答の根拠

法26条 / S24.3.22.基収4077号

「休業手当」は、その名称のごとく、「休業」に対する「手当」です。

そして、「休業」は、もちろん「業務日」・「営業日」が対象です。

「業を休む」わけですから、もともと「業がない」休日に「休業」することはできません。

このように考えると、「休日を含むものとされている」としている本問は正しくないことがわかります。

この肢は×です。

労働基準法 令和3年第4問 C

就業規則で「会社の業務の都合によって必要と認めたときは本人を休職扱いとすることがある」と規定し、更に当該休職者に対しその休職期間中の賃金は月額の2分の1を支給する旨規定することは違法ではないので、その規定に従って賃金を支給する限りにおいては、使用者に本条の休業手当の支払義務は生じない。

解答の根拠

法26条 / S23.7.12.基発1031号

本肢は、冷静に読んでいただいて「あれ?おかしいぞ」と思ってほしいと思います。

どの点が「おかしい」のか。

「労働基準法で休業手当は60%としているのに、就業規則で勝手に50%にすることは違法ではない???」という点です。

もちろん、法の内容に反する規定を就業規則で定めることは違法です。

これで本肢についてはおしまい!としても良いのですが、さらに突っ込んで「法令と就業規則の力関係」に関する根拠条文についてもおさらいしておきましょう。

(法令及び労働協約との関係)
第九十二条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。

労働基準法

この肢は×です。

労働基準法 令和3年第4問 D

親会社からのみ資材資金の供給を受けて事業を営む下請工場において、現下の経済情勢から親会社自体が経営難のため資材資金の獲得に支障を来し、下請工場が所要の供給を受けることができず、しかも他よりの獲得もできないため休業した場合、その事由は本条の「使用者の責に帰すべき事由」とはならない。

解答の根拠

法26条 / S23.6.11.基収1998号

本肢の内容は社労士試験頻出の論点です。

「使用者の責」という表現からすると、使用者がさぼったから、使用者が判断を誤ったから、使用者に能力が足りなかったら…と、その言葉通り「使用者に何かしら原因がある」と考えてしまいます。

そのため、今回の設問のように「経済情勢」や、「親会社自体が経営難」など、使用者に直接的な責任がなさそうな事情だと、「これは使用者の責としてしまうのは酷だろう…」と思う方も多いでしょう。

ですが、労働基準法は誰と誰の間に適用される法律か…そうですね、使用者と労働者」の間の問題に関する法律であることを思い出してみましょう。

そうすると、「経済情勢」や「親会社自体が経営難」というのは、「使用者」か「労働者」、敢えて言えばどちら側のテーマか…と言われれば、「労働者ではないよね…」となりますよね。

VUCAの時代、数年・数か月の情勢の変化も見通しが立たない時代ですが、使用者にはそのような時代でも労働者を、そして自分の会社を守っていく力や先見性などを身に着ける必要がありますね。

本肢は×となります。

労働基準法 令和3年第4問 E

新規学卒者のいわゆる採用内定について、就労の始期が確定し、一定の事由による解約権を留保した労働契約が成立したとみられる場合、企業の都合によって就業の始期を繰り下げる、いわゆる自宅待機の措置をとるときは、その繰り下げられた期間について、本条に定める休業手当を支給すべきものと解されている。

解答の根拠

法26条 / S63.3.14.基発150号

この肢の状況こそ、まさに「That’s 使用者の責」という感じですね。

詳しい事情は書いていませんが、「会社の都合によって」と直球で書かれており、新規学卒者には何の落ち度もありませんので、その分の手当はしなければなりません。

ここで実務の話を少し。

新型コロナウィルスが日本で蔓延し始めたのは2020年1月ごろですが、ちょうどその年の4月に入社する新規学卒者対応に、人事部員である私は追われていました。

会社としても初めて遭遇する「新型コロナウィルス」という脅威…取り急ぎオンラインでの新人研修や配属に向けての体制の整備を急ピッチで整えた記憶があります。

当時の入社者には多大な迷惑をかけ、とても不安な気持ちにさせてしまったな…と今でも時々思い出しては反省をしております。

余談でした。

本肢は○となります。

以上のことから、正しい肢である「E」が本問の正解となります。

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