費用の負担に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(試験問題修正のため、誤りが2つあります)
健康保険法 令和4年第10問 A
3月31日に会社を退職し、翌日に健康保険の被保険者資格を喪失した者が、4月20日に任意継続被保険者の資格取得届を提出すると同時に、4月分から翌年3月分までの保険料をまとめて前納することを申し出た。この場合、4月分は前納保険料の対象とならないが、5月分から翌年の3月分までの保険料は、4月末日までに払い込むことで、前納に係る期間の各月の保険料の額の合計額から、その期間の各月の保険料の額を年4分の利率による複利現価法によって前納に係る期間の最初の月から当該各月までのそれぞれの期間に応じて割り引いた額の合計額(この額に1円未満の端数がある場合において、その端数金額が50銭未満であるときは、これを切り捨て、その端数金額が50銭以上であるときは、これを1円として計算する)を控除した額となる。
法165条第1項・第2項 / 令第49条
根拠条文を確認します。
(任意継続被保険者の保険料の前納)
健康保険法
第百六十五条 任意継続被保険者は、将来の一定期間の保険料を前納することができる。
2 前項の場合において前納すべき額は、当該期間の各月の保険料の額から政令で定める額を控除した額とする。
(前納の際の控除額)
健康保険法施行令
第四十九条 法第百六十五条第二項の政令で定める額は、前納に係る期間の各月の保険料の合計額から、その期間の各月の保険料の額を年四分の利率による複利現価法によって前納に係る期間の最初の月から当該各月までのそれぞれの期間に応じて割り引いた額の合計額(この額に一円未満の端数がある場合において、その端数金額が五十銭未満であるときは、これを切り捨て、その端数金額が五十銭以上であるときは、これを一円として計算する。)を控除した額とする。
本肢は、「任意継続被保険者の保険料の前納」に関する問題です。
もともと正解肢として作られていた問題のため、誤りの理由は非常に細かい論点となります。
誤りの箇所は最後の「控除」の部分になります。
●法165条第2項…前納額は各月の保険料額から政令で定める額を控除
●令第49条…「政令で定める額」とは、元々の保険料から福利原価法で割り引いた額を控除
となっています。
まとめると…
元々の保険料から政令で定める額(元々の保険料から福利原価法で割り引いた額を控除)を控除
と、2回「控除」という言葉が出てくることがわかります。
問題文はもう少し正確に記載する必要があったわけですね。
本肢は×です(試験時は○の想定での出題でしたが、その後本肢も×との修正あり)。
健康保険法 令和4年第10問 B
6月25日に40歳に到達する被保険者に対し、6月10日に通貨をもって夏季賞与を支払った場合、当該標準賞与額から被保険者が負担すべき一般保険料額とともに介護保険料額を控除することができる。
法167条2項
根拠条文を確認します。
(保険料の源泉控除)
健康保険法
第百六十七条
2 事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。
本肢は、「賞与からの介護保険料の控除」に関する問題です。
問題文では
・6/10…賞与支給
・6/25…40歳に到達
とあります。
「40歳に到達する前に支給された賞与から、介護保険料を控除して良いのかな」というのが論点です。
しかし、保険料は「月単位」で徴収されることに気づけば、同月中の到来日の前後は関係ない…と判断できると思います。
本肢は○です。
健康保険法 令和4年第10問 C
4月1日にA社に入社し、全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者資格を取得した被保険者Xが、4月15日に退職し被保険者資格を喪失した。この場合、同月得喪に該当し、A社は、被保険者Xに支払う報酬から4月分としての一般保険料額を控除する。その後、Xは4月16日にB社に就職し、再び全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者資格を取得し、5月以降も継続して被保険者である場合、B社は、当該被保険者Xに支払う報酬から4月分の一般保険料額を控除するが、この場合、A社が徴収した一般保険料額は被保険者Xに返還されることはない。
昭和19年6月6日保発363号
根拠通達を確認します。
同一月内において資格の得喪2回以上に及ぶ場合は、1ヶ月につき2ヶ月分以上の保険料を負担することがある。
昭和19年6月6日保発363号
本肢は、「同月得喪」に関する問題です。
時系列を整理すると…
・4/1…A社入社
・4/15…A社退社
・4/16…B社入社
となります。
この場合、A社社員として4月分の保険料が徴収されることが異論はないでしょう。
A社社員として控除された4月分の保険料に加え、B社社員としても4月分の保険料が徴収されてしまうのか、徴収された場合にA社社員として控除された4月分の保険料は返還されるのか、というのが論点になります。
この点については、上記根拠通達のとおり「1ヶ月につき2ヶ月分以上の保険料を負担することがある」とされています。
したがって、返還されることもないわけですね。
本肢は○です。
健康保険法 令和4年第10問 D
育児休業期間中に賞与が支払われた者が、育児休業期間中につき保険料免除の取扱いが行われている場合は、当該賞与に係る保険料が徴収されることはないが、標準賞与額として決定され、その年度における標準賞与額の累計額に含めなければならない。
従業員に賞与を支給したときの手続き(日本年金機構)
根拠を確認します。
4.留意事項
日本年金機構ホームページ
(8)育児休業等による保険料免除期間に支払われた賞与や資格喪失月に支払われた賞与(保険料賦課の対象とならない賞与)についても標準賞与額として決定し、年度の累計額に含めることになっています。そのため、同一年度内における協会けんぽ管掌の健康保険被保険者期間中に決定された標準賞与額の累計額が573万円を超えたことがわかった場合は、被保険者の申し出に基づき「健康保険 標準賞与額累計申出書」をご提出ください。
本肢は、「標準賞与額」に関する問題です。
法令には規定のない、運用上のルールとして、上記の通り育児休業等による保険料免除期間に賞与が支払われた場合は
・賞与にかかる保険料…免除
・標準賞与額…年度の累計に含める(加算する)
との取扱いになります。
本肢は○です。
健康保険法 令和4年第10問 E
日雇特例被保険者が、同日において、午前にA健康保険組合管掌健康保険の適用事業所で働き、午後に全国健康保険協会管掌健康保険の適用事業所で働いた。この場合の保険料の納付は、各適用事業所から受ける賃金額により、標準賃金日額を決定し、日雇特例被保険者が提出する日雇特例被保険者手帳に適用事業所ごとに健康保険印紙を貼り、これに消印して行われる。
法第125条第1項第6号 / 法第169条第2項・第3項
根拠条文を確認します。
(賃金日額)
第百二十五条 賃金日額は、次の各号によって算定する。
六 一日において二以上の事業所に使用される場合には、初めに使用される事業所から受ける賃金につき、前各号によって算定した額(日雇特例被保険者に係る保険料の負担及び納付義務)
健康保険法
第百六十九条
2 事業主(日雇特例被保険者が一日において二以上の事業所に使用される場合においては、初めにその者を使用する事業主。第四項から第六項まで、次条第一項及び第二項並びに第百七十一条において同じ。)は、日雇特例被保険者を使用する日ごとに、その者及び自己の負担すべきその日の標準賃金日額に係る保険料を納付する義務を負う。
3 前項の規定による保険料の納付は、日雇特例被保険者が提出する日雇特例被保険者手帳に健康保険印紙をはり、これに消印して行わなければならない。
本肢は「日雇特例被保険者の保険料」に関する問題です。
まず問題文の中の「標準賃金日額」から確認します。
日雇特例被保険者の賃金日額は、上記根拠条文(第125条第1項第6号)にあるとおり、「1日において2以上の事業所に使用される場合には、初めに使用される事業所から受ける賃金につき、前各号によって算定した額」とされています。
つまり、1日のうちにA事業所、B事業所…と複数の事業所で働いたとしても、賃金日額としてカウントするのは「初めに使用される事業所」…つまりA事業所から受ける賃金のみ、となります。
したがって、問題文にあるように「各適用事業所から受ける賃金額」というのは誤りになります。
また、事業主の保険料納付についても、「初めにその者を使用する事業主」が納付する義務を負うとされていますので、問題文にあるように「適用事業所ごとに健康保険印紙を貼り」というのも誤りになります。
本肢は×となり、本問の正解となります。