社会保険労務士試験【厚生年金保険法】<令和3年第10問>

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厚生年金保険法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

厚生年金保険法 令和3年第10問 A

20歳から30歳まで国民年金の第1号被保険者、30歳から60歳まで第2号厚生年金被保険者であった者が、60歳で第1号厚生年金被保険者となり、第1号厚生年金被保険者期間中に64歳で死亡した。当該被保険者の遺族が当該被保険者の死亡当時生計を維持されていた60歳の妻のみである場合、当該妻に支給される遺族厚生年金は、妻が別段の申出をしたときを除き、厚生年金保険法第58条第1項第4号に規定するいわゆる長期要件のみに該当する遺族厚生年金として年金額が算出される。

解答の根拠

法第58条第2項

根拠条文を確認します。

(受給権者)
第五十八条 遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であつた者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の遺族に支給する。ただし、第一号又は第二号に該当する場合にあつては、死亡した者につき、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは、この限りでない。
 被保険者(失踪の宣告を受けた被保険者であつた者であつて、行方不明となつた当時被保険者であつたものを含む。)が、死亡したとき。
 被保険者であつた者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であつた間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して五年を経過する日前に死亡したとき。
 障害等級の一級又は二級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が、死亡したとき。
 老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上である者に限る。)又は保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上である者が、死亡したとき。
 前項の場合において、死亡した被保険者又は被保険者であつた者が同項第一号から第三号までのいずれかに該当し、かつ、同項第四号にも該当するときは、その遺族が遺族厚生年金を請求したときに別段の申出をした場合を除き、同項第一号から第三号までのいずれかのみに該当し、同項第四号には該当しないものとみなす。

厚生年金保険法

本肢は「遺族厚生年金の短期要件・長期要件」に関する問題です。

遺族厚生年金には、短期要件と長期要件があります。

根拠条文として上記に引用した、法第58条第1項のうち
・第1号~第3号…短期要件
・第4号…長期要件

となりますので、この際ぜひ条文を読んで復習されると良いでしょう。

さて、ここから本題です。

問題文からは、
・30年間第2号の厚生年金被保険者→長期要件該当
・第1号被保険者で死亡→短期要件該当
と、長短両方の要件に該当していることがわかります。

この場合は、同じく根拠条文第58条の第2項(黄色マーカー部分)にあるとおり、「遺族が特段の申し出をしなければ、短期要件として取り扱う」とされています。

本肢は×です。

厚生年金保険法 令和3年第10問 B

第1号厚生年金被保険者期間中の60歳の時に業務上災害で負傷し、初診日から1年6か月が経過した際に傷病の症状が安定し、治療の効果が期待できない状態(治癒)になった。その障害状態において障害手当金の受給権を取得することができ、また、労災保険法に規定されている障害補償給付の受給権も取得することができた。この場合、両方の保険給付が支給される。

解答の根拠

法第56条第1項第3号

根拠条文を確認します。

第五十六条 前条の規定により障害の程度を定めるべき日において次の各号のいずれかに該当する者には、同条の規定にかかわらず、障害手当金を支給しない。
一・二(略)
 当該傷病について国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号。他の法律において準用する場合を含む。)、地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)若しくは同法に基づく条例、公立学校の学校医、学校歯科医及び学校薬剤師の公務災害補償に関する法律(昭和三十二年法律第百四十三号)若しくは労働基準法第七十七条の規定による障害補償、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)の規定による障害補償給付、複数事業労働者障害給付若しくは障害給付又は船員保険法による障害を支給事由とする給付を受ける権利を有する者

厚生年金保険法

本肢は、「障害手当金と労災の障害補償給付」に関する問題です。

いわゆる併給調整が絡みそうだな…と思った方は鋭いです。

上記根拠条文の黄色マーカー部分にある通り、「労災法による障害補償給付を受けることができる場合は障害手当金を支給しない」とあります。

本肢は×です。

厚生年金保険法 令和3年第10問 C

遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権を有する妻が、障害基礎年金と障害厚生年金の受給権を取得した。妻は、障害基礎年金と障害厚生年金を選択したため、遺族基礎年金と遺族厚生年金は全額支給停止となった。妻には生計を同じくする子がいるが、子の遺族基礎年金については、引き続き支給停止となるが、妻の遺族厚生年金が全額支給停止であることから、子の遺族厚生年金は支給停止が解除される。

解答の根拠

法第65の2・第66条・第67条

根拠条文を確認します。

第六十五条の二 夫、父母又は祖父母に対する遺族厚生年金は、受給権者が六十歳に達するまでの期間、その支給を停止する。ただし、夫に対する遺族厚生年金については、当該被保険者又は被保険者であつた者の死亡について、夫が国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有するときは、この限りでない。

第六十六条 子に対する遺族厚生年金は、配偶者が遺族厚生年金の受給権を有する期間、その支給を停止する。ただし、配偶者に対する遺族厚生年金が前条本文、次項本文又は次条の規定によりその支給を停止されている間は、この限りでない。
 配偶者に対する遺族厚生年金は、当該被保険者又は被保険者であつた者の死亡について、配偶者が国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有しない場合であつて子が当該遺族基礎年金の受給権を有するときは、その間、その支給を停止する。ただし、子に対する遺族厚生年金が次条の規定によりその支給を停止されている間は、この限りでない

第六十七条 配偶者又は子に対する遺族厚生年金は、その配偶者又は子の所在が一年以上明らかでないときは、遺族厚生年金の受給権を有する子又は配偶者の申請によつて、その所在が明らかでなくなつた時にさかのぼつて、その支給を停止する。

厚生年金保険法

本肢は、「遺族厚生年金の支給停止」に関する問題です。

まず、上記根拠条文の第66条第1項にあるとおり、子に対する遺族厚生年金は「配偶者が遺族厚生年金の受給権を有する期間」は支給停止となるのが原則です。

次に、但し書きとして、原則に対する例外が以下のように規定されています。

①年齢要件で支給停止となっている場合(第65条の2)
②子だけが遺族基礎年金の受給権を有する場合(第66条第2項)
③配偶者の所在が1年以上明らかでないとき(第67条第1項)

問題文を読む限りでは、上記例外事由に該当しそうな記載はありません。

本肢は×です。

厚生年金保険法 令和3年第10問 D

平成13年4月から平成23年3月までの10年間婚姻関係であった夫婦が平成23年3月に離婚が成立し、その後事実上の婚姻関係を平成23年4月から令和3年3月までの10年間続けていたが、令和3年4月2日に事実上の婚姻関係を解消することになった。事実上の婚姻関係を解消することになった時点において、平成13年4月から平成23年3月までの期間についての厚生年金保険法第78条の2に規定するいわゆる合意分割の請求を行うことはできない。なお、平成13年4月から平成23年3月までの期間においては、夫婦共に第1号厚生年金被保険者であったものとし、平成23年4月から令和3年3月までの期間においては、夫は第1号厚生年金被保険者、妻は国民年金の第3号被保険者であったものとする。

解答の根拠

法第78条の2第1項 / 則第78条の2第2項

根拠条文を確認します。

(対象期間)
第七十八条の二
 婚姻が成立した日前から婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあつた当事者について、当該当事者が婚姻の届出をしたことにより当該事情が解消し、前項第一号又は第二号に掲げる場合に該当した場合における対象期間は、同項本文の規定にかかわらず、同項第一号又は第二号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める期間と事実婚第三号被保険者期間を通算した期間とする。

厚生年金保険法施行規則

問題文が長いので、まずは時系列を整理したいと思います。

①平成13年4月~平成23年3月(10年間)
・(法律上の)婚姻関係状態
・夫婦ともに第1号厚生年金被保険者
②平成23年4月~令和3年3月(10年間)
・(事実上の)婚姻関係状態
・夫:第1号厚生年金被保険者・妻:国民年金第3号被保険者
③令和3年4月2日
・(事実上の)婚姻関係解消

そして、問題文で問われているのは、上記①の期間について合意分割ができるか否か、となります。

ここで上記根拠条文を確認ください。

事実婚→婚姻の届出(法律婚)→被保険者期間を通算する

と規定されています。

逆を言えば、本問のように、

法律婚→離婚成立→事実婚

の場合は、期間の通算とはならないわけですね

そのため、合意分割の請求期限は「離婚等をした日の翌日から2年以内」とされていますので、事実婚の間にその期限がとっくに過ぎてしまっています。

結果、合意分割の請求ができないことになります。

本肢は○となり、本問の正解となります。

厚生年金保険法 令和3年第10問 E

第1号厚生年金被保険者が死亡したことにより、当該被保険者の母が遺族厚生年金の受給権者となった。その後、当該母に事実上の婚姻関係にある配偶者が生じた場合でも、当該母は、自身の老齢基礎年金と当該遺族厚生年金の両方を受給することができる。

解答の根拠

法第63条第1項第2号

根拠条文を確認します。

(失権)
第六十三条 遺族厚生年金の受給権は、受給権者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。
 死亡したとき。
 婚姻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)をしたとき。
(以下略)

厚生年金保険法

本肢は、「遺族厚生年金の失権」に関する問題です。

問題文には「当該母に事実上の婚姻関係にある配偶者が生じた場合」に受給中の遺族厚生年金が失権するか否かがポイントです。

上記根拠条文の通り、失権事由の一つに「婚姻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)をしたとき。」とあり、事実婚の状態に至った場合でも失権することがわかります。

したがって、本肢の場合は「失権する」となりますね。

本肢は×です。

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