労働基準法に定める賃金等に関する次の記述のうち、誤っているものはいくつあるか。
A 一つ B 二つ C 三つ D 四つ E 五つ
労働基準法 令和4年第6問 ア
通貨以外のもので支払われる賃金も、原則として労働基準法第12条に定める平均賃金等の算定基礎に含まれるため、法令に別段の定めがある場合のほかは、労働協約で評価額を定めておかなければならない。
則第2条第2項
根拠条文を確認します。
第二条 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号。以下「法」という。)第十二条第五項の規定により、賃金の総額に算入すべきものは、法第二十四条第一項ただし書の規定による法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のものとする。
労働基準法施行規則
② 前項の通貨以外のものの評価額は、法令に別段の定がある場合の外、労働協約に定めなければならない。
本肢は、「賃金五原則(通貨払い)」に関する問題です。
平均賃金の問題かな…と思いきや、本質的には、その平均賃金の算定基礎に含む「通貨以外のもので支払われる賃金」の話になります。
通貨以外のものの評価額は、もちろん「お金」というわかりやすい尺度ではなく「もの」である以上、その「もの」の価値は、人によって、場所によって、タイミングによって…といろいろな要素で変わります。
なので、あらかじめ、労働協約で労使合意の上でその「もの」の評価額を定めておかなければならない…と施行規則に規定されています。
そして、この「通貨以外のもので支払われる賃金」も、原則として平均賃金等の算定基礎に含めないと、労働者にとって不利になりますので、上記労働協約の定めに従って価値を評価したうえで、含める必要があるわけですね。
本肢は○です。
労働基準法 令和4年第6問 イ
賃金の支払期限について、必ずしもある月の労働に対する賃金をその月中に支払うことを要せず、不当に長い期間でない限り、賃金の締切後ある程度の期間を経てから支払う定めをすることも差し支えない。
法第24条第2項
根拠条文を確認します。
(賃金の支払)
労働基準法
第二十四条
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
本肢は、「賃金五原則(毎月1回払い)」に関する問題です。
全額払いの原則か、毎月一回払いの原則か…その両者に関係しそうな問題です。
例えば、「残業代の支払い」をイメージしてみましょう。
賃金計算期間が、毎月1日~月末の会社の場合、月末に労働時間を締めてそこから残業代を計算します。
本来ならば、当月に働いた分は当月に支払う…とできればよいですが、さすがに月末に締めてその日にすぐに残業代を計算して支払う…ということは無理ですよね。
多くの企業は、固定的な基本給は当月に支払い、当月の残業代は翌月に支払う、としていると思います。
でも、一定の計算期間が必要な以上は、残業代は翌月払い…でも仕方ありませんよね。
これが、1月の残業代が6月に支払われる…だと問題なので「ある程度の期間」としていますが、常識的な範囲であれば、多少時間が経ってからの支払いも許容される…という趣旨の問題になります。
本肢は○です。
労働基準法 令和4年第6問 ウ
労働基準法第25条により労働者が非常時払を請求しうる事由の1つである「疾病」とは、業務上の疾病、負傷であると業務外のいわゆる私傷病であるとを問わない。
法第25条
根拠条文を確認します。
(非常時払)
労働基準法
第二十五条 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。
本肢は、「非常時払い」に関する問題です。
非常時払いの根拠は、上記にある通り、法第25条に規定されています。
この条文には、単に「疾病」としか書いておらず、業務上か業務外かなど細かい条件は規定されておりません。
よって、業務外の疾病…いわゆる「私傷病」も含みます。
本肢は○です。
労働基準法 令和4年第6問 エ
「労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同条〔労働基準法第24条〕が適用され、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、したがつて、右賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないが、国家公務員等退職手当法〔現在の国家公務員退職手当法〕による退職手当の給付を受ける権利については、その譲渡を禁止する規定がない以上、退職手当の支給前にその受給権が他に適法に譲渡された場合においては、国または公社はもはや退職者に直接これを支払うことを要せず、したがつて、その譲受人から国または公社に対しその支払を求めることが許される」とするのが、最高裁判所の判例である。
最判昭和43年3月12日(電電公社小倉電話局事件)
本肢は「賃金五原則(直接払い)」に関する問題です。
判例からの問題ですので、ぜひ元の判例をご確認ください。
長い問題文ですが、前半(したがって…の前まで)は、直接払いの原則について説明していますので、こちらは問題ありません。
問題は後半です。
判例では…
・退職給付も「直接払い」の原則の適用を受ける
・そのため、退職手当の支給前にその受給権が他に適法に譲渡された場合においても、国または公社はなお退職者に直接これを支払わなければならない
としています。
本肢は×です。
労働基準法 令和4年第6問 オ
労働基準法第27条に定める出来高払制の保障給について、同種の労働を行っている労働者が多数ある場合に、個々の労働者の技量、経験、年齢等に応じて、その保障給額に差を設けることは差し支えない。
法第27条
根拠条文を確認します。
(出来高払制の保障給)
労働基準法
第二十七条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
本肢は「出来高払制の保障給」に関する問題です。
第27条は、いわゆる「フルコミッション」と呼ばれる形態…保険営業やタクシードライバーなど、業績が良ければガンガン稼げるが、逆だと全く稼げない「出来高払い」の労働者でも、一定の保障給が必要であることを定めた規定です。
「一定額」は、特段法的な基準は定められていませんが、一般的には「平均賃金の6割程度」と言われています。
つまり、出来高払いでまったく成果が上がっていないからと言っても、労働時間に応じた「一定額」は支払ってあげなければいけませんよ、ということになります。
さて、本肢では、その「一定額」について、「同種の労働を行っている労働者が多数ある場合に、個々の労働者の技量、経験、年齢等に応じて、その保障給額に差を設けること」がOKかどうかが問われています。
上記の通り、「一定額」は、特段法的な基準は定められていませんので、ある程度筋が通った理由で差をつけることまでは禁止されていない、とされています。
本肢は○です。
以上から、誤りは肢Dのみとなりますので、答えは「A 一つ」となります。