厚生年金保険法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
厚生年金保険法 令和3年第1問 A
夫の死亡により、厚生年金保険法第58条第1項第4号に規定するいわゆる長期要件に該当する遺族厚生年金(その額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が240以上であるものとする。)の受給権者となった妻が、その権利を取得した当時60歳であった場合は、中高齢寡婦加算として遺族厚生年金の額に満額の遺族基礎年金の額が加算されるが、その妻が、当該夫の死亡により遺族基礎年金も受給できるときは、その間、当該加算される額に相当する部分の支給が停止される。
法第62条第1項
根拠条文を確認します。
第六十二条 遺族厚生年金(第五十八条第一項第四号に該当することにより支給されるものであつて、その額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が二百四十未満であるものを除く。)の受給権者である妻であつてその権利を取得した当時四十歳以上六十五歳未満であつたもの又は四十歳に達した当時当該被保険者若しくは被保険者であつた者の子で国民年金法第三十七条の二第一項に規定する要件に該当するもの(略)と生計を同じくしていたものが六十五歳未満であるときは、第六十条第一項第一号の遺族厚生年金の額に同法第三十八条に規定する遺族基礎年金の額に四分の三を乗じて得た額(略)を加算する。
厚生年金保険法
本肢は、いわゆる「中高齢寡婦加算」に関する問題です。
本肢は、以下の2つにわけることができます。
・前段…金額の話
・後段…支給停止の話
まず、前段の金額の話ですが、法第62条により中高齢寡婦加算(長期要件の遺族厚生年金)の金額は以下の通りとなります。
・40~65歳…遺族基礎年金の金額に4分の3を乗じた金額
本肢では、「満額の遺族基礎年金の額が加算される」とされているので、誤りとなります。
なお、後段の「当該夫の死亡により遺族基礎年金も受給できるときは、その間、当該加算される額に相当する部分の支給が停止される。」という支給停止条件の部分については、その通りです。
本肢は×です。
厚生年金保険法 令和3年第1問 B
昭和32年4月1日生まれの妻は、遺族厚生年金の受給権者であり、中高齢寡婦加算が加算されている。当該妻が65歳に達したときは、中高齢寡婦加算は加算されなくなるが、経過的寡婦加算の額が加算される。
昭60法附則73条1項
根拠条文を確認します。
(遺族厚生年金の加算の特例)
厚生年金保険法 昭和60年附則
第七十三条 厚生年金保険法第六十二条第一項に規定する遺族厚生年金の受給権者であつて附則別表第九の上欄に掲げるもの(死亡した厚生年金保険の被保険者又は被保険者であつた者の妻であつた者に限る。)がその権利を取得した当時六十五歳以上であつたとき、又は同項の規定によりその額が加算された遺族厚生年金の受給権者であつて同表の上欄に掲げるものが六十五歳に達したときは、当該遺族厚生年金の額は、厚生年金保険法第六十条第一項の規定にかかわらず、同項第一号に定める額を、当該額に第一号に掲げる額から第二号に掲げる額を控除して得た額を加算した額として同項の規定を適用した額とする。(以下略)
本肢は、いわゆる「経過的寡婦加算」に関する問題です。
まず、経過的寡婦加算とは何か…について簡単に復習しておきましょう。
経過的寡婦加算とは、65歳までに肢Aで取り上げた「中高齢寡婦加算」を受けている妻が、65歳になって自身の老齢基礎年金を受給できる状態になり受取金額がダウンしたした際の補填として支給されるものです。
この「経過的寡婦加算」は、妻の誕生日要件があります。
それが、上記の根拠条文にある「附則別表第9条の上欄に掲げるもの」とされており、この別表第9というのが、「昭和30年4月2日から昭和31年4月1日までに生まれた者」で終わります。
つまり、経過的寡婦加算は昭和31年4月1日以前に生まれた者が対象になるわけですね。
問題文には「昭和32年4月1日に生まれの妻」となっており、残念ながら1年ずれて対象外となっています。
本肢は×です。
厚生年金保険法 令和3年第1問 C
2以上の種別の被保険者であった期間を有する者について、3号分割標準報酬改定請求の規定を適用する場合においては、各号の厚生年金被保険者期間のうち1の期間に係る標準報酬についての当該請求は、他の期間に係る標準報酬についての当該請求と同時に行わなければならない。
法第78条の36第1項
根拠条文を確認します。
(被扶養配偶者である期間についての特例)
厚生年金保険法
第七十八条の三十六 二以上の種別の被保険者であつた期間を有する者について、第七十八条の十四第一項の規定を適用する場合においては、各号の厚生年金被保険者期間のうち一の期間に係る標準報酬についての同項の規定による請求は、他の期間に係る標準報酬についての当該請求と同時に行わなければならない。
厚生年金保険法で第78条以降は、「の2」「の3」…と「の37」まで続きます。
この「の2」という表記は、法改正により条文を追加した際に、条文番号のずれを防ぐために使われる手法であり、就業規則でも使うことがあります。
そして、この第78条の2以降は、いわゆる「(離婚等の)年金分割」の内容となります。
本肢は「3号分割標準報酬改定の請求」の際の話であり、このテーマについては、上記根拠条文に「他の期間に係る標準報酬についての当該請求と同時に行わなければならない」とされています。
要は、分割に関係する標準報酬についての請求は、バラバラやられると面倒くさい・間違いのもととなるので、全部セットで請求してくださいね、という話になります。
本肢は○となり、本問の正解となります。
厚生年金保険法 令和3年第1問 D
3号分割標準報酬改定請求は、離婚が成立した日の翌日から起算して2年を経過したときまでに行う必要があるが、3号分割標準報酬改定請求に併せて厚生年金保険法第78条の2に規定するいわゆる合意分割の請求を行う場合であって、按分割合に関する審判の申立てをした場合は、その審判が確定した日の翌日から起算して2年を経過する日までは3号分割標準報酬改定請求を行うことができる。
則第78条の17第1項・2項
根拠条文を確認します。
(法第七十八条の十四第一項ただし書に規定する厚生労働省令で定めるとき等)
厚生年金保険法施行規則
第七十八条の十七 法第七十八条の十四第一項ただし書に規定する厚生労働省令で定めるときは、次の各号に掲げる場合とする。
一 (略)
二 次のイからハまでに掲げる日の翌日から起算して二年(略)を経過した場合
イ 離婚が成立した日
ロ 婚姻が取り消された日
ハ 第七十八条の十四第一号に掲げる場合に該当した日
2 前項第二号イからハまでに掲げる日の翌日から起算して二年を経過した日以後に、又は同号イからハまでに掲げる日の翌日から起算して二年を経過した日前六月以内に第七十八条の三第二項各号のいずれかに該当した場合(略)について、法第七十八条の二十第一項本文の規定により標準報酬改定請求があつたときにあつたものとみなされる三号分割標準報酬改定請求に係る法第七十八条の十四第一項ただし書に規定する厚生労働省令で定めるときは、前項第二号の規定にかかわらず、第七十八条の三第二項各号のいずれかに該当することとなつた日の翌日から起算して六月を経過した場合とする。
肢Cに続き、3号分割に関する問題です。
まず、前段の「3号分割標準報酬改定請求は、離婚が成立した日の翌日から起算して2年を経過したときまでに行う必要がある」というのが原則の考え方であり、その通りになります。
問題は後段です。
上記根拠条文には「3号分割標準報酬改定請求」の例外対応として、以下のポイントが規定されています。
・第78条の3第2項各号(請求すべき按分割合に関する審判・調停・判決・和解)
→該当した日の翌日から起算して6月を経過する日までは、3号分割標準報酬改定請求を行うことができる。
ということで、問題文では「2年を経過する日」とありますが、上記のように正しくは「6月」となります。
細かい論点なので、知らなかった方も多いと思います。
今回の問題を機に、ぜひとも押さえておきましょう。
本肢は×です。
厚生年金保険法 令和3年第1問 E
厚生年金保険法第78条の14に規定する特定被保険者が、特定期間の全部をその額の計算の基礎とする障害厚生年金の受給権者であったとしても、当該特定被保険者の被扶養配偶者は3号分割標準報酬改定請求をすることができる。
法第78条の14第1項 / 則第78条の17第1項
根拠条文を確認します。
(特定被保険者及び被扶養配偶者についての標準報酬の特例)
厚生年金保険法
第七十八条の十四 被保険者(被保険者であつた者を含む。以下「特定被保険者」という。)が被保険者であつた期間中に被扶養配偶者(略)を有する場合において、当該特定被保険者の被扶養配偶者は、当該特定被保険者と離婚又は婚姻の取消しをしたときその他これに準ずるものとして厚生労働省令で定めるときは、実施機関に対し、特定期間(略)に係る被保険者期間(略)の標準報酬(略)の改定及び決定を請求することができる。ただし、当該請求をした日において当該特定被保険者が障害厚生年金(略)の受給権者であるときその他の厚生労働省令で定めるときは、この限りでない。
(法第七十八条の十四第一項ただし書に規定する厚生労働省令で定めるとき等)
厚生年金保険法施行規則
第七十八条の十七 法第七十八条の十四第一項ただし書に規定する厚生労働省令で定めるときは、次の各号に掲げる場合とする。
一 三号分割標準報酬改定請求のあつた日に特定被保険者が障害厚生年金の受給権者であつて、特定期間の全部又は一部がその額の計算の基礎となつている場合(当該三号分割標準報酬改定請求において令第三条の十二の十一の規定により当該障害厚生年金の額の計算の基礎となつた特定期間に係る被保険者期間が除かれている場合を除く。)
根拠条文が複雑に入り組んでいますので、順を追って整理します。
まず、法第78条の14第1項にて、「特定被保険者及び被扶養配偶者についての標準報酬の特例」の但し書きとして「請求日に当該特定被保険者が障害厚生年金の受給権者であるとき、その他の厚生労働省令で定めるとき」は改定の請求ができない、と規定されています。
そして、その「その他の厚生労働省令で定める」の内容が、施行規則の第78条の第1項に規定されており、上記の通り「三号分割標準報酬改定請求のあつた日に特定被保険者が障害厚生年金の受給権者であつて、特定期間の全部又は一部がその額の計算の基礎となつている場合」とされています。
ということで、結論としては、3号分割標準報酬改定請求日に特定被保険者が障害厚生年金の受給権者であり、特定期間の全部又は一部がその額の計算の基礎となっている場合は、当該特定被保険者の被扶養配偶者は3号分割標準報酬改定請求をすることができない、となります。
本肢は×です。