社会保険労務士法令に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第5問 A
一般の会社の労働社会保険事務担当者又は開業社会保険労務士事務所の職員のように、他人に使用され、その指揮命令のもとに事務を行う場合は、社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者の業務の制限について定めた社会保険労務士法第27条にいう「業として」行うに該当する。
社会保険労務士法27条
本問は、「社会保険労務士法」に関する問題になります。
社労士となるのであれば、やはり「社会保険労務士法」をしっかり押さえておく…と言われていますが、継ぎ足し継ぎ足しの条文構成で読みづらい…というのが正直なところです。
過去問を中心に一通りおさえておきましょう!
まずは肢Aから、根拠条文を確認します。
(業務の制限)
社会保険労務士法
第二十七条 社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。
第27条は、実務上でも非常に重要な条文です。
いわゆる「業際問題」と呼ばれるテーマであり、
・社労士でない方が
・報酬を得て
・第2条第1項第1号(労働社会保険諸法令に基づく書類等の作成業務)・第2号の業務(労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成業務)
・業として
行ってはならないと規定されています。
そして、本肢では「業として」の解釈を問われています。
「業として」というのは、「その行為を反復継続して行う」という意味になります。
1回しかしていない、または、年に数回…というのは「業として」というには弱く、「お仕事として基本的に毎日行っている」というイメージです。
では、問題文にある「一般の会社の労働社会保険事務担当者」…これは私のような企業の人事で労働保険・社会保険の事務手続を担当しているような人間や、「開業社会保険労務士事務所の職員」…いわゆる社労士事務所のスタッフなどは、「業として」日々労働保険・社会保険に関する書類を作成しておりますが、社労士でないために第27条違反として罰せられてしまうのでしょうか…。
もちろんそんなことはないですね。
この第27条が想定しているのは、
・他士業…例えば、税理士が社会保険関係の書類を報酬を得て作成したり、行政書士が就業規則を報酬を得て作成したりすること
・コンサルティング会社などが、報酬を得て社会保険手続きを代行すること
などになります。
本肢は×です。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第5問 B
社会保険労務士は、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述及び尋問をすることができる。
社会保険労務士法2条の2
根拠条文を確認します。
第二条の二 社会保険労務士は、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述をすることができる。
社会保険労務士法
本肢は条文のとおりとなります。
条文には「陳述をすることができる」と書いてありますが、「尋問をすることができる」とまでは書いていませんね。
ちなみに、それぞれの意味を確認しておきます。
●陳述…当該案件に関して口頭または書面で意見や主張を述べること
●尋問…裁判の当事者に対して質問をすること
尋問はよくドラマの裁判のシーンで、弁護士や検察官、裁判官が被告や被告人に対して質問をしていることがありますが、まさにあのイメージです。
社労士といえども、さすがにそこまでの権限はないということになりますね。
本肢は×です。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第5問 C
厚生労働大臣は、開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の業務の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは、当該開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人に対し、その業務に関し必要な報告を求めることができるが、ここにいう「その業務に関し必要な報告」とは、法令上義務づけられているものに限られ、事務所の経営状態等についての報告は含まれない。
社会保険労務士法24条1項
根拠条文を確認します。
(報告及び検査)
社会保険労務士法
第二十四条 厚生労働大臣は、開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の業務の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは、当該開業社会保険労務士若しくは社会保険労務士法人に対し、その業務に関し必要な報告を求め、又はその職員をして当該開業社会保険労務士若しくは社会保険労務士法人の事務所に立ち入り、当該開業社会保険労務士若しくは社会保険労務士法人に質問し、若しくはその業務に関係のある帳簿書類(その作成、備付け又は保存に代えて電磁的記録の作成、備付け又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。)を検査させることができる。
第24条には「厚生労働大臣は、開業社労士や社労士法人に対して、業務に関して必要な報告を求めることができる」と規定されています。
今回の問題は、「報告」の内容が問われています。
問題文には、「法令上義務づけられているものに限られ、事務所の経営状態等についての報告は含まれない」とされていますが、「事務所の経営状態等」については対象外なのでしょうか。
そもそも、厚生労働大臣がこのような報告を求める場合というのは、どのような目的があるかを考えてみましょう。
当たり前ですが、当該開業社労士や社労士法人に、何らかしらの詳しく調べる事情が生じているからでしょう。
それなのに、「事務所の経営状態等について」を報告させることができなかったら、詳しく調べることができないと思いますよね。
本肢は×です。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第5問 D
社会保険労務士法人の事務所には、その事務所の所在地の属する都道府県の区域に設立されている社会保険労務士会の会員である社員を常駐させなければならない。
社会保険労務士法25条の16
根拠条文を確認します。
(社員の常駐)
社会保険労務士法
第二十五条の十六 社会保険労務士法人の事務所には、その事務所の所在地の属する都道府県の区域に設立されている社会保険労務士会の会員である社員を常駐させなければならない。
本肢は、根拠条文そのままの問題ですね。
仮にこの条文の存在を知らなかったとしても…
・社労士事務所に社労士が(常駐して)いないなんておかしくない?
・たとえ社労士が常駐していたとしても、東京都の社労士事務所に大阪府会所属の社労士が常駐しているなんて
おかしくない?
…と、冷静に考えると、「そりゃそうだ」と納得できると思います。
本肢は○となり、本問の正解になります。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第5問 E
社会保険労務士法人の解散及び清算を監督する裁判所は、当該監督に必要な検査をするに先立ち、必ず厚生労働大臣に対し、意見を求めなければならない。
社会保険労務士法25条の22の3第1項・2項
根拠条文を確認します。
(裁判所による監督)
社会保険労務士法
第二十五条の二十二の三 社会保険労務士法人の解散及び清算は、裁判所の監督に属する。
2 裁判所は、職権で、いつでも前項の監督に必要な検査をすることができる。
残念ながら、社会保険労務士法人が何らかの理由で解散する、または清算する場合は、裁判所の監督に属する…とされています。
その際に、裁判所の「職権」で、必要な検査を「することができる」とされています。
「することができる」…ということは、必要がなければしなくてもよいわけですね。
以下は、少し解答テクニックのようなものですが、問題文に「必ず」と書いてある場合は少し怪しい…と思った方が良いです。
法律の問題で、「100%」「絶対」「必ず」…と言い切れるものはあまり多くなく、たいていはなんらかの事情がある場合に備えて、「例外的に」「してもよい」「努める」など、緩やかな表現にしていることが多いです。
校則や会社のルールと違って法律なので、そこに書いてあることが絶対であり、例外を認めないキツキツなルールだと困るシチュエーションがありますからね…。
本肢は×です。