特例納付保険料の納付等に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
雇用保険法/徴収法 令和3年第8問 A
雇用保険の被保険者となる労働者を雇い入れ、労働者の賃金から雇用保険料負担額を控除していたにもかかわらず、労働保険徴収法第4条の2第1項の届出を行っていなかった事業主は、納付する義務を履行していない一般保険料のうち徴収する権利が時効によって既に消滅しているものについても、特例納付保険料として納付する義務を負う。
法26条1項 / 行政手引25001
本問は、全般的に「特例納付保険料」に関する問題となります。
解説に入る前に、簡単に「特例納付保険料」についてまとめます。
●特例納付保険料
・2年を超えてさかのぼって雇用保険の保険の加入手続を行った場合に
・本来納付していただくべきであった労働保険料に相当する額に10%を加えた額
を特例納付保険料として納付することができる
何らかの理由で雇用保険の加入手続きがされていなかった場合に、さかのぼって加入+少し割増した保険料を納付して、正常な形に戻すことができる制度です。
以上を踏まえて、各肢を見ていきましょう。
まずは本肢の根拠となる行政手引を確認します。
(特例納付保険料の納付等)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律
第二十六条 雇用保険法第二十二条第五項に規定する者(以下この項において「特例対象者」という。)を雇用していた事業主が、第四条の規定により雇用保険に係る保険関係が成立していたにもかかわらず、第四条の二第一項の規定による届出をしていなかつた場合には、当該事業主(当該事業主の事業を承継する者を含む。以下この条において「対象事業主」という。)は、特例納付保険料として、対象事業主が第十五条第一項の規定による納付する義務を履行していない一般保険料(同法第十四条第二項第二号に規定する厚生労働省令で定める日から当該特例対象者の離職の日までの期間に係るものであつて、その徴収する権利が時効によつて消滅しているものに限る。)の額(雇用保険率に応ずる部分の額に限る。)のうち当該特例対象者に係る額に相当する額として厚生労働省令で定めるところにより算定した額に厚生労働省令で定める額を加算した額を納付することができる。
結論としては、上記根拠条文の文末にあるとおり「納付しなければならない(義務を負う)」ではなく「納付することができる」のため×となる…ということになります。
労働者から雇用保険料を徴収していたのにも関わらず、保険料を納めていなかった事業主に対しては、普通の感覚であれば「それはさかのぼってても、義務的に納付させないと」と思うので、「○」と判断した方が多いかもしれません。
しかし、法律上は、上記のように「納付することができる」とされており、加えて続く26条の2項で、「厚生労働大臣は、対象事業主に対して、特例納付保険料の納付を勧奨しなければならない。ただし、やむを得ない事情のため当該勧奨を行うことができない場合は、この限りでない。」と規定されています。
少し甘い感じもしますが、法律がそうなっている以上はそうなんですね…。
本肢は×です。
雇用保険法/徴収法 令和3年第8問 B
特例納付保険料の納付額は、労働保険徴収法第26条第1項に規定する厚生労働省令で定めるところにより算定した特例納付保険料の基本額に、当該特例納付保険料の基本額に100分の10を乗じて得た同法第21条第1項の追徴金の額を加算して求めるものとされている。
法26条1項 / 則57条
根拠条文を確認します。
(特例納付保険料の基本額に加算する額)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則
第五十七条 法第二十六条第一項に規定する厚生労働省令で定める額は、前条の規定により算定した特例納付保険料の基本額に百分の十を乗じて得た額とする。
「法第二十六条第一項」というのは、前肢Aで引用した条文です。
その中に「厚生労働省令で定める額を加算した額」とあり、それがこの施行規則第57条になります。
上記のとおり、「百分の十」…つまり10%を加算した額とされていますが、どこにも「追徴金」という言葉は出てきません。
本肢は×です。
雇用保険法/徴収法 令和3年第8問 C
政府は、事業主から、特例納付保険料の納付をその預金口座又は貯金口座のある金融機関に委託して行うことを希望する旨の申出があった場合には、その納付が確実と認められ、かつ、その申出を承認することが労働保険料の徴収上有利と認められるときに限り、その申出を承認することができる。
則38条の4
根拠となる条文を確認します。
(口座振替による納付)
第三十八条の四 法第二十一条の二第一項の厚生労働省令で定める納付は、納付書によつて行われる法第十五条第一項又は第二項の規定により納付すべき労働保険料及び法第十八条の規定により延納する場合における法第十五条第一項又は第二項の労働保険料並びに法第十九条第三項の規定により納付すべき労働保険料の納付とする。
条文の引用が多いので、以下整理しますと…
●口座振替ができる保険料
・法第二十一条の二第一項の厚生労働省令で定める納付…口座振替のことです
・納付書によつて行われる法第十五条第一項又は第二項の規定により納付すべき労働保険料…概算保険料のことです
・法第十八条の規定により延納する場合における法第十五条第一項又は第二項の労働保険料…概算保険料の延納のことです
・法第十九条第三項の規定により納付すべき労働保険料…確定保険料のことです
となります。
つまり、法令上、労働保険料の口座振替が認められているのは、
・概算保険料
・概算保険料の延納
・確定保険料
の3つだけであり、本問のテーマである「特例納付保険料」は口座振替の対象ではないことがわかります。
本肢は×です。
雇用保険法/徴収法 令和3年第8問 D
労働保険徴収法第26条第2項の規定により厚生労働大臣から特例納付保険料の納付の勧奨を受けた事業主が、特例納付保険料を納付する旨を、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に対して書面により申し出た場合、同法第27条の督促及び滞納処分の規定並びに同法第28条の延滞金の規定の適用を受ける。
法26条
特例納付保険料も、通常の労働保険料と同様に
・督促および滞納処分の規定
・延滞金の規定
の適用を受けることになります。
ここはシンプルに、「特例納付保険料も労働保険料の一種だから」というイメージでおさえておきましょう。
本肢は○となり、本問の正解となります。
雇用保険法/徴収法 令和3年第8問 E
所轄都道府県労働局歳入徴収官は、労働保険徴収法第26条第4項の規定に基づき、特例納付保険料を徴収しようとする場合には、通知を発する日から起算して30日を経過した日をその納期限と定め、事業主に、労働保険料の増加額及びその算定の基礎となる事項並びに納期限を通知しなければならない。
法26条4項 / 則59条
根拠となる条文を確認します。
(特例納付保険料の納付等)
雇用保険法
第二十六条
4 政府は、前項の規定による申出を受けた場合には、特例納付保険料の額を決定し、厚生労働省令で定めるところにより、期限を指定して、これを対象事業主に通知するものとする。
(特例納付保険料に係る通知)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則
第五十九条 所轄都道府県労働局歳入徴収官は、法第二十六条第四項の規定に基づき、特例納付保険料を徴収しようとする場合には、通知を発する日から起算して三十日を経過した日をその納期限と定め、事業主に、次に掲げる事項を通知しなければならない。
一 特例納付保険料の額
二 納期限
上記のとおり、特例納付保険料を納めようとしている事業主に対して、所轄都道府県労働局歳入徴収官は以下の通り通知を行います。
・納期限…通知を発する日から起算して30日を経過した日
・通知内容…特例納付保険料の額と上記納期限
問題文には「納期限」はありますが、「労働保険料の増加額及びその算定の基礎となる事項」は通知内容としては不適切です。
本肢は×です。