厚生年金保険法の在職老齢年金に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
厚生年金保険法 令和4年第8問 A
在職老齢年金の支給停止額を計算する際に用いる総報酬月額相当額は、在職中に標準報酬月額や標準賞与額が変更されることがあっても、変更されない。
法第46条第1項
根拠条文を確認します。
(支給停止)
厚生年金保険法
第四十六条 老齢厚生年金の受給権者が被保険者(前月以前の月に属する日から引き続き当該被保険者の資格を有する者に限る。)である日(厚生労働省令で定める日を除く。)、国会議員若しくは地方公共団体の議会の議員(略)である日又は七十歳以上の使用される者(前月以前の月に属する日から引き続き当該適用事業所において第二十七条の厚生労働省令で定める要件に該当する者に限る。)である日が属する月において、その者の標準報酬月額とその月以前の一年間の標準賞与額の総額を十二で除して得た額とを合算して得た額(略/以下「総報酬月額相当額」という。)及び老齢厚生年金の額(第四十四条第一項に規定する加給年金額及び第四十四条の三第四項に規定する加算額を除く。以下この項において同じ。)を十二で除して得た額(以下この項において「基本月額」という。)との合計額が支給停止調整額を超えるときは、その月の分の当該老齢厚生年金について、総報酬月額相当額と基本月額との合計額から支給停止調整額を控除して得た額の二分の一に相当する額に十二を乗じて得た額(以下この項において「支給停止基準額」という。)に相当する部分の支給を停止する。ただし、支給停止基準額が老齢厚生年金の額以上であるときは、老齢厚生年金の全部(同条第四項に規定する加算額を除く。)の支給を停止するものとする。
本肢は、「総報酬月額相当額」に関する問題です。
上記根拠条文のとおり、総報酬月額相当額は「標準報酬月額とその月以前の一年間の標準賞与額の総額を12で除して得た額とを合算して得た額」とされていますので、もちろん標準報酬月額や標準賞与額が変動すれば、総報酬月額相当額も変動することになります。
落ち着いて考えれば、「変更されないっておかしくない?」と疑問に感じるはずです。
本肢は×です。
厚生年金保険法 令和4年第8問 B
在職老齢年金は、総報酬月額相当額と基本月額との合計額が支給停止調整額を超える場合、年金額の一部又は全部が支給停止される仕組みであるが、適用事業所に使用される70歳以上の者に対しては、この在職老齢年金の仕組みが適用されない。
法第46条第1項
根拠条文を確認します。
(支給停止)
厚生年金保険法
第四十六条 老齢厚生年金の受給権者が被保険者(前月以前の月に属する日から引き続き当該被保険者の資格を有する者に限る。)である日(厚生労働省令で定める日を除く。)、国会議員若しくは地方公共団体の議会の議員(略)である日又は七十歳以上の使用される者(前月以前の月に属する日から引き続き当該適用事業所において第二十七条の厚生労働省令で定める要件に該当する者に限る。)である日が属する月において、その者の標準報酬月額とその月以前の一年間の標準賞与額の総額を十二で除して得た額とを合算して得た額(略/以下「総報酬月額相当額」という。)及び老齢厚生年金の額(第四十四条第一項に規定する加給年金額及び第四十四条の三第四項に規定する加算額を除く。以下この項において同じ。)を十二で除して得た額(以下この項において「基本月額」という。)との合計額が支給停止調整額を超えるときは、その月の分の当該老齢厚生年金について、総報酬月額相当額と基本月額との合計額から支給停止調整額を控除して得た額の二分の一に相当する額に十二を乗じて得た額(以下この項において「支給停止基準額」という。)に相当する部分の支給を停止する。ただし、支給停止基準額が老齢厚生年金の額以上であるときは、老齢厚生年金の全部(同条第四項に規定する加算額を除く。)の支給を停止するものとする。
本肢は、「在職老齢年金」に関する問題です。
まず、在職老齢年金の説明をしている問題文前半「総報酬月額相当額と基本月額との合計額が支給停止調整額を超える場合、年金額の一部又は全部が支給停止される仕組み」という記述内容は、特段問題なく正しい内容となります。
次に、後半の「70歳には適用されない」の部分ですが、上記根拠条文のとおり、在職老齢年金の対象には「70歳以上の使用される者」も含まれますので、後半の記述内容が誤り、となります。
本肢は×です。
厚生年金保険法 令和4年第8問 C
在職中の被保険者が65歳になり老齢基礎年金の受給権が発生した場合において、老齢基礎年金は在職老齢年金の支給停止額を計算する際に支給停止の対象とはならないが、経過的加算額については在職老齢年金の支給停止の対象となる。
昭和60年法附則第62条第1項
本肢は、「在職老齢年金」に関する問題です。
在職老齢年金の支給停止の対象が問われています。
前半の「老齢基礎年金」について、在職老齢年金の仕組みが厚生年金保険法に基づき、対象が「老齢厚生年金」であることから、「老齢基礎年金は支給停止の対象とはならない」というのは正しいです。
後半の「経過的加算額」については、どうでしょうか。
根拠となる「昭和60年法附則第62条第1項」は、かなり長文となるので、今回は掲載を見送っていますが、この条文の趣旨は、「老齢厚生年金の支給停止の対象としては、経過的加算額は含まない」となります。
ということで、老齢基礎年金と同じく経過的加算額も支給停止の対象ではない、となります。
本肢は×です。
厚生年金保険法 令和4年第8問 D
60歳以降も在職している被保険者が、60歳台前半の老齢厚生年金の受給権者であって被保険者である場合で、雇用保険法に基づく高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けることができるときは、その間、60歳台前半の老齢厚生年金は全額支給停止となる。
法附則第11条の6
根拠条文を確認します。
第十一条の六 附則第八条の規定による老齢厚生年金(第四十三条第一項、附則第九条の二第一項から第三項まで又は附則第九条の三及び附則第九条の規定によりその額が計算されているものに限る。)の受給権者が被保険者である日が属する月について、その者が高年齢雇用継続基本給付金の支給を受けることができるときは、附則第十一条及び第十一条の二の規定にかかわらず、その月の分の当該老齢厚生年金について、次の各号に掲げる場合に応じ、それぞれ当該老齢厚生年金につき附則第十一条又は第十一条の二の規定を適用した場合におけるこれらの規定による支給停止基準額と当該各号に定める額(その額に六分の十五を乗じて得た額に当該受給権者に係る標準報酬月額を加えた額が支給限度額を超えるときは、支給限度額から当該標準報酬月額を減じて得た額に十五分の六を乗じて得た額)に十二を乗じて得た額(第七項において「調整額」という。)との合計額(以下この項において「調整後の支給停止基準額」という。)に相当する部分の支給を停止する。ただし、調整後の支給停止基準額が老齢厚生年金の額以上であるときは、老齢厚生年金の全部の支給を停止するものとする。
一 当該受給権者に係る標準報酬月額が、みなし賃金日額に三十を乗じて得た額の百分の六十一に相当する額未満であるとき 当該受給権者に係る標準報酬月額に百分の六を乗じて得た額
二 前号に該当しないとき 当該受給権者に係る標準報酬月額に、みなし賃金日額に三十を乗じて得た額に対する当該受給権者に係る標準報酬月額の割合が逓増する程度に応じ、百分の六から一定の割合で逓減するように厚生労働省令で定める率を乗じて得た額
本肢は、「60歳台前半の老齢厚生年金と高年齢雇用継続基本給付金との調整」に関する問題です。
「60歳台前半の老齢厚生年金」と「高年齢雇用継続基本給付」との調整では、年金の方が支給停止されることは、まず復習しておきましょう。
ただし、問題文にあるように「全額支給停止」…つまり、高年齢雇用継続基本給付金の額にかかわらず年金は1円ももらえない…というわけではありません。
正しくは、「在職老齢年金の支給停止に加えて、年金額の一部が支給停止される」となります。
本肢は×です。
厚生年金保険法 令和4年第8問 E
在職老齢年金について、支給停止額を計算する際に使用される支給停止調整額は、一定額ではなく、年度ごとに改定される場合がある。
法第46条第3項
根拠条文を確認します。
(支給停止)
厚生年金保険法
第四十六条
3 第一項の支給停止調整額は、四十八万円とする。ただし、四十八万円に平成十七年度以後の各年度の物価変動率に第四十三条の二第一項第二号に掲げる率を乗じて得た率をそれぞれ乗じて得た額(その額に五千円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五千円以上一万円未満の端数が生じたときは、これを一万円に切り上げるものとする。以下この項において同じ。)が四十八万円(この項の規定による支給停止調整額の改定の措置が講ぜられたときは、直近の当該措置により改定した額)を超え、又は下るに至つた場合においては、当該年度の四月以後の支給停止調整額を当該乗じて得た額に改定する。
本肢は「支給停止調整額」に関する問題です。
在職老齢年金の計算のパーツとして用いられる「支給停止調整額」。
この「支給停止調整額」の原則は「48万円」です。
ただし、上記根拠条文のとおり、48万円に平成17年度以後の各年度の物価変動率に所定の率を乗じて得た率をそれぞれ乗じて得た額が変動した場合においては1万円単位で改定される、とされています。
ちなみに、試験テクニックとしては、「~場合がある」と締めくくられている問題文は「〇」であることが多いです。
なぜかというと、世の中には「100%絶対」ということがあまりないからです。
様々な状況の変化に応じて、解釈や考え方が変わること、例外が認められるようなことは往々にしてあることなので、「場合がある」と含みを持たせている内容を、「そんな場合は100%ありえない」と否定することはかなり難しいからです。
本肢は○となり、本問の正解となります。