定時決定及び随時改定等の手続きに関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
健康保険法 令和4年第8問 A
被保険者Aは、労働基準法第91条の規定により減給の制裁が6か月にわたり行われることになった。そのため、減給の制裁が行われた月から継続した3か月間(各月とも、報酬支払基礎日数が17日以上あるものとする。)に受けた報酬の総額を3で除して得た額が、その者の標準報酬月額の基礎となった従前の報酬月額に比べて2等級以上の差が生じたため、標準報酬月額の随時改定の手続きを行った。なお、減給の制裁が行われた月以降、他に報酬の変動がなかったものとする。
標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(令和3年4月1日事務連絡)
根拠通達を確認します。
○随時改定について
問 11 基本給の減給制裁があった場合、随時改定はどのようになるか。また、同月に役職手当等の付与による固定的賃金の変動(増額)がある場合、随時改定の取扱いはどのようになるか。
(答) 減給制裁は固定的賃金の変動には当たらないため、随時改定の対象とはならない。
標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(令和3年4月1日事務連絡)
本肢は、「減給制裁」に関する問題です。
減給制裁で賃金が減少した場合、固定的賃金の変動と捉えるか否か。
上記根拠通達のとおり、「減給制裁は固定的賃金の変動には当たらない」とされています。
固定的賃金の変動は、ベースとなる基本給が変動したり、恒常的な手当ての着脱があったりしたような場合が該当しますが、「6か月」と問題文にもあるとおり、減給の制裁は一定の有期的な対応となるため固定的賃金の変動には該当しない、と考えることになります。
本肢は×です。
健康保険法 令和4年第8問 B
被保険者Bは、4月から6月の期間中、当該労働日における労働契約上の労務の提供地が自宅とされたことから、テレワーク勤務を行うこととなったが、業務命令により、週に2回事業所へ一時的に出社した。Bが事業所へ出社した際に支払った交通費を事業主が負担する場合、当該費用は報酬に含まれるため、標準報酬月額の定時決定の手続きにおいてこれらを含めて計算を行った。
標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(令和3年4月1日事務連絡)
根拠通達を確認します。
○在宅勤務・テレワークにおける交通費及び在宅勤務手当の取扱いについて
問1 在宅勤務・テレワークを導入し、被保険者が一時的に出社する際に要する交通費を事業主が負担する場合、当該交通費は「報酬等」に含まれるのか。
(答) 基本的に、当該労働日における労働契約上の労務の提供地が自宅か事業所かに応じて、それぞれ以下のように取扱う。
標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(令和3年4月1日事務連絡)
① 当該労働日における労働契約上の労務の提供地が自宅の場合労働契約上、当該労働日の労務提供地が自宅とされており、業務命令により事業所等に一時的に出社し、その移動にかかる実費を事業主が負担する場合、当該費用は原則として実費弁償と認められ、「報酬等」には含まれない。
②(略)
本肢は、「在宅勤務・テレワーク時の交通費」に関する問題です。
コロナの流行を機に在宅勤務・テレワークが広まり、仕組み・ルールを整えた企業も多いと思います。
本肢では、在宅勤務・テレワーク時に一時的に出社する場合の交通費が、報酬等に該当するか否かが問われています。
上記根拠通達では、「基本的に、当該労働日における労働契約上の労務の提供地が自宅か事業所かに応じて」対応が変わることが示されています。
問題文には「労働契約上の労務の提供地が自宅」という条件が示されています。
つまり、
・原則…自宅が勤務地
・例外…事業所が勤務地
という状況ですね。
その場合、問題文にあるような週2回の事業所への出社は「例外」となり、それにかかる交通費は実費弁償とみなされる…つまり労働者にとっては支払った分が戻ってきただけであるので、報酬とはみなさない、とされています。
本肢は×です。
健康保険法 令和4年第8問 C
事業所が、在宅勤務に通常必要な費用として金銭を仮払いした後に、被保険者Cが業務のために使用した通信費や電気料金を精算したものの、仮払い金額が業務に使用した部分の金額を超過していたが、当該超過部分を事業所に返還しなかった。これら超過して支払った分も含め、仮払い金は、経費であり、標準報酬月額の定時決定の手続きにおける報酬には該当しないため、定時決定の手続きの際に報酬には含めず算定した。
標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(令和3年4月1日事務連絡)
根拠条文を確認します。
企業が労働者に支給した在宅勤務手当のうち、購入費用や業務に使用した部分の金額を超過した部分を労働者が企業に返還しなかったとしても、その購入費用や業務に使用した部分の金額については労働者に対する報酬等・賃金として社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含める必要はありませんが、その超過分は労働者に対する報酬等・賃金として社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含める必要があります。
標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(令和3年4月1日事務連絡)
本肢は、「在宅勤務手当」に関する問題です。
企業によっては、在宅勤務時に労働者が負担することとなる通信費や水道光熱費相当への手当として「在宅勤務手当」を支給していることがあります。
この在宅勤務手当は、実務としては、例えば水道光熱費は「ここまでがプライベート分で、これ以上は在宅勤務分」と切り分けることが難しいため、「月3000円」/「実施した日ごとに200円」のように簡便的に支給している企業が多いです。
本肢では、
・在宅勤務に通常必要な費用としていったん仮払い(例えば3000円をいったん支給する)
・在宅勤務実施後に通信費や電気料金を精算(例えば実際は2000円かかったので精算)
・オーバーした1000円分を、労働者から会社へ返金する必要がない場合、1000円は報酬となるか否か
という論点になります。
もちろん、上記のように整理すれば、1000円は実費弁償を超過した「労働者の利益」と考えられますので、上記根拠通達でも「報酬等・賃金として社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含める必要がある」とされています。
本肢は×です。
健康保険法 令和4年第8問 D
X事業所では、働き方改革の一環として、超過勤務を禁止することにしたため、X事業所の給与規定で定められていた超過勤務手当を廃止することにした。これにより、当該事業所に勤務する被保険者Dは、超過勤務手当の支給が廃止された月から継続した3か月間に受けた報酬の総額を3で除した額が、その者の標準報酬月額の基礎となった従前の報酬月額に比べて2等級以上の差が生じた。超過勤務手当の廃止をした月から継続する3か月間の報酬支払基礎日数はすべて17日以上であったが、超過勤務手当は非固定的賃金であるため、当該事業所は標準報酬月額の随時改定の手続きは行わなかった。なお、超過勤務手当の支給が廃止された月以降、他に報酬の変動がなかったものとする。
標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(令和3年4月1日事務連絡)
根拠条文を確認します。
○随時改定について
問3 超過勤務手当等の非固定的手当が廃止された場合、随時改定の対象となるか。
(答) 非固定的手当であっても、その廃止は賃金体系の変更に当たるため、随時改定の対象となる。
標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(令和3年4月1日事務連絡)
本肢は、「非固定的手当が廃止された場合」に関する問題です。
超過勤務手当は、超過勤務時間×単価で算出することが基本です。
問題文には、「超過勤務を禁止」した場合、超過勤務手当が支払われなくなるが、超過勤務手当は上記の通り超過勤務時間によって変動する賃金で「非固定的賃金」とされているため、随時改定の手続きは行わなかった、としています。
これで良いのでしょうか?
ケースで考えてみましょう。
基本給30万円+毎月の超過勤務手当が10~15万円の範囲で変動している労働者の場合、この超過勤務手当が無くなれば、合計40~45万円であった月給が、30万円となります。
これで随時改定を行わない…というのは、やはり違和感ありますよね。
いくら超過勤務手当が非固定的賃金とされているからといって、超過勤務手当そのものが廃止されたのであれば、上記根拠通達のとおり「賃金体系の変更」として随時改定の対象となります。
本肢は×です。
健康保険法 令和4年第8問 E
Y事業所では、給与規定の見直しを行うに当たり、同時に複数の変動的な手当の新設及び廃止が発生した。その結果、被保険者Eは当該変動的な手当の新設及び廃止が発生した月から継続した3か月間(各月とも、報酬支払基礎日数は17日以上あるものとする。)に受けた報酬の総額を3で除して得た額が、その者の標準報酬月額の基礎となった従前の報酬月額に比べて2等級以上の差が生じたため、標準報酬月額の随時改定の手続きを行った。なお、当該変動的な手当の新設及び廃止が発生した月以降、他に報酬の変動がなかったものとする。
標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(令和3年4月1日事務連絡)
根拠条文を確認します。
○随時改定について
問5 同一月に固定的賃金の増額と減額が同時に発生した場合(手当の廃止と創設等)、増額改定と減額改定のどちらの対象となるか。
(答)(略)なお、変動的な手当の廃止と創設が同時に発生した場合等については、手当
標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(令和3年4月1日事務連絡)
額の増減と報酬額の増減の関連が明確に確認できないため、3か月の平均報酬月額が増額した場合・減額した場合のどちらも随時改定の対象となる。
本肢は「随時改定」に関する問題です。
例えば、
・廃止…手当A(5~10万円で変動)、手当B(3~8万円で変動)
・創設…手当C(1~5万円で変動)、手当D(8~15万円で変動)
というような、賃金体系の変更があったとします。
このように様々な変動的手当の廃止と創出が同時に発生した場合、どの手当が原因で報酬が増減したかを紐づけることが難しいため、総額の変動状況で判断する、とされています。
本肢は○となり、本問の正解となります。