社会保険労務士試験【厚生年金保険法】<令和3年第5問>

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遺族厚生年金に関する次のアからオの記述のうち、誤っているものの組合
せは、後記AからEまでのうちどれか。
A(アとイ)
B(アとオ)
C(イとウ)
D(ウとエ)
E(エとオ)

厚生年金保険法 令和3年第5問 ア

老齢厚生年金の受給権者(被保険者ではないものとする。)が死亡した場合、国民年金法に規定する保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年であったとしても、その期間と同法に規定する合算対象期間を合算した期間が25年以上である場合には、厚生年金保険法第58条第1項第4号に規定するいわゆる長期要件に該当する。

解答の根拠

法第58条第1項第4号 / 法附則第14条第1項後段

(受給権者)
第五十八条 遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であつた者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の遺族に支給する。(略)
(略)
 老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上である者に限る。)又は保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上である者が、死亡したとき。

厚生年金保険法

(老齢厚生年金の支給要件等の特例)
第十四条 被保険者期間を有する者のうち、その者の保険料納付済期間、保険料免除期間及び国民年金法附則第九条第一項に規定する合算対象期間(以下この条において「合算対象期間」という。)を合算した期間が十年以上である者は、第四十二条並びに附則第七条の三第一項、第八条、第十三条の四第一項、第二十八条の三第一項及び第二十九条第一項の規定の適用については、第四十二条第二号に該当するものとみなし、被保険者期間を有する者のうち、その者の保険料納付済期間、保険料免除期間及び合算対象期間を合算した期間が二十五年以上である者は、第五十八条第一項(第四号に限る。)及び附則第二十八条の四第一項の規定の適用については、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上であるものとみなす。

厚生年金保険法附則

本肢は、遺族厚生年金の長期要件に関する問題です。

上記根拠条文で示した「法第58条第1項第4号」には、以下のように長期要件の基準が定められています。

●遺族厚生年金の長期要件
老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上である者に限る。)又は保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上である者が、死亡したとき

「25年以上」というのが基準になるわけですね。

そして、条文上では、この「25年」のカウント対象となるのが、
・保険料納付済期間
・保険料免除期間
の2つとされています。

では、今回の問題文にある「合算対象期間」はどう取り扱うのか。

もう一つの根拠条文である「法附則第14条第1項」を確認すると、黄色マーカー部分にあるように「上記2つの『保険料納付期間』と『保険料免除期間』に加えて『合算対象期間』も含めて25年以上」と、合算対象期間も含めることとされています。

したがって、問題文のようなケースであれば、「長期要件」に該当するので、正しい、となりますね。

本肢は○です。

厚生年金保険法 令和3年第5問 イ

厚生年金保険の被保険者であった甲は令和3年4月1日に厚生年金保険の被保険者資格を喪失したが、厚生年金保険の被保険者期間中である令和3年3月15日に初診日がある傷病により令和3年8月1日に死亡した(死亡時の年齢は50歳であった。)。この場合、甲について国民年金の被保険者期間があり、当該国民年金の被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が、当該国民年金の被保険者期間の3分の2未満である場合であっても、令和2年7月から令和3年6月までの間に保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の国民年金の被保険者期間がないときには、遺族厚生年金の支給対象となる。

解答の根拠

法第58条第1項第2号 / 昭60法附則第64条第2項

根拠条文を確認します。

(受給権者)
第五十八条 遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であつた者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の遺族に支給する。ただし、第一号又は第二号に該当する場合にあつては、死亡した者につき、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは、この限りでない。
(略)
二 被保険者であつた者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であつた間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して五年を経過する日前に死亡したとき。
(以下略)

厚生年金保険法

(障害厚生年金等の支給要件の特例)
第六十四条
 令和八年四月一日前に死亡した者の死亡について厚生年金保険法第五十八条第一項ただし書の規定を適用する場合においては、同項ただし書中「三分の二に満たないとき」とあるのは、「三分の二に満たないとき(当該死亡日の前日において当該死亡日の属する月の前々月までの一年間(当該死亡日において国民年金の被保険者でなかつた者については、当該死亡日の属する月の前々月以前における直近の国民年金の被保険者期間に係る月までの一年間)のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の国民年金の被保険者期間がないときを除く。)」とする。ただし、当該死亡に係る者が当該死亡日において六十五歳以上であるときは、この限りでない。

厚生年金保険法昭60法附則

本肢は、遺族厚生年金の保険料納付要件の特例に関する問題です。

遺族厚生年金の保険料納付要件をおさらいしておきましょう。

●遺族厚生年金の保険料納付要件
・原則
国民年金被保険者期間の保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上
・例外
令和8年4月1日前に死亡した場合で、当該死亡日において65歳未満であること、かつ、直近の1年間で保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の国民年金の被保険者期間がないこと

では、こちらをベースとして、本問の事例を検討します。

まず、時系列を確認すると、以下のようにまとめられます。
・令和3年3月15日…初診日
・令和3年4月1日…厚生年金保険の被保険者資格を喪失
・令和3年8月1日…死亡

上記によると、「法第58条第1項第2号」にある「被保険者であつた者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であつた間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して五年を経過する日前に死亡したとき」に該当することがわかります。

こちらに該当すると「法第58条」本文の但し書きにある「第一号又は第二号に該当する場合にあつては、死亡した者につき、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは、この限りでない。」に該当します。

したがって、
・死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間がある
かつ
・当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たない
この2つの条件に該当すると、受給要件に該当しない
ことになります。

ただし、これを補う目的で設置されている、もう一つの根拠条文である「昭60法附則第64条第2項」には、以下の規定があります。

・令和八年四月一日前に死亡した者
ピンクマーカー部分の「三分の二に満たないとき」は、当該死亡日の前日において当該死亡日の属する月の前々月までの一年間のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の国民年金の被保険者期間がないときを除く

ということで、死亡前の1年間に国民年金の滞納期間がなければ、受給要件を満たすことになるわけですね。

本肢は○です。

厚生年金保険法 令和3年第5問 ウ

85歳の老齢厚生年金の受給権者が死亡した場合、その者により生計を維持していた未婚で障害等級2級に該当する程度の障害の状態にある60歳の当該受給権者の子は、遺族厚生年金を受けることができる遺族とはならない。

解答の根拠

法第59条第1項第2号

根拠条文を確認します。

(遺族)
第五十九条 遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であつた者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母(以下単に「配偶者」、「子」、「父母」、「孫」又は「祖父母」という。)であつて、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(失そうの宣告を受けた被保険者であつた者にあつては、行方不明となつた当時。以下この条において同じ。)その者によつて生計を維持したものとする。ただし、妻以外の者にあつては、次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
 夫、父母又は祖父母については、五十五歳以上であること。
 子又は孫については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるか、又は二十歳未満で障害等級の一級若しくは二級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと。

厚生年金保険法

本肢は、「遺族厚生年金の遺族の範囲」についてです。

上記根拠条文のとおり、第59条に遺族の条件が規定されています。

問題文には、「受給権者の子」とありますので、第1項第2号を確認します。

●遺族年金…子・孫の受給条件
①18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある
又は
②20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていない

以上を踏まえて問題文を確認すると、②の要件で、障害等級と未婚の条件は満たしますが、「60歳」ということで「20歳未満」ではありませんので、遺族厚生年金を受けることができる遺族とはなりません

本肢は○です。

厚生年金保険法 令和3年第5問 エ

厚生年金保険の被保険者であった甲には妻の乙と、甲の前妻との間の子である15歳の丙がいたが、甲が死亡したことにより、乙と丙が遺族厚生年金の受給権者となった。その後、丙が乙の養子となった場合、丙の遺族厚生年金の受給権は消滅する。

解答の根拠

法第63条第1項第3号

根拠条文を確認します。

(失権)
第六十三条 遺族厚生年金の受給権は、受給権者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。
 死亡したとき。
 婚姻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)をしたとき。
三 直系血族及び直系姻族以外の者の養子(届出をしていないが、事実上養子縁組関係と同様の事情にある者を含む。)となつたとき。
 離縁によつて、死亡した被保険者又は被保険者であつた者との親族関係が終了したとき。
 次のイ又はロに掲げる区分に応じ、当該イ又はロに定める日から起算して五年を経過したとき。
イ 遺族厚生年金の受給権を取得した当時三十歳未満である妻が当該遺族厚生年金と同一の支給事由に基づく国民年金法による遺族基礎年金の受給権を取得しないとき 当該遺族厚生年金の受給権を取得した日
ロ 遺族厚生年金と当該遺族厚生年金と同一の支給事由に基づく国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有する妻が三十歳に到達する日前に当該遺族基礎年金の受給権が消滅したとき 当該遺族基礎年金の受給権が消滅した日

厚生年金保険法

本肢は、「遺族厚生年金の失権」に関する問題です。

問題文には「養子」とあるので、上記根拠条文の第62条第1項第3号に養子に関する規定があり、「直系血族及び直系姻族以外の者の養子となったとき」、遺族厚生年金の受給権を失権する、とされています。

問題文にある「妻乙」は、「子丙」からすると、「直系姻族」となります。

そのため、「子丙」が「妻乙」の養子となった場合、遺族厚生年金の受給権は失権しないことになりますね。

本肢はで×す。

厚生年金保険法 令和3年第5問 オ

厚生年金保険の被保険者の死亡により、被保険者の死亡当時27歳で子のいない妻が遺族厚生年金の受給権者となった。当該遺族厚生年金の受給権は、当該妻が30歳になったときに消滅する。

解答の根拠

法第63条第1項第5号

根拠条文は、一つ前の肢エと同じですので、ピンクマーカー部分をご確認ください。

上記根拠条文には、以下の内容が規定されています。

(法第63条第1項第5号)次のイまたはロに該当してから5年経過したら失権する
イ:30歳未満である妻の遺族厚生年金で、子がおらず遺族基礎年金を取得しない場合で、当該遺族厚生年金の受給権を取得したとき
ロ:子がいて遺族基礎年金を取得した場合、妻が30歳に到達する日前に当該遺族基礎年金の受給権が消滅したとき

問題文には、「27歳で子がいない」ということで、上記の「イ」に該当します。

その場合は、遺族厚生年金の受給権を取得してから「5年経過したら失権」となりますので、「30歳になったら失権する」というのは誤りになります。

本肢は×です。

以上から、誤りの選択肢はエとオとなりますので、本問の正解は「E」となります。

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