障害厚生年金に関する次のアからオの記述のうち、正しいものの組合せは、後記AからEまでのうちどれか。
A(アとイ)
B(アとウ)
C(イとエ)
D(ウとオ)
E(エとオ)
厚生年金保険法 令和3年第4問 ア
厚生年金保険法第47条の3第1項に規定する基準障害と他の障害とを併合した障害の程度による障害厚生年金の支給は、当該障害厚生年金の請求があった月の翌月から始まる。
法第47条の3第3項
根拠条文を確認します。
第四十七条の三 疾病にかかり、又は負傷し、かつ、その傷病(以下この条において「基準傷病」という。)に係る初診日において被保険者であつた者であつて、基準傷病以外の傷病により障害の状態にあるものが、基準傷病に係る障害認定日以後六十五歳に達する日の前日までの間において、初めて、基準傷病による障害(以下この条において「基準障害」という。)と他の障害とを併合して障害等級の一級又は二級に該当する程度の障害の状態に該当するに至つたとき(基準傷病の初診日が、基準傷病以外の傷病(基準傷病以外の傷病が二以上ある場合は、基準傷病以外のすべての傷病)に係る初診日以降であるときに限る。)は、その者に基準障害と他の障害とを併合した障害の程度による障害厚生年金を支給する。
厚生年金保険法
2(略)
3 第一項の障害厚生年金の支給は、第三十六条第一項の規定にかかわらず、当該障害厚生年金の請求があつた月の翌月から始めるものとする。
本問は、全体的に「障害厚生年金」に関する問題です。
基準障害による障害厚生年金の支給は、上記根拠条文のとおり「法36条1項の規定にかかわらず、当該障害厚生年金の請求があった月の翌月から始める」とされています。
ちなみに、法36条1項では「年金を支給すべき事由が生じた月の翌月から始め」とされているので、間違い探しのようですが、「請求ベース」か「事由発生ベース」かで違いがあるわけですね。
本肢は○です。
厚生年金保険法 令和3年第4問 イ
厚生年金保険法第48条第2項の規定によると、障害等級2級の障害厚生年金の受給権者が、更に障害等級2級の障害厚生年金を支給すべき事由が生じたことにより、同法第48条第1項に規定する前後の障害を併合した障害の程度による障害厚生年金の受給権を取得したときは、従前の障害厚生年金の支給は停止するものとされている。
法第48条第2項
根拠条文を確認します。
(障害厚生年金の併給の調整)
厚生年金保険法
第四十八条
2 障害厚生年金の受給権者が前項の規定により前後の障害を併合した障害の程度による障害厚生年金の受給権を取得したときは、従前の障害厚生年金の受給権は、消滅する。
障害を併合し、併合後の障害の程度による障害厚生年金の受給権を取得したときは、従前の障害厚生年金は「支給停止」ではなく「消滅」します。
両者の違いは、「再度支給が開始される可能性があるか否か」になります。
「停止」ということであれば、止めていたものをまた再開することができますが、「消滅」ということであれば、もうなくなってしまっているわけですので再開はできません。
併合の場合は、従前のものと新規のものが合わさって新しいものができるため、従前のものはもうなくなってしまっている…と考えます。
本肢は×です。
厚生年金保険法 令和3年第4問 ウ
期間を定めて支給を停止されている障害等級2級の障害厚生年金の受給権者に対して更に障害等級2級の障害厚生年金を支給すべき事由が生じたときは、厚生年金保険法第48条第1項に規定する前後の障害を併合した障害の程度による障害厚生年金は、従前の障害厚生年金の支給を停止すべきであった期間、その支給が停止され、その間、その者に従前の障害を併合しない障害の程度による障害厚生年金が支給される。
法第49条第1項
根拠条文を確認します。
第四十九条 期間を定めて支給を停止されている障害厚生年金の受給権者に対して更に障害厚生年金を支給すべき事由が生じたときは、前条第一項の規定により支給する前後の障害を併合した障害の程度による障害厚生年金は、従前の障害厚生年金の支給を停止すべきであつた期間、その支給を停止するものとし、その間、その者に従前の障害を併合しない障害の程度による障害厚生年金を支給する。
厚生年金保険法
本肢は、条文そのままの内容となっています。
この条文は何をルールとしたいのか…。
まず、
・従前の障害厚生年金【A】
・新規の障害厚生年金【B】
とします。
本テーマは、「【A】が期間を定めて支給停止されている間に、【B】の受給権が発生した場合どうなる?」となります。
通常であれば1+1=2となるところですが、その前者の「1」が「存在はするけど停止されている」わけですね。
この場合は、根拠条文によれば、「【A】が支給停止されている間は、1+1=2とせず、【A】を支給する」という対応をとります。
2は払い過ぎ、0はかわいそう…ということで、1だけは支給してあげよう、ということですね。
本肢は○です。
厚生年金保険法 令和3年第4問 エ
厚生年金保険法第48条第1項に規定する前後の障害を併合した障害の程度による障害厚生年金の額が、従前の障害厚生年金の額よりも低額であったとしても、従前の障害厚生年金は支給が停止され、併合した障害の程度による障害厚生年金の支給が行われる。
法第50条第4項
根拠条文を確認します。
(障害厚生年金の額)
厚生年金保険法
第五十条
4 第四十八条第一項の規定による障害厚生年金の額は、その額が同条第二項の規定により消滅した障害厚生年金の額より低額であるときは、第一項及び第二項の規定にかかわらず、従前の障害厚生年金の額に相当する額とする。
まず、肢イで解説したように、「障害を併合し、併合後の障害の程度による障害厚生年金の受給権を取得したときは、従前の障害厚生年金は「支給停止」ではなく「消滅」します。」ので、問題文にある「従前の障害厚生年金は支給が停止され」の部分が明らかな誤りです。
また、本肢のメインテーマである「併合した障害厚生年金が、従前の障害厚生年金よりも低額になってしまった」場合はどうするのか、についても、上記根拠条文にあるとおり「従前の障害厚生年金の額に相当する(高い方の)額とする」とあります。
新たに障害が加わったのに、結果として障害厚生年金の額が少なくなったら、納得できないですよね…。
本肢は×です。
厚生年金保険法 令和3年第4問 オ
障害厚生年金の受給権者は、障害の程度が増進した場合には、実施機関に年金額の改定を請求することができるが、65歳以上の者又は国民年金法による老齢基礎年金の受給権者であって障害厚生年金の受給権者である者(当該障害厚生年金と同一の支給事由に基づく障害基礎年金の受給権を有しない者に限る。)については、実施機関が職権でこの改定を行うことができる。
法第52条第7項 / 法附則第16条の3第2項
根拠条文を確認します。
第五十二条
厚生年金保険法
(中略)
2 障害厚生年金の受給権者は、実施機関に対し、障害の程度が増進したことによる障害厚生年金の額の改定を請求することができる。
(中略)
7 第一項から第三項まで及び前項の規定は、六十五歳以上の者であつて、かつ、障害厚生年金の受給権者(中略)については、適用しない。
本肢は「障害厚生年金の年金額の改定」に関する問題です。
障害厚生年金の年金額の改定は、65歳以上の者又は老齢基礎年金の受給権者であって、かつ、障害厚生年金の受給権者については、上記根拠条文のとおり適用されません。
ということで、問題文にある「実施機関が職権でこの改定を行うことができる」という部分が誤り、となります。
本肢は×です。
以上から、正しいのは(ア)と(ウ)となりますので、正解は「B」となります。