健康保険法に関する次の記述のうち、誤っているものはいくつあるか。
A 一つ
B 二つ
C 三つ
D 四つ
E 五つ
健康保険法 令和3年第4問 ア
療養の給付を受ける権利は、これを行使することができる時から2年を経過したときは、時効によって消滅する。
法193条第1項
根拠条文を確認します。
(時効)
第百九十三条 保険料等を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したときは、時効によって消滅する。
上記条文をそのまま読めば、「療養の給付の時効は2年で正解!」となってしまいそうです。
ですが、健康保険法上で時効が問題となるのは「現金給付」のみとなります。
もう一つの給付の態様として「現物給付」があります。
現金給付は、例えば療養の費用を請求することをずっと忘れていた…という場合に2年経ったら時効にかかり請求できなくなる…というのはイメージがつくと思います。
しかし、現物給付は、「現物」という名の通り、今目の前で治療を受けること自体を指しますので、時効という概念になじみません。
本肢は×です。
健康保険法 令和3年第4問 イ
健康保険組合が解散する場合において、その財産をもって債務を完済することができないときは、当該健康保険組合は、設立事業所の事業主に対し、政令で定めるところにより、当該債務を完済するために要する費用の全部又は一部を負担することを求めることができる。
法26条第3項
根拠条文を確認します。
(解散)
第二十六条
1・2項(略)
3 健康保険組合が解散する場合において、その財産をもって債務を完済することができないときは、当該健康保険組合は、設立事業所の事業主に対し、政令で定めるところにより、当該債務を完済するために要する費用の全部又は一部を負担することを求めることができる。
本肢は条文の通りですね。
冷静に考えてみれば、健康保険組合が解散する際に債務が完済しきればければ、踏み倒すわけにはいかず誰かが負担するしかないですね。
そして、その「誰か」にふさわしいのは…、「設立事業所の事業主」となるでしょう。
事業主からすると、「なんで我々が負担しなければいけないの??」という気持ちになるでしょうが、健康保険組合の次にふさわしい立場…となると事業主になってしまいますよね。
法律で定めていることからも、問題になる前にあらかじめ明確にしておきましょう、ということなのだと思います。
本肢は○です。
健康保険法 令和3年第4問 ウ
日雇特例被保険者の保険の保険者の事務のうち、厚生労働大臣が指定する地域に居住する日雇特例被保険者に係る日雇特例被保険者手帳の交付及びその収受その他日雇特例被保険者手帳に関する事務は、日本年金機構のみが行うこととされている。
法123条第2項 / 法203条第1項
根拠条文を確認します。
第百二十三条 日雇特例被保険者の保険の保険者は、協会とする。
2 日雇特例被保険者の保険の保険者の業務のうち、日雇特例被保険者手帳の交付、日雇特例被保険者に係る保険料の徴収及び日雇拠出金の徴収並びにこれらに附帯する業務は、厚生労働大臣が行う。(市町村が処理する事務等)
健康保険法
第二百三条 日雇特例被保険者の保険の保険者の事務のうち厚生労働大臣が行うものの一部は、政令で定めるところにより、市町村長が行うこととすることができる。
日雇特例被保険者に関する、手帳の交付や保険料の徴収等の事務は、123条により「厚生労働大臣が行う」とされています。
そして、203条により、その事務を政令で「市町村長に行うことができる」としていますね。
ということで、問題文にある「日本年金機構」ではなく、「市町村長」が正しい、となります。
本肢は×です。
健康保険法 令和3年第4問 エ
保険者は、指定訪問看護事業者が偽りその他不正の行為によって家族訪問看護療養費に関する費用の支払いを受けたときは、当該指定訪問看護事業者に対し、その支払った額につき返還させるほか、その返還させる額に100分の40を乗じて得た額を支払わせることができる。
法58条第3項
根拠条文を確認します。
(不正利得の徴収等)
第五十八条
1・2項(略)
3 保険者は、第六十三条第三項第一号に規定する保険医療機関若しくは保険薬局又は第八十八条第一項に規定する指定訪問看護事業者が偽りその他不正の行為によって療養の給付に関する費用の支払又は第八十五条第五項(略)、第八十八条第六項(略)若しくは第百十条第四項の規定による支払を受けたときは、当該保険医療機関若しくは保険薬局又は指定訪問看護事業者に対し、その支払った額につき返還させるほか、その返還させる額に百分の四十を乗じて得た額を支払わせることができる。
本肢は条文の通りです。
偽りその他不正の行為によって支払いを受けたものなので、返金させるのはもちろんのこと、さらに罰金的な意味合いで40%の金額も追加で支払わせることができる、とされています。
本肢は○です。
健康保険法 令和3年第4問 オ
短時間労働者の被保険者資格の取得基準においては、卒業を予定されている者であって適用事業所に使用されることとなっているもの、休学中の者及び定時制の課程等に在学する者その他これらに準ずる者は、学生でないこととして取り扱うこととしているが、この場合の「その他これらに準ずる者」とは、事業主との雇用関係の有無にかかわらず、事業主の命により又は事業主の承認を受け、大学院に在学する者(いわゆる社会人大学院生等)としている。
令和4年3月18日保保発0318第1号
根拠となる通達を確認します。
第2 健康保険・厚生年金保険の被保険者資格の取得基準等に関する具体的事務の取扱い
令和4年3月18日保保発0318第1号(短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に係る事務の取扱いについて)
2 4要件について
(3) 学生でないこと
健康保険法施行規則(大正15年内務省令第36号)第23条の6第1項及び厚生年金保険法施行規則第9条の6第1項の規定により、卒業を予定している者であって適用事業所に使用されることとなっている者、休学中の者及び定時制の課程等に在学する者その他これらに準ずる者は、学生でないこととして取り扱うこととするが、この場合の「その他これらに準ずる者」とは、事業主との雇用関係を存続した上で、事業主の命により又は事業主の承認を受け、大学院等に在学する者(いわゆる社会人大学院生等)とする。
本肢は、健康保険の被保険者要件の一つである「学生ではないこと」のルール詳細に関する問題です。
通常の学生は健康保険の被保険者になれませんが、例外的に…
・学校に籍はあるものの、卒業間近のため実質的には適用事業所で働いている面が大きい場合
・休学中のため働いている面が大きいの場合
・学校に通っているものの、定時制で昼間は働いている場合
は、被保険者とする、とされています。
もう一つのパターンとして「その他これらに準ずる者」と挙げられており、その内容が問われています。
通達の内容を知っているかどうか、という観点では、「知らない」という方が大半だと思います。
ですが、冷静に問題文を読んでみると、問題文にある「事業主との雇用関係の有無にかかわらず」…つまり「雇用関係がない場合」まで、被保険者として認めるのは違和感ありますよね、
通達にあるように「事業主との雇用関係を存続した状態で学校に通う社会人大学生等」を想定しています。
本肢は×です。
以上から、誤りは3つとなり、解答は「ウ」となります。