次の記述のうち、正しいものはどれか。なお、本問は、「令和 2 年版厚生労働白書(厚生労働省)」を参照しており、当該白書又は当該白書が引用している調査による用語及び統計等を利用している。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第10問 A
公的年金制度の被保険者数の増減について見ると、第1号被保険者は、対前年比70万人増で近年増加傾向にある一方、第2号被保険者等(65歳以上70歳未満の厚生年金被保険者を含む。)や第3号被保険者は、それぞれ対前年比34万人減、23万人減で、近年減少傾向にある。これらの要因として、新型コロナウイルス感染症の影響による生活に困窮する人の増加、失業率の上昇等があげられる。
令和2年版厚生労働白書 P296
本問は「令和2年版厚生労働白書」からの出題になります。
白書からの出題対策ですが、個人的には「全部読んで頭に入れておく」というのは難しいと思います。
このような問題に対しては、
・過去問練習を通じて、「出題のされ方」に慣れておき
・本番は問題文をよく読んで理解し「The常識力」で解く
とすると良いでしょう。
「The常識力」というのは、他の問題でも紹介している考え方ですが、問題文をよく読んでみると、
・それは違うでしょう
・そうとは言い切れないんじゃない
というような、自分の常識と照らし合わせて気づく部分があると思います。
それが「The常識力」!!
ぜひ、社労士の勉強を通じて、「The常識力」を高めていきましょう。
それでは解説に入ります。
まずは肢Aの根拠となる白書の記載個所を引用します。
被保険者数の増減について見てみると、第2号被保険者等は対前年比70万人増で、近年増加傾向にある一方、第1号被保険者や第3号被保険者はそれぞれ対前年比34万人、23万人減で、近年減少傾向にある。これらの要因として、後述する被用者保険の適用拡大や厚生年金の加入促進策の実施、高齢者等の就労促進などが考えられる。
令和2年版厚生労働白書
問題文では「1号被保険者増/2号被保険者減」となっていますが、正しくは、上記の引用個所のように「2号被保険者増/1号被保険者減」となっています。
ここで「The常識力」の登場です。
考えてみてほしいのですが、いくら問題文にあるような「新型コロナウィルスを理由とした失業率アップ」としても、全国で34万人も会社を退職して2号被保険者から1号被保険者になる人がいると思いますでしょうか?
そんなに2号被保険者が減ったら、厚生年金の財源が本当にピンチです。
このように冷静に考えると「それってちょっとおかしくない?」と気づくでしょう。
また、社労士試験の勉強をしていれば、「パートタイム労働者への社会保険拡大」という流れが浮かんだ方も多いはず。
そう考えると、2号被保険者が増えている…とつながるでしょう。
本肢は×です。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第10問 B
年金を受給しながら生活をしている高齢者や障害者などの中で、年金を含めても所得が低い方々を支援するため、年金に上乗せして支給する「年金生活者支援給付金制度」がある。老齢年金生活者支援給付金の支給要件に該当している場合は、本人による請求手続きは一切不要であり、日本年金機構が職権で認定手続きを行う。
令和2年版厚生労働白書 P304
根拠となる白書の記載個所を引用します。
給付金の支給を受けるには、本人による給付金の認定の請求手続が必要である。なお、日本年金機構では、2019(平成31)年4月1日時点に年金を受給中であり、かつ年金生活者支援給付金の受給資格要件に該当する者に対して請求書(簡易な請求手続きとするため、氏名等を記載いただき返送することで手続きが行える請求書)を2019年9月に発送し、初回の給付を2019年12月に行った。今後も、対象と見込まれる方にはあらかじめ請求書をお送りするなど、支給対象となる方に対して年金生活者支援給付金を着実に支給する。
令和2年版厚生労働白書
こちらも、仮に「年金生活者支援給付金制度」とを知らなかったとしても、「The常識力」で解けそうな問題です。
社労士試験を勉強していると、社会保険関連だけではないですが、行政に関する手続き全般が「申請主義」…つまり、給付金などを受給できる権利があったとしても、申請しなければもらえないものが多い…という状況をご存知だと思います。
本肢のテーマである、「年金生活者支援給付金制度」も同様に、申請(請求)手続きが必要です。
本肢は×です。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第10問 C
2008(平成20)年度の後期高齢者医療制度発足時における75歳以上の保険料の激変緩和措置として、政令で定めた軽減割合を超えて、予算措置により軽減を行っていたが、段階的に見直しを実施し、保険料の所得割を5割軽減する特例について、2019(令和元)年度から本則(軽減なし)とし、元被扶養者の保険料の均等割を9割軽減する特例について、2020(令和2)年度から本則(資格取得後3年間に限り7割軽減とする。)とするといった見直しを行っている。
令和2年版厚生労働白書 P359
根拠となる白書の記載個所を引用します。
75歳以上の保険料軽減特例については、2008(平成20)年度の後期高齢者医療制度発足時における激変緩和措置として、政令で定めた軽減割合を超えて、予算措置により軽減を行っていたが、世代間・世代内の負担の公平を図り、負担能力に応じた負担を求める観点から、段階的に見直しを実施し、保険料の所得割を5割軽減する特例について、2018(平成30)年度から本則(軽減なし)とし、元被扶養者の保険料の均等割を9割軽減する特例について、2019(令和元)年度から本則(資格取得後2年間に限り5割軽減とする)とするといった見直しを行っている。
令和2年版厚生労働白書
本肢は、正直「The常識力」でも判断が難しい肢ですね。
というのも、上記の白書の記載個所と見比べてみていただいてお分かりのとおり…
①保険料の所得割を5割軽減する特例
②元被扶養者の保険料の均等割を9割軽減する特例
・問題文…2019年:①軽減なし/2020年:②3年間7割減
・白書(正解)…2018年:①軽減なし/2019年:②2年間7割減
と、微妙に年をずらしており、これに気づける人がどれくらいいるかな…という感じです。
本肢は×です。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第10問 D
社会保障給付費の部門別構成割合の推移を見ると、1989(平成元)年度においては医療が49.5%、介護、福祉その他が39.4%を占めていたが、医療は1990年台半ばから、介護、福祉その他は2004(平成16)年度からその割合が減少に転じ、年金の割合が増加してきている。2017(平成29)年度には、年金が21.6%と1989年度の約2倍となっている。
令和2年版厚生労働白書 P120
根拠となる白書の記載個所を引用します。
社会保障給付費の部門別構成割合の推移を見ると、1989(平成元)年度においては年金が49.5%、医療が39.4%を占めていたが、医療は1990年代半ばから、年金は2004(平成16)年度からその割合が減少に転じ、介護、福祉その他の割合が増加してきている。2017年度には、介護と福祉その他を合わせて21.6%と、1989年度の約2倍となっている。
令和2年版厚生労働白書
こちらは、「The常識力」で解けそうな問題です。
問題文では…「2004年度から介護・福祉の構成割合が減少に転じ」とありますが、超高齢化社会を迎えようとしている日本で、「介護・福祉」にかかる社会保障給付費の構成が減ることがあるのでしょうか?
根拠として引用した白書に記載の通り、「介護・福祉」の構成割合はどんどん増加してきており、1989年の2倍にまで増えているのが現状です。
本肢は×です。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第10問 E
保険医療機関等で療養の給付等を受ける場合の被保険者資格の確認について、確実な本人確認と保険資格確認を可能とし、医療保険事務の効率化や患者の利便性の向上等を図るため、オンライン資格確認の導入を進める。オンライン資格確認に当たっては、既存の健康保険証による資格確認に加えて、個人番号カード(マイナンバーカード)による資格確認を可能とする。
令和2年版厚生労働白書 P355
根拠となる白書の記載個所を引用します。
保険医療機関等で療養の給付等を受ける場合の被保険者資格の確認について、確実な本人確認と保険資格確認を可能とし、医療保険事務の効率化や患者の利便性の向上等を図るため、オンライン資格確認の導入を進める。また、オンライン資格確認に当たっては、既存の健康保険証による資格確認に加えて、個人番号カード(マイナンバーカード)による資格確認を可能とする。
令和2年版厚生労働白書
こちらは、「The常識力」で解けそうな問題です。
ニュース等でもご存じの通り、マイナンバーカードを健康保険証として活用する方向で行政が動いております。
その動向をご存じであれば、自信をもって○と判断できる肢でしょう。
(なお、この解説記事を書いている2023年6月は、マイナンバーカードについて運用上の問題が発覚している時期でした。)
本肢は○となり、本問の正解になります。