社会保険労務士試験【労働安全衛生法】<令和3年第8問>

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労働安全衛生法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

労働安全衛生法 令和3年第8問 A

労働安全衛生法では、「労働者」は、労働基準法第9条に規定する労働者だけをいうものではなく、建設業におけるいわゆる一人親方(労災保険法第35条第1項の規定により保険給付を受けることができることとされた者)も下請負人として建設工事の業務に従事する場合は、元方事業者との関係において労働者としている。

解答の根拠

法2条2号

一人親方というのは、その名の通り自分一人で(※)建設業などを営んでいる方のことを指します。(※:正確には、労働者を使用する総日数が年間100日未満である場合も該当)

よく個人事業主と混同されがちですが、上記の労働者の有無に加え、対象業種や労災加入の可否など、両者は似て非なるものです。

さて本肢の論点は、その一人親方が下請負人として大きな建設工事の業務に従事する場合、その工事を取り仕切る元方事業者からすれば、当該一人親方は労働者のような立ち位置になるので、労働安全衛生法における「労働者」として各規定が適用されるのか否か、という点になります。

条文には以下の規定があります。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(中略)
 労働者 労働基準法第九条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。

労働安全衛生法

労働安全衛生法における労働者とは、労働基準法第9条に規定されている労働者、と定義されていますね。

ここで、復習をかねて労働基準法第9条を確認してみましょう。

(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

労働基準法

労働基準法第9条には、「事業又は事務所に使用される者」を労働者と定義しています。

以上のことから、一人親方は「事業又は事務所に使用される者」ではないため、たとえ大きな工事現場で元方事業者からすれば労働者のような位置づけになるとしても、労働安全衛生法上の労働者には該当しない、ということがわかります。

この肢は×です。

労働安全衛生法 令和3年第8問 B

二以上の建設業に属する事業の事業者が、一の場所において行われる当該事業の仕事を共同連帯して請け負った場合においては、厚生労働省令で定めるところにより、そのうちの一人を代表者として定め、これを都道府県労働局長に届け出なければならないが、この場合においては、当該事業をその代表者のみの事業と、当該代表者のみを当該事業の事業者と、当該事業の仕事に従事する労働者を下請負人の労働者も含めて当該代表者のみが使用する労働者とそれぞれみなして、労働安全衛生法が適用される。

解答の根拠

法5条 第1項・第4項

問題文が長いですね…。

試験中、時間を気にしていると、このような長い肢はじっくり読めない・読み飛ばしてしまうこともあると思いますが、それが出題者の狙い…日ごろの問題練習から時間を意識しつつ、早く正確に論点をつかめるように訓練しましょう!

本肢のややこしい箇所を整理してみると、以下のようになります。
例として、AさんとBさんの2人で共同連帯で仕事を請け負い、Aさんを代表者と定めた場合
・「当該事業をその代表者のみの事業」=当該事業をAさんのみの事業とみなす
・「当該代表者のみを当該事業の事業者」=Aさんのみを当該事業の事業者とみなす
・「当該事業の仕事に従事する労働者を下請負人の労働者も含めて当該代表者のみが使用する労働者」=Bさんとその下請負人(Cさん・Dさん)を、Aさんのみが使用する労働者とみなす

ざっくりいうと、「Aさんの事業として、Aさんを代表者、Bさん・Cさん・Dさんを労働者とみなす」となります。

それを、法律に使われている言葉で正確に表現しようとすると、問題文のようなややこしい表現になるわけですね。

さて、上記のように見なして労働安全衛生法が適用できるのか、というのが論点ですが、問題ないのでは…と思いそうなところ、「下請負人の労働者も含めて」という箇所に気づけるかどうかが分かれ道でした。

通常の企業をイメージしていただければわかりますが、
・当該企業の代表(社長)=この問題文の例えのAさん
・当該企業の労働者(社員)=この問題文の例えのBさん
・当該企業の下請負人(下請け業者)=この問題文の例えのCさん・Dさん
と考えると、下請け業者に位置するCさん・Dさんまで、当該企業における労働安全衛生法の対象とするのは違和感ありますよね。

この肢は×です。

労働安全衛生法 令和3年第8問 C

労働安全衛生法では、事業者は、作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更したときは、1か月以内に建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて、労働安全衛生法又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならないとされている。

解答の根拠

法28条の2 第1項 / 則24条の11 第1項

この肢は細かい知識をきいていますね。

結論としては「1か月以内に」の部分が誤りで、正しくは「作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更するとき」となります。

根拠条文も確認しておきましょう。

(危険性又は有害性等の調査)
第二十四条の十一 法第二十八条の二第一項の危険性又は有害性等の調査は、次に掲げる時期に行うものとする。
(中略)
 作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更するとき。

労働安全衛生法規則

個人的には、「1か月」と期限を区切った方が効力がありそうな気もしますが、条文にはありませんね。

この肢は×となります。

労働安全衛生法 令和3年第8問 D

労働安全衛生法では、化学物質による労働者の健康障害を防止するため、新規化学物質を製造し、又は輸入しようとする事業者は、あらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣の定める基準に従って有害性の調査(当該新規化学物質が労働者の健康に与える影響についての調査をいう。)を行うよう努めなければならないとされている。

解答の根拠

法57条の4 第1項

この肢は、よくある「義務規定か努力規定か」問題です。

義務規定か努力規定かの違いは、当該規定内容の重要度や緊急度、深刻度などをベースに決定されるのだとは思いますが、一般的な社労士受験生は、安衛法の化学物質分野に触れたことが(私を含め)ない方が多いと思いますので、自身の基準で「重要そうか」などと判断するのは難しいですね。

このような問題は、過去問を練習した際に押さえる、と対策をしていくほかないと思います。

本肢は×となります。

労働安全衛生法 令和3年第8問 E

労働安全衛生法では、厚生労働大臣は、化学物質で、がんその他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれのあるものについて、当該化学物質による労働者の健康障害を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該化学物質を製造し、輸入し、又は使用している事業者その他厚生労働省令で定める事業者に対し、政令で定める有害性の調査(当該化学物質が労働者の健康障害に及ぼす影響についての調査をいう。)を行い、その結果を報告すべきことを指示することができることとされ、また、その指示を行おうとするときは、あらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、学識経験者の意見を聴かなければならないとされている。

解答の根拠

法57条の5 第1項・第3項

本肢は、2つの論点が含まれています。

まず前段の「重度の健康障害を労働者に生ずるおそれのある化学物質を製造・輸入・使用している事業者等に対し、有害性の調査の実施と結果の報告を指示できる」という点ですが、これは根拠条文で示している「法57条の5 第1項」そのままの内容となっていますので、正しい内容です。

次に、後段の「厚労大臣が指示を行う際は、学識経験者の意見を聴かなければならない」という点については、同条の「第3項」そのままの内容となっていますので、こちらも正しい、となります。

本肢は○となり、本問の正解となります。

労働安全衛生法では、条文そのままの内容が問われることが多いですが、膨大な量の条文、かつ、労働基準法と比べてあまり日常業務・日々の暮らしに関連のない内容が多いため、条文を読み込んで覚えておく…ということも難しいと思います。

苦しいところですが、「3問中1問取れればOK、あとは労働基準法でカバーする」など、自身の目標点・戦略をあらかじめ決めておき、勉強の時間配分にメリハリをつけることも必要かもしれません。

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