労働基準法に定める労働契約及び年次有給休暇等に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
労働基準法 令和3年第2問 A
労働基準法第14条にいう「一定の事業の完了に必要な期間を定める」労働契約については、3年(同条第1項の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては、5年)を超える期間について締結することが可能であるが、その場合には、その事業が有期的事業であることが客観的に明らかであり、その事業の終期までの期間を定める契約であることが必要である。
労働契約期間の上限に関する問題です。
この論点については、まずは「原則3年、例外5年」そして、その例外は①専門知識・②60歳以上の2つ、と覚えておきましょう。
次に、本問のポイントである「一定の事業の完了に必要な期間を定める契約」ですが、これは「その一定の事業の完了に必要な期間」が上限となります。
もちろん、なんでもかんでも「一定の事業の完了に必要な期間を定める契約ですから…」として、労働者を不当に長期にわたり拘束するような労働契約ばかりあふれてしまっては、前述した「3年・5年」のルールが形骸化してしまいます。
その点から、設問文にもあるように、
(1)客観的に有期的事業であることが明らかであること(例えば建築のように、完工という明確な終わりがある事業など)
(2)当該有期的事業の完了までに労働契約の終期を迎えること
が、このルールの適用条件となります。
この肢は○となり、本問の正解になります。
労働基準法 令和3年第2問 B
労働契約の締結の際に、使用者が労働者に書面により明示すべき「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」について、労働者にとって予期せぬ不利益を避けるため、将来就業する可能性のある場所や、将来従事させる可能性のある業務を併せ、網羅的に明示しなければならない。
この肢はぜひ落ち着いて考えてみて、「そりゃ無理だよな」と感じてほしいです。
仮に新卒入社の社員に労働条件を明示する場合、今後定年までの約40年の当該社員の就業の場所や従事すべき業務を網羅的に明示する…なんてことはできないですよね。
そのため、「雇入れ直後の就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば足りる」とされています。
(根拠は、H11.1.29基発45号)
「予期せぬ不利益…」とか書かれてしまうといかにもな感じがしますが、実務では、例えば入社説明会や採用面接などで、将来の転勤の可能性や異動して業務内容が変わる可能性などをあらかじめ伝えて、その不利益が発生する可能性を示唆しておくものです。
なお、最近テレワークが浸透してきておりますが、テレワークをさせる可能性がある場合は「就業の場所」として労働契約に書いておかないといけないのか、という点はいかがでしょうか。
この点については、厚生労働省から出されている『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』に以下の記載がありますので、ついでに押さえておくと良いと思います。
労働者に対し就労の開始日からテレワークを行わせることとする場合には、就業の場所として(2<※就業規則を指しています>)の「使用者が許可する場所」も含め自宅やサテライトオフィスなど、テレワークを行う場所を明示する必要がある。
テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(厚生労働省)
この肢は×です。
労働基準法 令和3年第2問 C
労働基準法第17条にいう「労働することを条件とする前貸の債権」には、労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融や賃金の前払いのような弁済期の繰上げ等で明らかに身分的拘束を伴わないものも含まれる。
設問文が少し難解ですね。
法学部出身の方や、行政書士試験などを受けられたことがある方にとっては、「債権」「弁済期」という用語がスッと入ってくると思いますが、そうではない方も多いと思います。
本設問は通達(S33.2.13基発90号)に「含まれない」と書いてあるので、その通りだ、と済ませてしまえばそれまでですが、ここではだらだらと解説してみたいと思います。
何らかの事情…例えば生活が苦しいため、勤め先にお金を借りることをイメージしてください。この借りたお金が、設問文の中の「前貸の債権」に当たります。労働基準法第17条では、この「前貸の債権」の前に「労働することを条件とする」をつけて、これと賃金の相殺を禁止しています。
「先にお金を借りたんだから、働いて返済させることが何が悪いのだ?」と思う方も多いかもしれません。
この条文のねらいは、「働いて借金を返すことを約束させると、不当に労働者を拘束することになる」つまり、その仕事を辞めたくても辞められない状況に労働者を追い込んでしまうことになることを防ぐ、と言われています。
しかし、これでもなお「だから!お金を借りたんだから、仕事が嫌でも無理やり働かせて返済させることが何が悪いのかわからん!」という人もいるでしょう(私もそうでした)。
そこで考えてほしいのは、「借りたお金を返す方法は、働くだけではないはず。例えば、親族に借りたお金で返済するも良し、運よく宝くじが当たって当選金で返済するも良し…色々方法が考えられるのに、なぜ『働くこと』のみを条件とする必要があるのか。貸した方からすれば、お金が返済されればそれで良いではないか。何か他に理由があるのか…?」ということ。
その「他の理由」が、「労働者を不当に拘束すること」が多いのですね。
ということで、設問にある「明らかに身分的拘束を伴わない」状態であれば、上記の懸念はありませんので、第17条に抵触しない…となります。
この肢は×です。
労働基準法 令和3年第2問 D
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見聴取をした上で、就業規則に、労働契約に附随することなく、労働者の任意になす貯蓄金をその委託を受けて管理する契約をすることができる旨を記載し、当該就業規則を行政官庁に届け出ることにより、労働契約に附随することなく、労働者の任意になす貯蓄金をその委託を受けて管理する契約をすることができる。
この設問は、労働基準法第18条第2項が押さえられていれば解答できたと思います。
第十八条
② 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出なければならない。
設問文には、就業規則に規定し労基署へ届け出ればOKとありますが、上記の通り「労使協定」の締結・労基署への届出が必要な手続きになります。
手続面については、合格後の実務でも良く試験で覚えた知識を活用しますので、頑張って押さえるようにしましょう。
本肢は×となります。
労働基準法 令和3年第2問 E
労働基準法第39条に従って、労働者が日を単位とする有給休暇を請求したとき、使用者は時季変更権を行使して、日単位による取得の請求を時間単位に変更することができる。
こちらも通達(H21.5.29基発0529001号)に以下の記載があることから、「できない」となります。
時間単位年休についても、法第39条第5項の規定により、使用者の時季変更権の対象となるものであるが、労働者が時間単位による取得を請求した場合に日単位に変更することや、日単位による取得を請求した場合に時間単位に変更することは、時季変更に当たらず、認められないものであること。
H21.5.29基発0529001号
しかし、もし上記通達の存在を知らなかったとしても、「時季」変更権、という名称のとおり、年次有給休暇を取得する「時季」を変更する権利なので、「日単位の年休 ⇔ 時間単位の年休」の変更は、「取得の単位」を変更しているのであって、「取得の時季」を変更していないのではないか?と感じてほしいところです。
本肢は×となります。