労働基準法の総則(第1条~第12条)に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
労働基準法 令和6年第1問 A
労働基準法第1条にいう、「人たるに値する生活」とは、社会の一般常識によって決まるものであるとされ、具体的には、「賃金の最低額を保障することによる最低限度の生活」をいう。
法第1条
根拠条文を確認します。
(労働条件の原則)
第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
② この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。労働基準法
本肢は、「労働条件の原則」に関する問題です。
上記根拠条文のとおり、法第1条には「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」と規定されています。
ここでいう「人たるに値する生活」とは、憲法第25条第1項の「健康で文化的な生活」を内容とするものとされていて、どの程度が「人たるに値する生活」なのか、という点については、一般の社会通念によって決まるとされており、必ずしも「賃金の最低額を保障すること」とイコールではありません。
本肢は×です。
労働基準法 令和6年第1問 B
「労働基準法3条は労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、特定の信条を有することを、雇入れを拒む理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解される。」とするのが、最高裁判所の判例である。
法第3条 / 三菱樹脂事件(最判昭和48年12月12日)
根拠条文を確認します。
(均等待遇)
第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。労働基準法
本肢は、「均等待遇」に関する問題です。
法第3条には、上記根拠条文のとおり、「均等待遇」について規定されています。
判例によれば、「これは、雇入れ後における労働条件についての制限であつて、雇入れそのものを制約する規定ではない」とするのが最高裁判所の判例である。
つまり、採用後に差別してはならない、という趣旨であり、どんな人を採用するかについては、企業側に裁量が認められている、とされています。
本肢は×です。
労働基準法 令和6年第1問 C
事業場において女性労働者が平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いことが認められたため、男女間で異なる昇格基準を定めていることにより男女間で賃金格差が生じた場合には、労働基準法第4条違反とはならない。
労働基準法の施行に関する件(昭和22年9月13日発基17号)
根拠通達を確認します。
法第四条関係
(一) 本条の趣旨は我国における従来の国民経済の封建的構造のため男子労働者に比較して一般に低位であつた女子労働者の社会的経済的地位の向上を賃金に関する差別待遇の廃止といふ面から実現しようとするものであること。
(二) 職務能率技能等によつて賃金に個人的の差異のあることは、本条に規定する差別待遇ではないこと。
(三) しかしながら労働者が女子であることのみを理由として或は社会的通念として若しくは当該事業場において女子労働者が一般的に又は平均的に能率が悪いこと知能が低いこと勤続年数が短いこと扶養家族が少いこと等の理由によつて女子労働者に対し賃金に差別をつけることは違法であること。労働基準法の施行に関する件(昭和22年9月13日発基17号)
本肢は、「男女同一賃金の原則」に関する問題です。
上記根拠通達によれば、法第4条の「女性であることを理由として」とは、労働者が女性であることのみを理由として、あるいは社会通念として又は当該事業場において女性労働者が一般的又は平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者ではないこと等を理由とすることの意であり、これらを理由として、女性労働者に対し賃金に差別をつけることは違法である、とされている。
したがって、問題文のように「事業場において女性労働者が平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いことが認められたため、男女間で異なる昇格基準を定めていることにより男女間で賃金格差が生じた場合」は違法となります。
本肢は×です。
労働基準法 令和6年第1問 D
在籍型出向(出向元及び出向先双方と出向労働者との間に労働契約関係がある場合)の出向労働者については、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が、出向労働者について労働基準法等における使用者としての責任を負う。
昭和61年6月6日基発333号
根拠通達を確認します。
在籍型出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、出向元及び出向先に対しては、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用がある。すなわち、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法等における使用者としての責任を負うものである。
昭和61年6月6日基発333号
本肢は、「在籍型出向」に関する問題です。
本肢は上記根拠通達の通りの内容です。
「在籍型出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、出向元及び出向先に対しては、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法の適用がある。すなわち、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法における使用者としての責任を負う」とされています。
在籍型出向は、雇用関係は出向元・実際に働いているのは出向先、と複雑な形態ですが、それぞれ責任を負うこととされています。
本肢は○となり、本問の正解となります。
労働基準法 令和6年第1問 E
労働者に支給される物又は利益にして、所定の貨幣賃金の代わりに支給するもの、即ち、その支給により貨幣賃金の減額を伴うものは労働基準法第11条にいう「賃金」とみなさない。
昭和22年9月13日発基17号
根拠通達を確認します。
法第一一条関係
(一) 労働者に支給される物又は利益にして、次の各号の一に該当するものは、賃金とみなすこと。
(1) 所定貨幣賃金の代りに支給するもの、即ちその支給により貨幣賃金の減額を伴ふもの。
(2) 労働契約において、予め貨幣賃金の外にその支給が約束されてゐるもの。
(二) 右に掲げるものであつても、次の各号の一に該当するものは、賃金とみなさないこと。(1) 代金を徴収するもの、但しその代金が甚だしく低額なものはこの限りでない。
(2) 労働者の厚生福利施設とみなされるもの。
(三) 退職金、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等の恩恵的給付は原則として賃金とみなさないこと。但し退職金、結婚手当等であつて労働協約、就業規則、労働契約等によつて予め支給条件の明確なものはこの限りでないこと。労働基準法の施行に関する件(昭和22年9月13日発基17号)
本肢は「賃金」に関する問題です。
問題文にある「所定の貨幣賃金の代わりに支給するもの、即ち、その支給により貨幣賃金の減額を伴うもの」は、上記根拠通達のとおり、法第11条の賃金とみなすとされています。
本肢は○です。