社会保険労務士試験【労働者災害補償保険法/徴収法】<令和4年第10問>

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労働保険の保険料の徴収等に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

労働者災害補償保険法/徴収法 令和4年第10問 A

法人の取締役であっても、法令、定款等の規定に基づいて業務執行権を有しないと認められる者で、事実上、業務執行権を有する役員等の指揮監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を受けている場合には労災保険が適用されるため、当該取締役が属する事業場に係る労災保険料は、当該取締役に支払われる賃金(法人の機関としての職務に対する報酬を除き、一般の労働者と同一の条件の下に支払われる賃金のみをいう。)を算定の基礎となる賃金総額に含めて算定する。

解答の根拠

昭和34年1月26日基発48号

根拠通達を確認します。

法令、定款、取締役会規則その他内部規定等に基づき業務執行権を有すると認められる者については、労働者に該当しないものとし、これらの者以外で、事実上、業務執行権を有する取締役等の指揮、監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を受けている者については、原則として労働者として取り扱う

昭和34年1月26日基発48号

本肢は、「法人役員の労働者性」に関する問題です。

労災は、もともとの法律の趣旨が「労働者」の「災害」を「補償」する「保険」なので、労働者でない…例えば会社社長は補償の対象にはなりません。

では、社長と労働者の間にいる「取締役・役員」は、労災の対象となるのかどうか。

「取締役・役員」という言葉の定義は非常に曖昧です。

企業によっても風習的なもので意味合いが違っていたり、法律間でも異なっていたりします。

この点について、上記根拠通達には、
・対象外…法令、定款、取締役会規則その他内部規定等に基づき業務執行権を有すると認められる者
・対象…事実上、業務執行権を有する取締役等の指揮、監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を受けている者

とされています。

前者は社長に近い立ち位置で、定款にも名前があったり、取締役の規定を受けるようなケースは「労働者性がない」として対象外になりますが、後者のように、取締役とは呼ばれているものの、実際は上の役職(別の取締役)の指示を受けて労働に従事している…ということで「労働者性がある」場合は、対象となります。

したがって、後者のような方に支払われる賃金は、労災保険料の算定基礎として含める必要があります。

本肢は○です。

労働者災害補償保険法/徴収法 令和4年第10問 B

労災保険に係る保険関係が成立している造林の事業であって、労働保険徴収法第11条第1項、第2項に規定する賃金総額を正確に算定することが困難なものについては、所轄都道府県労働局長が定める素材1立方メートルを生産するために必要な労務費の額に、生産するすべての素材の材積を乗じて得た額を賃金総額とする。

解答の根拠

則第12条第1項第3号 / 則第15条

根拠条文を確認します。

(賃金総額の特例)
第十二条 法第十一条第三項の厚生労働省令で定める事業は、労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち次の各号に掲げる事業であつて、同条第一項の賃金総額を正確に算定することが困難なものとする。
 請負による建設の事業
 立木の伐採の事業
 造林の事業、木炭又は薪を生産する事業その他の林業の事業(立木の伐採の事業を除く。)
 水産動植物の採捕又は養殖の事業

第十五条 第十二条第三号及び第四号の事業については、その事業の労働者につき労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十二条第八項の規定に基づき厚生労働大臣が定める平均賃金に相当する額に、それぞれの労働者の使用期間の総日数を乗じて得た額の合算額を賃金総額とする。

労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則

本肢は、「賃金総額の特例」に関する問題です。

上記根拠条文「則第12条」にあるとおり、1号~4号に規定がある「賃金総額を正確に算定することが困難な事業」については、賃金総額の算定方法に特例が認められています。

本肢では、「造林の事業」について問われていますが、詳細は「則第15条」に規定されています、

造林の事業の賃金総額 = 厚労大臣が定める平均賃金に相当する額 × 各労働者の使用期間の総日数

問題文にある「所轄都道府県労働局長が定める素材1立方メートルを生産するために必要な労務費の額に、生産するすべての素材の材積を乗じて得た額を賃金総額とする」のは、則第14条に定められている「立木の伐採の事業」になります。

本肢は×となり、本問の正解となります。

労働者災害補償保険法/徴収法 令和4年第10問 C

労災保険に係る保険関係が成立している請負による建設の事業であって、労働保険徴収法第11条第1項、第2項に規定する賃金総額を正確に算定することが困難なものについては、その事業の種類に従い、請負金額に同法施行規則別表第2に掲げる労務費率を乗じて得た額を賃金総額とするが、その賃金総額の算定に当たっては、消費税等相当額を含まない請負金額を用いる。

解答の根拠

則第13条第2項

根拠条文を確認します。

第十三条 前条第一号の事業については、その事業の種類に従い、請負金額に別表第二に掲げる率を乗じて得た額を賃金総額とする。
 次の各号に該当する場合には、前項の請負金額は、当該各号に定めるところにより計算した額とする。
 事業主が注文者その他の者からその事業に使用する物の支給を受け、又は機械器具等の貸与を受けた場合には、支給された物の価額に相当する額(消費税等相当額を除く。)又は機械器具等の損料に相当する額(消費税等相当額を除く。)を請負代金の額(消費税等相当額を除く。)に加算する。ただし、厚生労働大臣が定める事業の種類に該当する事業の事業主が注文者その他の者からその事業に使用する物で厚生労働大臣がその事業の種類ごとに定めるものの支給を受けた場合には、この限りでない。
 前号ただし書の規定により厚生労働大臣が定める事業の種類に該当する事業についての請負代金の額にその事業に使用する物で同号ただし書の規定により厚生労働大臣がその事業の種類ごとに定めるものの価額が含まれている場合には、その物の価額に相当する額(消費税等相当額を除く。)をその請負代金の額(消費税等相当額を除く。)から控除する。

労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則

本肢は、「賃金総額の特例」に関する問題です。

肢Bで取り上げた、「則第12条」に規定されているとおり、請負による建設の事業に係る賃金総額については、賃金総額を正確に算定することが困難な場合、請負金額に労務費率を乗じて得た額を賃金総額とすることとされています。

この賃金総額には、「消費税」は含むのでしょうか。

上記根拠条文のとおり「消費税相当額を除く」とありますので、「含まない」となります。

請負金額のうち、請負業務そのものにかかる金額で計算してあげないとおかしい…/消費税を含めるのはなんかおかしいな…と思っていただけると良いです。

本肢は○です。

労働者災害補償保険法/徴収法 令和4年第10問 D

健康保険法第99条の規定に基づく傷病手当金について、標準報酬の6割に相当する傷病手当金が支給された場合において、その傷病手当金に付加して事業主から支給される給付額は、恩恵的給付と認められる場合には、一般保険料の額の算定の基礎となる賃金総額に含めない。

解答の根拠

昭和24年6月14日基災収3850号

本肢は、「賃金総額」に関する問題です。

健康保険法の傷病手当金や、それに付加される事業主独自の給付は、賃金総額に含めるのでしょうか。

賃金と言うのは…当たり前ですが、「労働の対価」として支払われるものですね。

ですが、傷病手当金やそれに付加される事業主独自の給付の目的は、「ケガや病気をして働くことができない労働者に対する保護」と考えると、少なくとも「労働の対価」とは考えられないと思います。

さらに、事業主独自の給付は、本来法律で義務付けられたものでない以上、外形的にも労働者への保護をより手厚くする「恩恵的給付」と認めれることが多いでしょう。

したがって、これらの給付は「賃金総額」には含めません。

本肢は○です。

労働者災害補償保険法/徴収法 令和4年第10問 E

労働者が業務外の疾病又は負傷により勤務に服することができないため、事業主から支払われる手当金は、それが労働協約、就業規則等で労働者の権利として保障されている場合は、一般保険料の額の算定の基礎となる賃金総額に含めるが、単に恩恵的に見舞金として支給されている場合は当該賃金総額に含めない。

解答の根拠

昭和24年6月14日基災収3850号

本肢は「賃金総額」に関する問題です。

本肢は、肢Dとセットでおさえておきましょう。

肢Dで、「傷病手当金やそれに付加される事業主独自の給付の目的は、「ケガや病気をして働くことができない労働者に対する保護」の目的がある恩恵的給付は賃金総額に含まない、と書きました。

したがって、問題文の後段の「恩恵的に見舞金として支給されている」ものについては、同じ解釈で「賃金に含まない」となります。

では前段にある「労働協約、就業規則等で労働者の権利として保障されている」手当金はどう考えるか。

労働協約や就業規則等で労働者の権利として保障されている、ということは、先ほどの「法律で義務付けられていない恩恵的給付」と異なり、法律上事業主に支払い義務が生じる性格を持つこととなります。

したがって、そのような場合は「賃金」として考えられ、「賃金総額」に含める必要があります。

本肢は○です。

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