社会保険労務士試験【労働基準法】<令和3年第1問>

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労働基準法の総則(第 1 条~第 12 条)に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

労働基準法 令和3年第1問 A

労働基準法第1条第2項にいう「この基準を理由として」とは、労働基準法に規定があることが決定的な理由となって、労働条件を低下させている場合をいうことから、社会経済情勢の変動等他に決定的な理由があれば、同条に抵触するものではない。

社会経済情勢の変動等他に決定的な理由があれば、労働条件を低下させてもよいか、ということが問われています。

たとえば、コロナを理由に国や自治体の指示に従い、やむを得ず店舗を一定期間休業したり閉店させたりした場合にも、絶対に労働条件を低下させてはいけないのか…と考えてみると、違和感があると思います。

もし無理に同じ労働条件…例えば給料を引き下げたりせずに維持する、ということを継続した場合、そもそも会社自体がつぶれてしまうことにもなりかねません。

そのように考えると、この肢は○と判断できます。

労働基準法 令和3年第1問 B

労働基準法第3条が禁止する「差別的取扱」をするとは、当該労働者を有利又は不利に取り扱うことをいう。

差別的な取り扱いは、有利に取り扱う場合も含むか、ということが問われています。

不利な取り扱いはNG、ということは言うまでもありません。しかし、「労働者にとって有利な取り扱いなのであれば、それはむしろ良いことなのではないか」と思ってしまいます。

ここで、法律論を外れて「有利」という言葉について考えてみます。

何をもって「有利」と判断するか。

例えば、社員10人の会社で、1人の社員だけ有給休暇を多めに付与する(有利に取り扱う)とした場合に、残り9人にとっては…?そうです、「不利」な取り扱いになります。つまり、有利・不利というのは相対的なものであり、背中合わせの概念なのですね。有利な社員がいるということは、その他の社員はその有利な社員から見れば「不利な社員」となります。

そのように考えると、この肢は○と判断できます。

労働基準法 令和3年第1問 C

労働基準法第5条に定める「脅迫」とは、労働者に恐怖心を生じさせる目的で本人又は本人の親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して、脅迫者自ら又は第三者の手によって害を加えるべきことを通告することをいうが、必ずしも積極的言動によって示す必要はなく、暗示する程度でも足りる。

「脅迫」は、積極的言動だけでなく、「暗示」でも成立するか、ということが問われていますね。

私は人事担当なので、ときどきハラスメント対応も行います。被害者の社員のヒアリングをしていると、加害者が近くにいるだけで・加害者をイメージしただけで恐怖を感じる…という方もいらっしゃいます。

また、この設問を読んだときに思い出したのが、新卒1年目で入社した会社での営業の話。毎月開催される営業会議では、資料に全部署・全社員の成績ランキングが記載されており、当時の私の上司もプレッシャーで苦しそうにしていた姿を思い出します。

そのように考えると、この肢は○と判断できます。

労働基準法 令和3年第1問 D

使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合に、これを拒むことはできないが、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することは許される。

この肢は、条文通りですね。

労基法第7条の但書に「権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。」とあります。

労働基準法で条文そのままが問われることはあまりないと思いますが、知っていた方はラッキーだったのではないでしょうか。

ちなみに実務では、この権利の行使を人事に訴えてきた人に遭遇したことはありません。例えば選挙権であれば、土日休みの会社であれば休日に選挙に行けますし、そうでない場合も、最近は期日前投票も定着してきています。そして、公職と民間企業を掛け持ちしている人もほとんど見かけません。

本肢は○となります。

労働基準法 令和3年第1問 E

労働者が法令により負担すべき所得税等(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料等を含む。)を事業主が労働者に代わって負担する場合、当該代わって負担する部分は、労働者の福利厚生のために使用者が負担するものであるから、労働基準法第11条の賃金とは認められない。

所得税等を事業主が労働者に代わって負担する場合、それは労基法第11条の賃金に当たるかどうか、が問われています。

「S63.3.14基発150号」という通達に、「賃金とみなされる」ということが明記されているので、これを知っていれば即×にできる肢です。

ただ、調べていただければわかりますが、この通達は全部で500ページを超える内容となっており、試験対策として全部読んで頭に入れておく…ということは不可能です。また、試験対策として各通達を読み込んでおく必要があるのか…というと、それは効率的ではありません。

そして、おそらくこの肢を読んだときに多くの人が思ったことが、所得税や社会保険料を本人負担部分を会社が払ってくれることなんてあるのか?ということではないでしょうか。

この点について、業界固有の国民健康保険に加入しなければならないケースを用いてイメージを持っていただこうと思います。

協会けんぽや一般的な健康保険組合などでは被扶養者の保険料負担はありませんが、国民健康保険では被保険者に加えて被扶養者の保険料負担があるのが一般的です。その場合、被扶養者となる家族が多ければ多いほど社員本人の国民健康保険料負担が高額になるケースもあり、会社が福利厚生の一環として被扶養者分の保険料の全部または一定額を補助する(本人の給料から天引きはするが、手当として一定額を支給することでトントンとする)仕組みを設けている会社もあります。そのような場合にその手当は賃金とみなされる…ということなんですね。

したがって、この肢が×となり、本問の正解となります。

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