遺族補償年金に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
労働者災害補償保険法 令和5年第5問 A
妻である労働者の死亡当時、無職であった障害の状態にない50歳の夫は、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたものであるから、遺族補償年金の受給資格者である。
法第16条の2第1項 / 昭和40年法附則第43条第1項
根拠条文を確認します。
第十六条の二 遺族補償年金を受けることができる遺族は、労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であつて、労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していたものとする。ただし、妻(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)以外の者にあつては、労働者の死亡の当時次の各号に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
r労働者災害補償保険法
一 夫(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)、父母又は祖父母については、六十歳以上であること。
二 子又は孫については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあること。
三 兄弟姉妹については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあること又は六十歳以上であること。
四 前三号の要件に該当しない夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、厚生労働省令で定める障害の状態にあること。
(遺族補償年金に関する特例)
労働者災害補償保険法 昭和40年法附則
第四十三条 附則第四十五条の規定に基づき遺族補償年金を受けることができる遺族の範囲が改定されるまでの間、労働者の夫(略)、父母、祖父母及び兄弟姉妹であつて、労働者の死亡の当時、その収入によつて生計を維持し、かつ、五十五歳以上六十歳未満であつたもの(略)は、同法第十六条の二第一項の規定にかかわらず、同法の規定による遺族補償年金を受けることができる遺族とする。(以下略)
本肢は、「遺族補償年金の受給資格者及びその順位」に関する問題です。
夫の遺族補償年金の受給資格は…
①55歳以上
②障害状態
のどちらかを満たすことが必要です。
問題文のケースは、「障害のない50歳以上」となりますので、①・②いずれにも該当せず、受給資格はないことになります。
本肢は×です。
労働者災害補償保険法 令和5年第5問 B
労働者の死亡当時、負傷又は疾病が治らず、身体の機能又は精神に労働が高度の制限を受ける程度以上の障害があるものの、障害基礎年金を受給していた子は、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたものとはいえないため、遺族補償年金の受給資格者ではない。
労働者災害補償保険法の一部を改正する法律第三条の規定の施行について(昭和41年1月31日基発73号)
根拠通達を確認します。
第三 保険給付の内容及び手続
労働者災害補償保険法の一部を改正する法律第三条の規定の施行について(昭和41年1月31日基発73号)
四 遺族補償年金
(一) 「受給資格者」
遺族の範囲は、死亡労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であるが、遺族補償年金を受けることができる遺族(受給資格者)となる要件は、次のイ及びロ又はイ及びハである(法第一六条の二第一項、改正法附則第四三条第一項)。
イ 労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していたこと
本肢は、「遺族補償年金の受給資格要件」に関する問題です。
問題文の「子」のケースは、上記根拠通達のとおり、「労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたこと」が要件ですが、「障害基礎年金を受給しているものは除く」のような要件はありません。
また、障害基礎年金は「本人の障害」に対して支給されるものであり、それが支給されているからと言って「労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたものとはいえない」とはなりません。
本肢は×です。
労働者災害補償保険法 令和5年第5問 C
労働者の死亡当時、胎児であった子は、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたものとはいえないため、出生後も遺族補償年金の受給資格者ではない。
法第16条の2第2項
根拠条文を確認します。
第十六条の二 ② 労働者の死亡の当時胎児であつた子が出生したときは、前項の規定の適用については、将来に向かつて、その子は、労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた子とみなす。
労働者災害補償保険法
本肢は、「遺族補償年金の受給資格要件」に関する問題です。
上記根拠条文のとおり、労働者の死亡の当時胎児であった子が出生したときは、「将来に向かって、その子は、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子とみなす」とされています。
ちなみに「将来に向かって」とは、「遡及はしない」ということ。
当たり前ですが、「子」としての権利は生まれてからしか発生しないので、「私が子として生まれる前の子としての権利も保障してください」というのはおかしいですよね。
本肢はで×す。
労働者災害補償保険法 令和5年第5問 D
労働者が就職後極めて短期間の間に死亡したため、死亡した労働者の収入で生計を維持するに至らなかった遺族でも、労働者が生存していたとすればその収入によって生計を維持する関係がまもなく常態となるに至ったであろうことが明らかな場合は、遺族補償年金の受給資格者である。
労災保険法第16条の2第1項等にいう「労働者の死亡当時その収入によつて生計を維持していたもの」の認定基準について(労災保険法第16条の2関係)(昭和41年10月22日基発1108号、平成2年7月31日基発486号)
根拠通達を確認します。
労災保険法第16条の2第1項等にいう「労働者の死亡当時その収入によつて生計を維持していた」ものについては、労働者の死亡当時において、その収入によって日常の消費生活の全部又は一部を営んでおり、死亡労働者の収入がなければ通常の生活水準を維持することが困難となるような関係(以下「生計維持関係」という。)が常態であったか否かにより判断すること。その場合、次の点に留意すること。
労災保険法第16条の2第1項等にいう「労働者の死亡当時その収入によつて生計を維持していたもの」の認定基準について(労災保険法第16条の2関係)(昭和41年10月22日基発1108号、平成2年7月31日基発486号)
Ⅱ 以下の場合も生計維持関係が「常態であった」ものと認めること。
(3)労働者がその就職後極めて短期間の間に死亡したためその収入により当該遺族が生計を維持するに至らなかった場合であっても、労働者が生存していたとすれば、生計維持関係がまもなく常態となるに至ったであろうことが賃金支払事情等から明らかに認められるとき
本肢は、「遺族補償年金の受給資格要件」に関する問題です。
本問は、上記根拠通達の通りの内容となります。
イメージとしては、ある家族がいる労働者が、転職して働き始め(この時点で労災に加入)、不幸にもその数日後に業務上災害で亡くなってしまった…というケース。
転職後の職場での最初の給料をもらう前に亡くなってしまったので、労働者の遺族は、転職後の会社のお給料で当該労働者に生計を維持されることはなかったわけです。
しかし、これだけの理由で遺族補償年金を対象外とするのはおかしいですよね。
したがって、通達で「仮に労働者が生存してたとすれば、生計維持関係が成立していただろう」と明らかに認める場合は、「労働者の死亡当時その収入によつて生計を維持していた」ものとしましょう、ということになります。
本肢は○となり、本問の正解となります。
労働者災害補償保険法 令和5年第5問 E
労働者の死亡当時、30歳未満であった子のない妻は、遺族補償年金の受給開始から5年が経つと、遺族補償年金の受給権を失う。
法第16条の4第1項
根拠条文を確認します。
第十六条の四 遺族補償年金を受ける権利は、その権利を有する遺族が次の各号の一に該当するに至つたときは、消滅する。この場合において、同順位者がなくて後順位者があるときは、次順位者に遺族補償年金を支給する。
労働者災害補償保険法
一 死亡したとき。
二 婚姻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)をしたとき。
三 直系血族又は直系姻族以外の者の養子(届出をしていないが、事実上養子縁組関係と同様の事情にある者を含む。)となつたとき。
四 離縁によつて、死亡した労働者との親族関係が終了したとき。
五 子、孫又は兄弟姉妹については、十八歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了したとき(労働者の死亡の時から引き続き第十六条の二第一項第四号の厚生労働省令で定める障害の状態にあるときを除く。)。
六 第十六条の二第一項第四号の厚生労働省令で定める障害の状態にある夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、その事情がなくなつたとき(夫、父母又は祖父母については、労働者の死亡の当時六十歳以上であつたとき、子又は孫については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるとき、兄弟姉妹については、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるか又は労働者の死亡の当時六十歳以上であつたときを除く。)。
本肢は「遺族補償年金の失権事由」に関する問題です。
本問はいじわるなひっかけです。
「30歳未満であった子のない妻が、受給権を得てから5年を経過すると、原則受給権を失う」というルールがあるのは「遺族厚生年金」になります。
上記根拠条文の通り、労災(遺族補償年金)には、失権事由にそのような「5年ルール」はありません。
本肢は×です。