「社労士としていかにレアな存在になるか」という視点は、社労士として活躍するうえで重要ではないかと個人的に思います。
今後、今までの社労士業務の大部分がシステムやAIなどでコモディティ化していくことが見込まれる中、開業社労士であればクライアントから選ばれ信頼を獲得する・勤務社労士であれば自社内でさらに自身の付加価値を高めることができれば、社労士としてより一層の活躍が期待できます。
私がこの考えに至ったのは、「藤原和博の必ず食える1%の人になる方法 」という書籍を読んだことがきっかけです。
こちらの本は広く一般的なビジネスパーソン向けの内容で、社労士業界だけでなく、いろいろな業界や職種に当てはまります。
今回の記事では、社労士の希少価値を高めると思われるお勧めの資格をご紹介します。
実際にこれらの資格は私も取得しておりますので、それぞれどのような考えで取得をしたのか、根拠も書きました。合わせてご参考になれば幸いです。
※少し記事が長くなってしまったので、前編・後編にわけました。
衛生管理者
衛生管理者とは
労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場は、一定人数の「衛生管理者」を選任する必要があります。
これは法定事項であるため、「衛生管理者」の資格を保有していると、企業に重宝されます。
企業によっては、昇格要件の一部としてこの衛生管理者の資格取得を義務付けているところもあります。
衛生管理者の業務
衛生管理者の主な業務は、法定の職場巡視(週1回)と、衛生委員会(月1回開催)への参加です。
私も現在、職場の衛生管理者として登録し、職場巡視と衛生委員会への参加を行っています。
最近は、職場のメンタルヘルスについても業務範囲となってきていますので、非常にやりがいがあり、重要な業務です。
衛生管理者の試験内容
資格試験というよりどちらかというと「免許試験」であり「落とす試験」ではないので、合格率は高いです。
衛生管理者の免許の種別としては、一種と二種にわかれています。
自分の所属企業が工場を有していたり、建設・工事などを行う工業系であったりしなければ、二種の免許で問題ありません。
しかし、せっかく挑戦するのであれば、一気に一種(二種の試験範囲に工業系の安全衛生管理分野が加わる)に挑戦し取得することを、個人的にはお勧めします。
確かに専門の機械や薬品の名称を覚えるのは骨が折れますが、二種を先に取得し、後々必要に迫られて一種を追加で取得するよりは、一気に取得した方が遥かに効率がよいです。
また、一種の試験範囲はそのまま社会保険労務士の労働安全衛生法の試験範囲となっていますので、社会保険労務士試験との相性もよいです。
メンタルヘルス・マネジメント検定®
メンタルヘルス・マネジメント検定®とは
企業にとって、メンタルヘルス問題から目を背けることはできない状況になっています。
一言にメンタルヘルス問題と言っても、必ずしも会社側に原因があるケースばかりではありません。
しかし、万が一の状況に備えたリスク管理施策として、メンタルヘルス問題に対する万全の社内体制を整えておく必要があります。
人材管理の観点からも、メンタルヘルス疾患が原因で従業員の方が会社を休みがちになったり、長期休業に入ったり、会社を辞めてしまったりした場合、企業にとって大きな損失となります。
このようなメンタルヘルスに関する問題について、開業社労士がクライアントから相談を持ちかけられたり、勤務社労士が自身の企業のトラブル・課題にあたったりする場面も多いでしょう。
そこで、私が社内で実際にその立場になった際に取得したのが、大阪商工会議所が実施する「メンタルヘルス・マネジメント検定®」です。
メンタルヘルス・マネジメント検定®の試験内容
こちらの検定はⅠ種~Ⅲ種まであります。
大阪商工会議所によると、各種の内容は以下の通りとなっています。
Ⅰ種
「マスターコース」という名称で「社内のメンタルヘルス対策の推進」を目的とした試験内容であり、受験対象者は「人事労務管理スタッフ、経営幹部」
Ⅱ種
「ラインケアコース」という名称で、「部門内、上司としての部下のメンタルヘルス対策の推進」を目的とした試験内容であり、受験対象者は「管理職」
Ⅲ種
「セルフケアコース」という名称で、「組織における従業員自らのメンタルヘルス対策の推進」と目的とした試験内容であり、受験対象者は「一般社員」
合格率は、Ⅱ種・Ⅲ種は6~7割くらいと非常に高いのですが、Ⅰ種になったとたん2割と一気に難しくなります。
これは、試験内容の範囲の広さや難易度の違いもあると思いますが、一番の原因は、Ⅱ・Ⅲ種の試験は全問選択問題であるのに対し、Ⅰ種は選択問題と論文問題の併用で、かつそれぞれに基準ラインが設定されている…つまり、どちらか一方の成績が良くて、どちらか一方が悪い、という状態では不合格となってしまうことが理由です。
私の場合、Ⅰ種の試験は幸運にも一度の受験で合格することができましたが、試験結果を見ると論文試験の方が基準点スレスレでしたので、かなり冷や汗をかいた記憶があります。
Ⅰ種は受験料も試験の難易度も高く、「その資格を取得していなければある業務ができない・禁止されている」わけではないので、挑戦するかどうかはよく考える必要があります。
しかし、社労士としてメンタルヘルス対策を「全社的な視点」で見る力を身につけるためにはうってつけの資格だと思いますので、ぜひⅠ種に挑戦してもらいたいと思います。
メンタルヘルス・マネジメント検定®の勉強法
勉強法は、大阪商工会議所の公式テキストと問題集が発刊されております。
やはり、試験実施主体が作成しているテキストを使って勉強するのが、効率が良いです。
Ⅰ種は結構なテキストの厚さですが、社労士としての武器を増やすためにも頑張りましょう。
また、Ⅰ種の論文については、メンタルヘルスに関するあらゆるテーマについて日ごろから興味関心を持つだけでなく、そのテーマについてポイントをまとめるなど「書く練習」をしておくと良いでしょう。
産業カウンセラー
産業カウンセラーとは
産業カウンセラーとは、社団法人日本産業カウンセラー協会が認定する民間資格です。
「産業」という名称からわかるとおり、通常のカウンセラーよりも「働く人に対するカウンセリング」によりフォーカスした資格になります。
カウンセリングと聞くと、困っている人・悩んでいる人にアドバイスをするようなイメージがありますが、産業カウンセラーが行うのは「困っている人・悩んでいる人が自分の力で困難・課題を乗り越えるための援助をする」ことになります。
この資格を目指す方は、年齢層も性別も経歴も本当に幅広く、様々な方が挑戦されています。
私が養成講座で一緒に勉強させてもらった仲間も、学生の方から主婦の方まで様々でした。
産業カウンセラーの試験内容
産業カウンセラーの受験資格を得るためには、通常は協会が実施する「養成講座」を修了する必要があります。
大学で心理学を学んでいる一定の人にも、受験資格があります。詳しくは、協会のホームページ等でご確認ください。
そして、無事に養成講座を修了すると、試験に挑戦する資格を得られます。
試験は「学科試験」と「実技試験」に分かれており、「実技試験」は実際にカウンセリングのロールプレイングを行うのですが、養成講座にて一定の実力があると認められた場合には、この「実技試験」が免除となることもあります。
私も「実技試験」を免除していただいたので、試験は「学科試験」のみでした。
試験に合格すると、晴れて産業カウンセラーの資格を得ることができます。
産業カウンセラーの重要性
今回の記事で多くの資格をご紹介していますが、中でも一番取得してほしいと思うのがこの「産業カウンセラー」の資格です。
なぜならば、この資格の学習を終えたことで、ビジネスパーソンとしてだけでなく、私という一人の人間が大きく成長したことを実感できたからです。
人の話にしっかりと耳を傾け、人の感情に共感し寄り添う、という簡単そうに思えて実は非常に難しいことを、養成講座で学ぶことができます。
間違っても、「相手を説得するテクニック」のようなものを学ぶ場ではありません。
資格を取得するまでに若干費用はかかりますが、その費用をかけるだけのリターンはありました。
なお、養成講座は雇用保険の教育訓練給付金の対象講座となりますので、条件が合致していれば講座終了後に受講料の一部が給付金として支給されます。
社労士としてユニークさを出すために「カウンセリングを武器とする…経営者・働く人の心によりそうことができる社労士」という道もあるのではないでしょうか。