労働保険の保険料の徴収等に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
雇用保険法/徴収法 令和4年第9問 A
事業主は、労災保険及び雇用保険に係る保険関係が成立している事業が、保険年度又は事業期間の中途に、労災保険に係る保険関係のみ成立している事業に該当するに至ったため、当該事業に係る一般保険料率が変更した場合、既に納付した概算保険料の額と変更後の一般保険料率に基づき算定した概算保険料の額との差額について、保険年度又は事業期間の中途にその差額の還付を請求できない。
法第19条第6項他
根拠条文を確認します。
(確定保険料)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律
第十九条
6 事業主が納付した労働保険料の額が、第一項又は第二項の労働保険料の額(第四項の規定により政府が労働保険料の額を決定した場合には、その決定した額。以下「確定保険料の額」という。)をこえる場合には、政府は、厚生労働省令で定めるところにより、そのこえる額を次の保険年度の労働保険料若しくは未納の労働保険料その他この法律の規定による徴収金に充当し、又は還付する。
本肢は、「確定保険料」に関する問題です。
設問の企業は、当初は労災・雇用両方の保険関係が成立しており、それに基づいて概算保険料を納付していたところ、保険関係の中途で労災の保険関係のみとなったため、保険料率が変更した…とあります。
2つの保険関係が1つになり、保険料が減ることになったので、それが還付できるか否か…ということが問われています。
結論としては、概算保険料は年度の中途で諸事情による変更があったとしても、還付はありません。
もちろん、上記根拠条文のとおり、「確定保険料」の際にしっかりと計算して、還付されます。
もともと「概算」保険料ですからね…。
例えば、会社員の方であれば、毎月の給料から所得税が控除されていると思いますが、最終的に年末調整でその年の所得の結果に基づいて、還付・追徴しますよね。
年の途中で、お給料が減ったからと言って、それまでの高い給料に基づく納付済みの所得税をその時点で還付しないのと同じ感じです。
本肢は○です。
雇用保険法/徴収法 令和4年第9問 B
事業主は、労災保険に係る保険関係のみが成立している事業について、保険年度又は事業期間の中途に、労災保険及び雇用保険に係る保険関係が成立している事業に該当するに至ったため、当該事業に係る一般保険料率が変更した場合、労働保険徴収法施行規則に定める要件に該当するときは、一般保険料率が変更された日の翌日から起算して30日以内に、変更後の一般保険料率に基づく労働保険料の額と既に納付した労働保険料の額との差額を納付しなければならない。
法第16条 / 法附則第5条
根拠条文を確認します。
(増加概算保険料の納付)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律
第十六条 事業主は、前条第一項又は第二項に規定する賃金総額の見込額、第十三条の厚生労働省令で定める額の総額の見込額、第十四条第一項の厚生労働省令で定める額の総額の見込額又は第十四条の二第一項の厚生労働省令で定める額の総額の見込額が増加した場合において厚生労働省令で定める要件に該当するときは、その日から三十日以内に、増加後の見込額に基づく労働保険料の額と納付した労働保険料の額との差額を、その額その他厚生労働省令で定める事項を記載した申告書に添えて納付しなければならない。
(増加概算保険料の納付に関する暫定措置)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律 附則
第五条 第十六条の規定は、第十二条第一項第二号又は第三号の事業が同項第一号の事業に該当するに至つたため当該事業に係る一般保険料率が変更した場合において厚生労働省令で定める要件に該当するときにおける当該変更に伴う労働保険料の増加額の納付について準用する。
本肢は、「増加概算保険料」に関する問題です。
今後は肢Aとは逆のパターンで、1つ(労災)に関する保険関係のみ成立していた企業が、年度の中途で2つ(労災・雇用)に関する保険関係…となった場合です。
この場合、一定額以上の保険料の増加が見込まれる場合は、「増加概算保険料」として、一般保険料率が変更された日の翌日から起算して30日以内に、追加で差額分を納付する必要があります。
本肢は○です。
雇用保険法/徴収法 令和4年第9問 C
事業主は、保険年度又は事業期間の中途に、一般保険料の算定の基礎となる賃金総額の見込額が増加した場合に、労働保険徴収法施行規則に定める要件に該当するに至ったとき、既に納付した概算保険料と増加を見込んだ賃金総額の見込額に基づいて算定した概算保険料との差額(以下「増加概算保険料」という。)を納期限までに増加概算保険料に係る申告書に添えて申告・納付しなければならないが、その申告書の記載に誤りがあると認められるときは、所轄都道府県労働局歳入徴収官は正しい増加概算保険料の額を決定し、これを事業主に通知することとされている。
法第15条第3項 / 法第16条
根拠条文を確認します。
(概算保険料の納付)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律
第十五条
3 政府は、事業主が前二項の申告書を提出しないとき、又はその申告書の記載に誤りがあると認めるときは、労働保険料の額を決定し、これを事業主に通知する。
本肢は、「申告書の記載に誤りがある場合」に関する問題です。
概算保険料の申告書を提出しないときや、その申告書の記載に誤りがある場合は、上記根拠条文のとおり、政府が労働保険料の額を決定・事業主に通知する…とあります。
このルールは、増加概算保険料にも適用されるのでしょうか?
結論としては、増加概算保険料についてはこのような取り扱いに関する規定はありません。
本肢は×となり、本問の正解となります。
雇用保険法/徴収法 令和4年第9問 D
事業主は、政府が保険年度の中途に一般保険料率、第一種特別加入保険料率、第二種特別加入保険料率、第三種特別加入保険料率の引下げを行ったことにより、既に納付した概算保険料の額が保険料率引下げ後の概算保険料の額を超える場合は、保険年度の中途にその超える額の還付を請求できない。
法第17条
根拠条文を確認します。
(概算保険料の追加徴収)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律
第十七条 政府は、一般保険料率、第一種特別加入保険料率、第二種特別加入保険料率又は第三種特別加入保険料率の引上げを行つたときは、労働保険料を追加徴収する。
本肢は、「概算保険料の追加徴収」に関する問題です。
今までの肢A~Cは、事業主側の事情で保険関係に変化があった場合の取り扱いに関する問題でした。
本肢は、それとは異なり、政府側の事情…つまり政府が保険年度の中途で保険料率の引き上げ・引き下げを行った場合の取り扱いに関する問題です。
引き上げ・引き下げで取り扱いが異なっており、
・引き上げ…追加徴収を行う
・引き下げ…還付は行わない
となります。
つまり、増えた分はすぐにもらうが、減った場合はすぐには返さない…となるわけですね。
本肢は○です。
雇用保険法/徴収法 令和4年第9問 E
事業主は、政府が保険年度の中途に一般保険料率、第一種特別加入保険料率、第二種特別加入保険料率、第三種特別加入保険料率の引上げを行ったことにより、概算保険料の増加額を納付するに至ったとき、所轄都道府県労働局歳入徴収官が追加徴収すべき概算保険料の増加額等を通知した納付書によって納付することとなり、追加徴収される概算保険料に係る申告書を提出する必要はない。
法第17条 / 則第38条第4項
根拠条文を確認します。
(労働保険料等の申告及び納付)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則
第三十八条
4 労働保険料(印紙保険料を除く。)その他法の規定による徴収金の納付は、納入告知書に係るものを除き納付書によつて行なわなければならない。
本肢は「労働保険料等の申告及び納付」に関する問題です。
肢Dのようなケース(政府が保険料率を変更した場合)の納付手続きが論点となっています。
概算保険料の追加徴収にかかる納付は、所轄都道府県労働局歳入徴収官が増加額等を通知した「納付書」によって行われることになりますので、追加徴収される概算保険料に係る申告書を提出する必要はありません。
本肢は○です。