通勤災害に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
労働者災害補償保険法 令和4年第6問 A
労働者が上司から直ちに2泊3日の出張をするよう命じられ、勤務先を出てすぐに着替えを取りに自宅に立ち寄り、そこから出張先に向かう列車に乗車すべく駅に向かって自転車で進行中に、踏切で列車に衝突し死亡した場合、その路線が通常の通勤に使っていたものであれば、通勤災害と認められる。
昭和34年7月15日基収2980号
「出張は、移動している時間も含めて、全部の行程で『業務遂行性』が認められる」
と覚えておきましょう。
つまり、遠足ではありませんが、家を出てから家に帰るまで遠足…ではなく、出張として全体が「業務」となります。
そのため、本文中に「路線が通常の通勤に使っていた」という迷わせるような記載がありますが、そんなことは関係なく、本ケースは「業務災害」として取り扱われます。
本肢は×です。
労働者災害補償保険法 令和4年第6問 B
労働者が上司の命により、同じ社員寮に住む病気欠勤中の同僚の容体を確認するため、出勤してすぐに社員寮に戻る途中で、電車にはねられ死亡した場合、通勤災害と認められる。
昭和24年12月15日基収3001号
通常、勤務先から自身の社員寮に戻る際は、もちろん「通勤」となります。
しかし、本問のケースは、当該労働者が仕事を終えて自主的に帰宅する話ではなく、出勤してすぐに上司から「あなたが住んでいる社員寮に住んでいるAさんの様子を見てきてくれないか」と指示を受けて社員寮に向かっています。
ということであれば、この「同僚の容体を確認するために、上司の指示を受けて社員寮に移動する」行為は、「通勤」ではなく「業務」とみなされるのが自然ですね。
しかし…同僚の容体を確認しにいく途中で、自身が亡くなるとは…(涙)
本肢は×です。
労働者災害補償保険法 令和4年第6問 C
通常深夜まで働いている男性労働者が、半年ぶりの定時退社の日に、就業の場所からの帰宅途中に、ふだんの通勤経路を外れ、要介護状態にある義父を見舞うために義父の家に立ち寄り、一日の介護を終えた妻とともに帰宅の途につき、ふだんの通勤経路に復した後は、通勤に該当する。
則8条5号
根拠条文を確認します。
(日常生活上必要な行為)
労働者災害補償保険法施行規則
第八条 法第七条第三項の厚生労働省令で定める行為は、次のとおりとする。
一 日用品の購入その他これに準ずる行為
二 職業訓練、学校教育法第一条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
三 選挙権の行使その他これに準ずる行為
四 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
五 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)
本肢は「日常生活上必要な行為」に関する問題です。
上記根拠条文にある通り、「日常生活上必要な行為」が定められています。
この第5項に、介護状態にある家族を介護する場合が規定されていますが、かっこ書きで「継続的に又は反復して行われるものに限る」と条件が付されています。
そもそも問題文に
・通常深夜まで働いている…
・半年ぶりに定時退社…
とわざわざ書いてあるのが、不自然ですよね…。
このように記載することで「継続的に又は反復して行われている行為ではない」ということを表現したかったわけですね。
本肢は×です。
労働者災害補償保険法 令和4年第6問 D
マイカー通勤の労働者が、経路上の道路工事のためにやむを得ず通常の経路を迂回して取った経路は、ふだんの通勤経路を外れた部分についても、通勤災害における合理的な経路と認められる。
平成18年3月31日基発0331042号
根拠通達を確認します。
3 「合理的な経路及び方法」の意義
労働者災害補償保険法の一部改正の施行及び労働者災害補償保険法施行規則及び労働者災害補償保険特別支給金支給規則の一部を改正する省令の施行について(平成18年3月31日基発0331042号)
「合理的な経路及び方法」とは、当該移動の場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいうものである。
① 経路については、乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届け出ているような、鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等が合理的な経路となることはいうまでもない。また、タクシー等を利用する場合に、通常利用することが考えられる経路が二、三あるような場合には、その経路は、いずれも合理的な経路となる。また、経路の道路工事、デモ行進等当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切の車庫を経由して通る経路等通勤のためにやむを得ずとることとなる経路は合理的な経路となる。
本肢は、「通勤災害における合理的な経路」に関する問題です。
こちらは、上記の通り根拠通達にそのままずばり書かれています。
通常のマイカー通勤のルートとは異なり、迂回したルートをとったのであれば、基本的には「合理的な経路」とされないでしょう。
しかし、その迂回した理由が、道路工事やデモ行進等の交通事情で通常のルートが通れない…ということであれば、迂回するのもやむを得ませんね。
そのような事情がある場合にとった迂回ルートは、「合理的な経路」となるわけです。
本肢は×です。
労働者災害補償保険法 令和4年第6問 E
他に子供を監護する者がいない共稼ぎ労働者が、いつもどおり親戚に子供を預けるために、自宅から徒歩10分ほどの勤務先会社の前を通り過ぎて100メートルのところにある親戚の家まで、子供とともに歩き、子供を預けた後に勤務先会社まで歩いて戻る経路のうち、勤務先会社と親戚の家との間の往復は、通勤災害における合理的な経路とは認められない。
平成18年3月31日基発0331042号
根拠通達を確認します。
3 「合理的な経路及び方法」の意義
労働者災害補償保険法の一部改正の施行及び労働者災害補償保険法施行規則及び労働者災害補償保険特別支給金支給規則の一部を改正する省令の施行について(平成18年3月31日基発0331042号)
「合理的な経路及び方法」とは、当該移動の場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいうものである。
①(中略)さらに、他に子供を監護する者がいない共稼労働者が託児所、親せき等にあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のためにとらざるを得ない経路であるので、合理的な経路となるものと認められる。
本肢は「通勤災害における合理的な経路」に関する問題です。
こちらも、上記の通り根拠通達にそのままずばり書かれています。
託児所や親せきに子供を預けるために通るルートは、本来であれば出社するために通るルートではないこともあるでしょう。
しかし、「他に子供を監護する者がいない共稼労働者」が、仕事のために子供を預けることは、必要な行為ですよね。
そのような場合は、預けるために通るルートも「合理的な経路」と認められるわけです。
本肢は×となり、本問の正解となります。