業務災害に関する次の記述のうち、正しいものはいくつあるか。
A 一つ
B 二つ
C 三つ
D 四つ
E 五つ
労働者災害補償保険法 令和4年第4問 ア
工場に勤務する労働者が、作業終了後に更衣を済ませ、班長に挨拶して職場を出て、工場の階段を降りる途中に足を踏み外して転落して負傷した場合、業務災害と認められる。
昭和50年12月25日基収1724号
本問全体が「業務災害と認められるケースか否か」の判断を問う内容となっております。
一応、解答の根拠として通達番号を記載はしますが、どれも古い通達ばかりで、ネット上ではヒットしませんでしたので、番号のみの掲載であることをご了承ください。
もちろん、本問は「通達を覚えているか否か」を確認するものではなく、業務災害の成立条件である「業務遂行性・業務起因性」を満たしているかを正確に判断できるか、を確認する問題ですので、問題練習を通じて「そんな観点で判断するのね」とおさえておいていただければ大丈夫です(同じ事例が再度出題されることは、まずないかな…と思いますので)
それでは本肢を確認していきます。
今回のケースは、「作業終了後」という点で、「業務に関係ないかも」と思ってしまうかもしれません。
しかし、時間的に業務に接続しており、挨拶⇒職場を出るために階段を使う、というのは、当該者がいつも行っている業務後のルーティンのような行為であり、業務に関係のないプライベートな行為とは考えられません。
そのような場合は「業務災害」とされます。
本肢は○です。
労働者災害補償保険法 令和4年第4問 イ
日雇労働者が工事現場での一日の作業を終えて、人員点呼、器具の点検の後、現場責任者から帰所を命じられ、器具の返還と賃金受領のために事業場事務所へと村道を歩き始めた時、交通事故に巻き込まれて負傷した場合、業務災害と認められる。
昭和28年11月14日基収5088号
今回のケースも、「作業を終えて」という点で、「業務に関係ないかも」と思ってしまうかもしれません。
しかし、「現場責任者から帰所を命じられ」ていることから、業務本体ではないものの、まだ後続のサブ業務が続いていると考えられます。
また、その後の「器具の返還」や「賃金受領」という行為も、業務後のルーティンのような行為と考えられます。
そのため、「交通事故」とありますが、業務中の災害とされ「業務災害」とされます。
本肢は○です。
労働者災害補償保険法 令和4年第4問 ウ
海岸道路の開設工事の作業に従事していた労働者が、12時に監督者から昼食休憩の指示を受け、遠く離れた休憩施設ではなく、いつもどおり、作業場のすぐ近くの崖下の日陰の平らな場所で同僚と昼食をとっていた時に、崖を落下してきた岩石により負傷した場合、業務災害と認められる。
昭和27年10月13日基災収3552号
今回のケースは「休憩」とあるので、「業務中じゃないから業務災害ではないかな」と思ってしまうかもしれません。
ただし、当該休憩は「監督者から昼食休憩の指示を受け」たものであるので、業務遂行性があると考えられます。
また、わざわざ「作業場から地理的に遠く離れた休憩施設ではなく、作業場の近くで休憩していた」という記載があることからも、「事業主の支配管理下」である要素を強めています。
したがって、本肢のケースは「業務災害」とされます。
本肢は○です。
労働者災害補償保険法 令和4年第4問 エ
仕事で用いるトラックの整備をしていた労働者が、ガソリンの出が悪いため、トラックの下にもぐり、ガソリンタンクのコックを開いてタンクの掃除を行い、その直後に職場の喫煙所でたばこを吸うため、マッチに点火した瞬間、ガソリンのしみこんだ被服に引火し火傷を負った場合、業務災害と認められる。
昭和30年5月12日基発298号
今回のケースは「作業後に喫煙所でたばこを吸う」ということで、業務本体そのものの行為ではないですが、業務に起因する(その業務をしていなかったら起こらなかった災害)であることは明らかです。
喫煙所も「職場の」とありますので、「事業主の支配管理下」である要素を強めています。
したがって、本肢のケースは「業務災害」とされます。
本肢は○です。
労働者災害補償保険法 令和4年第4問 オ
鉄道事業者の乗客係の労働者が、T駅発N駅行きの列車に乗車し、折り返しのT駅行きの列車に乗車することとなっており、N駅で帰着点呼を受けた後、指定された宿泊所に赴き、数名の同僚と飲酒・雑談ののち就寝し、起床後、宿泊所に食事の設備がないことから、食事をとるために、同所から道路に通じる石段を降りる途中、足を滑らせて転倒し、負傷した場合、業務災害と認められる。
(通達なし)
今回のケースは、「飲酒・雑談ののち就寝」→「起床後に…食事をとるために」とあるので、業務本体そのものの行為ではありません。
しかし、「指定された宿泊所」とあるので、「事業主の支配管理下」である要素を強めています。
また、その「指定された宿泊所」に食事の設備があれば起きなかった災害であることを考えると、業務本体との関連性は薄いものの、業務起因性が全くないとは言い切れません。
したがって、本肢のケースは「業務災害」とされます。
本肢は○です。
したがって、肢ア~オすべてが正しいとなり、本問の正解は「E」となります。