労働基準法の総則(第 1 条~第 12 条)に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
労働基準法 令和4年第4問 A
労働基準法第1条にいう「労働関係の当事者」には、使用者及び労働者のほかに、それぞれの団体である使用者団体と労働組合も含まれる。
法第1条第2項
根拠条文を確認します。
(労働条件の原則)
労働基準法
第一条
② この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
本肢は、「労働関係の当事者」に関する問題です。
労働関係の当事者としてすぐに思い浮かぶのは、「会社(使用者)と社員(労働者)」と思います。
社員が働く(労務を提供する)ことで、会社は給料(賃金)を支払う…この関係ですね。
本肢では
・使用者団体
・労働組合
も、この「労働関係の当事者」に含まれるかどうか…が問われています。
まず先に結論を言うと、「含まれる」とされています。
労働組合はなんとなくそうかな…と思いますが、「使用者団体」って何?という感じですよね。
有名なところでは、「日本経済団体連合会(いわゆる経団連)」や「日本商工会議所」などが該当し、これらも、労基法上が想定する「労働関係の当事者」とされているようです。
本肢は○です。
労働基準法 令和4年第4問 B
労働基準法第3条にいう「信条」には、特定の宗教的信念のみならず、特定の政治的信念も含まれる。
昭和22年9月13日発基17号
根拠通達を確認します。
法第三条関係
労働基準法の施行に関する件(昭和22年9月13日発基17号)
「信条」とは特定の宗教的若しくは政治的信念をいひ、「社会的身分」とは生来の身分例へば部落出身者の如きものをいふこと。
本肢は、「労基法第3条の『信条』」に関する問題です。
こちらは、通達ドンピシャの問題です。
通達が古すぎて、歴史的仮名遣いになっていますが…「信条とは特定の宗教的若しくは政治的信念」と書かれています。
政治的信念も、それを理由に差別的取扱いをしてはいけない、とおさえておきましょう。
本肢は○です。
労働基準法 令和4年第4問 C
就業規則に労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをする趣旨の規定がある場合、現実には男女差別待遇の事実がないとしても、当該規定は無効であり、かつ労働基準法第4条違反となる。
昭和23年12月25日基収4281号
根拠通達を確認します。
就業規則に法第4条違反の規定があるが現実に行われておらず、賃金の男女差別待遇の事実がなければ、その規定は無効ではあるが、法第4条違反とはならない。
昭和23年12月25日基収4281号
本肢は、「男女差別待遇」に関する問題です。
労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取扱いをしてはならない…という点については、誰もがおさえているポイントだと思います。
では、実際に、就業規則に男女差別待遇が規定されている場合、労基法違反となるのでしょうか。
その点、上記通達には、
・規定は無効
・労基法(4条)違反とはならない
とされています。
つまり、規定自体は無効だけども、その規定に基づいて実態として男女差別待遇をしていないのであれば、労基法上違反とはならない…ということですね。
本肢は×となり、本問の正解となります。
労働基準法 令和4年第4問 D
使用者の暴行があっても、労働の強制の目的がなく、単に「怠けたから」又は「態度が悪いから」殴ったというだけである場合、刑法の暴行罪が成立する可能性はあるとしても、労働基準法第5条違反とはならない。
法第5条
根拠条文を確認します。
(強制労働の禁止)
労働基準法
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
本肢は、「強制労働の禁止」に関する問題です。
上記根拠条文第5条にあるとおり、暴行や脅迫等の手段を用いて無理やり働かせることは労基法違反となります。
では、本肢のように、「働かせるために暴行した」のではなく「働いている人にイライラして暴行した」場合は、労基法第5条違反となるのでしょうか。
この場合は、暴行によって労働を強制しているわけではないので本条には該当せず、労基法違反とはならない、との結論になります。
もちろん、人を殴っているわけですので、何の罪にも問われない…というわけではありません。
たんに、労働基準法の第5条違反にはならない、と言っているだけで、刑法違反には該当することになります。
本肢は○です。
労働基準法 令和4年第4問 E
法令の規定により事業主等に申請等が義務付けられている場合において、事務代理の委任を受けた社会保険労務士がその懈怠により当該申請等を行わなかった場合には、当該社会保険労務士は、労働基準法第10条にいう「使用者」に該当するので、当該申請等の義務違反の行為者として労働基準法の罰則規定に基づいてその責任を問われうる。
法第10条 / 昭和62年3月26日基発169号
根拠条文・通達を確認します。
第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
労働基準法
法令の規定により事業主等に申請等が義務づけられている場合において、事務代理の委任を受けた社会保険労務士がその懈怠により当該申請等を行わなかつた場合には、当該社会保険労務士は、労働基準法第10条にいう『使用者』及び各法令の両罰規定にいう『代理人、使用人その他の従業者』に該当するものであるので、当該社会保険労務士を当該申請等の義務違反の行為者として、各法令の罰則規定及び両罰規定に基づきその責任を問い得るものであること
昭和62年3月26日基発169号
本肢は「使用者」に関する問題です。
本肢のような「事務代理の委任を受けている社労士」は使用者に該当するのでしょうか。
この場合、当該社労士は…
・当該社労士に事務代理の委任をしている事業主ために行為する者(使用者)でもあり
・自身がその事務代理を行う者(代理人、使用人その他の従業者)でもある
➡したがって、各法令の罰則規定及び両罰規定に基づきその責任を問い得る
と上記通達に記載があります。
本肢は○です。