社会保険労務士試験【労働者災害補償保険法/徴収法】<令和3年第2問>

スポンサーリンク

通勤災害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

労働者災害補償保険法/徴収法 令和3年第2問 A

3歳の子を養育している一人親世帯の労働者がその子をタクシーで託児所に預けに行く途中で追突事故に遭い、負傷した。その労働者は、通常、交通法規を遵守しつつ自転車で託児所に子を預けてから職場に行っていたが、この日は、大雨であったためタクシーに乗っていた。タクシーの経路は、自転車のときとは違っていたが、車であれば、よく利用される経路であった。この場合は、通勤災害と認められる。

解答の根拠

法7条2項 / S48.11.22.基発644号

本問は全体的に「イレギュラーな動きをした際に、通勤災害と認められるか」を論点としています。

ここで、まず通勤災害(合理的な経路及び方法)に関する条文を確認しておきましょう。

第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
 前項第三号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
 住居と就業の場所との間の往復
 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

労働者災害補償保険法

さて、上記をふまえた上で、各肢の「イレギュラーな動き」を確認していきましょう。

本肢のポイントは…
・いつもは自転車で自宅→託児所→職場
・事故日は大雨のため自宅→タクシー利用中に事故にあう
・自転車で使う経路とタクシーの経路は異なり、タクシーの経路は車利用なら普通の経路
となります。

以上から、通勤災害の要件…条文内の「合理的な経路及び方法」の基準を満たすかどうかを判断しましょう。

会社によっては、具体的な通勤経路を細かく(時には地図をつけてどの道を通るかまで記載させて)申告させるケースもあるようですが、通勤災害の認定においては、合理的と認められる経路は、唯一絶対オンリーワンのルートだけ…というわけではなく、「こういうルートも考えられるよね~」と複数認められます。

また、通常は合理的な経路とされるルートに一時的な障害…例えば電車が運休していている際に別の公共交通機関を利用する場合や、道路工事が行われている際に迂回路を利用する場合などは、その別の手段やルートも「合理的な経路及び方法」と認定されます。

今回のケースは、大雨でのタクシーの利用、そして、タクシー(自動車)にとっての合理的な経路であったことから、通勤災害と認められる、となります。

本肢は○です。

労働者災害補償保険法/徴収法 令和3年第2問 B

腰痛の治療のため、帰宅途中に病院に寄った労働者が転倒して負傷した。病院はいつも利用している駅から自宅とは反対方向にあり、負傷した場所はその病院から駅に向かう途中の路上であった。この場合は、通勤災害と認められない。

解答の根拠

法7条3項 / 則8条4号 / S48.11.22.基発644号

こちらでもまず、根拠条文を確認しておきましょう。

第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
 労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第三号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。

労働者災害補償保険法

本肢は「帰宅途中に病院に寄った」とあることから、いわゆる「中断・逸脱」が論点となります。

ここで問題文をよく読むと、「負傷した場所はその病院から駅に向かう途中の路上」とあります。

通院すること自体は「日常生活上必要な行為」として認められますが、負傷した場所が本来の帰宅ルートに戻る前ですので、条文中の「…その後の同項各号に掲げる移動は第一項第三号の通勤としない」に該当し、通勤災害とは認められない、となります。

本肢は○です。

労働者災害補償保険法/徴収法 令和3年第2問 C

従業員が業務終了後に通勤経路の駅に近い自動車教習所で教習を受けて駅から自宅に帰る途中で交通事故に遭い負傷した。この従業員の勤める会社では、従業員が免許取得のため自動車教習所に通う場合、奨励金として費用の一部を負担している。この場合は、通勤災害と認められる。

解答の根拠

法7条3項 / 則8条2号 / H18.3.31.基発第0331042号

本肢の論点は、肢Bと同様に「中断・逸脱」となります。

肢Bの場合は「通院」と、比較的「日常生活上必要な行為」であることは簡単に判断できますが、今回の「会社が奨励金を支給している、つまり免許取得を推奨している場合の自動車教習所へ通うことが、『日常生活上必要な行為』と言えるか」という点がポイントです。

この点については、以下の通達により「自動車教習所…はこれに該当しない」と示されていることから、本肢のケースは「通勤災害と認められない」となります。

7②(ロ) 「これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為」とは、職業能力開発総合大学校における職業訓練及び専修学校における教育がこれに該当する。各種学校における教育については、就業期間が1年以上であって、課程の内容が一般的に職業に必要な技術、例えば、工業、医療、栄養士、調理師、理容師、美容師、保母教員、商業経理、和洋裁等に必要な技術を教授するもの(茶道、華道等の課程又は自動車教習所若しくはいわゆる予備校の課程はこれに該当しないものとして取り扱う。)は、これに該当するものとして取り扱うこととする。

H18.3.31.基発第0331042号

なかなかここまで細かい論点を押さえておくことは難しいですね。

しかも「会社が奨励金を支給している」なんて書かれていたら、「やむを得ない行為だろう」と思ってしまうと思います。

本肢は×となり、本問の正解となります。

労働者災害補償保険法/徴収法 令和3年第2問 D

配偶者と小学生の子と別居して単身赴任し、月に1~2回、家族の住む自宅に帰っている労働者が、1週間の夏季休暇の1日目は交通機関の状況等は特段の問題はなかったが単身赴任先で洗濯や買い物等の家事をし、2日目に家族の住む自宅へ帰る途中に交通事故に遭い負傷した。この場合は、通勤災害と認められない。

解答の根拠

法7条2項3号 / H18.3.31基発第0331042号

本肢は、「単身赴任者が帰省する際に交通事故にあった際に、通勤災害と認められるか」という論点になります。

単身赴任先から休みに入ってすぐに帰省先に帰るときと、休み終了日に帰省先から単身赴任先に戻るときは「通勤災害」としても良いのでは、という点はあまり違和感ないと思います。

では、その間の日…例えば本肢のように「お休みの2日目に移動した場合」や、「お休みの終わる2日前に移動した場合」など、業務日と接点がない日に移動した場合まで通勤災害としてよいのでしょうか。

感覚的には、「さすがに完全に休みに入ってからは認められないのでは?」と思う方が多いと思います。

根拠通達では以下のように示されています。

2 「就業に関し」の意義
②(ニ) 労災保険法第7条第2項第3号の住居間移動における赴任先住居から帰省先住居への移動の場合であるが、実態等を踏まえて、業務に従事した当日又はその翌日に行われた場合は、就業との関連性を認めて差し支えない。ただし、翌々日以後に行われた場合は、交通機関の状況等の合理的理由があるときに限り、就業との関連性が認められる。

H18.3.31基発第0331042号

例えば、本肢の設定であれば、「1週間の夏季休暇に入る直前の勤務終了後、またはその翌日の休暇1日目に単身赴任先から帰省先に移動した場合は、就業との関連性を認める」ということになります。

設問文には「2日目に…」となりますので、残念ながら就業との関連性は認められず、通勤災害とはならない、という結論になります。

ちなみに、わざわざ設問文で「1日目は交通機関の状況等は特段の問題はなかったが」と断っているのはなぜでしょうか。

これは、先ほど示した根拠通達の「翌々日以後に行われた場合は、交通機関の状況等の合理的理由があるときに限り、就業との関連性が認められる。」に関連しています。

つまり、本肢の設定であれば、仮に1日目に何らかしらの交通事情(大地震が起きて完全に電車がストップしている…など)で帰省しようにもできない場合だったら、2日目に帰省せざるを得なくなります。

そのような「交通機関の状況等」があれば、翌々日(2日目)以後の帰省も「就業との関連性が認められる」となります。

本肢は○となります。

労働者災害補償保険法/徴収法 令和3年第2問 E

自家用車で通勤していた労働者Xが通勤途中、他の自動車との接触事故で負傷したが、労働者Xは所持している自動車運転免許の更新を失念していたため、当該免許が当該事故の1週間前に失効しており、当該事故の際、労働者Xは、無免許運転の状態であった。この場合は、諸般の事情を勘案して給付の支給制限が行われることはあるものの、通勤災害と認められる可能性はある。

解答の根拠

法7条2項 / H18.3.31基発第0331042号

本肢は、「無免許運転の状態で事故にあった場合でも、通勤災害に該当するか」という論点になります。

「支給制限が行われることがあるものの」と条件を付けていることから、「基本的には事故にあっているのだから認めるけど、事情によっては認めないこともある…と幅を持たせているから、正解かも」と見立てることができます。

根拠通達では以下のように示されています。

3② 次に方法については、鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は、当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず一般に合理的な方法と認められる。しかし、例えば、免許を一度も取得したことのないような者が自動車を運転する場合、自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合には、合理的な方法と認められない。なお、飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れによる無免許運転の場合等は、必ずしも、合理性を欠くものとして取り扱う必要はないが、この場合において、諸般の事情を勘案し、給付の支給制限が行われることがあることは当然である。

H18.3.31基発第0331042号

上記によれば、「無免許運転は原則として合理性を欠くものとして取り扱う必要はない(通勤災害と認めてよい)が、諸般の事情を勘案し給付支給制限が行われる可能性がある」と読めます。

したがって、設問文の記載は正しい、となります。

なお、少し裏ワザ的な解き方になりますが、社労士試験に限らず、設問文の終わりが「可能性がある」とか「場合がある」など「言い切っていない」表現で終わっている場合は、基本的に○と考えてよいです。

言い切ったり、可能性はない、と表現するためには、あらゆる事象についてそれを100%確認しなければならず、とても難しいことです。

本肢は、根拠の通達自体があいまいな表現であるため、それを踏まえて文末を「可能性はある」としていると思われますが、通達自体も「ケースバイケースの論点」ということで、上記引用のような表現にしているのではないでしょうか。

本肢は○となります。

タイトルとURLをコピーしました