労働関係法規に関する次のアからオの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記AからEまでのうちどれか。
A(アとエ) B(アとオ) C(イとエ) D(イとオ) E(ウとエ)
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第4問 ア
障害者の雇用の促進等に関する法律第36条の2から第36条の4までの規定に基づき事業主が講ずべき措置(以下「合理的配慮」という。)に関して、合理的配慮の提供は事業主の義務であるが、採用後の合理的配慮について、事業主が必要な注意を払ってもその雇用する労働者が障害者であることを知り得なかった場合には、合理的配慮の提供義務違反を問われない。
平成27年厚生労働省告示117号(合理的配慮指針)
本肢は、「障害者雇用における事業主の合理的配慮」に関する問題です。
後ほど根拠となる厚生労働省の告示に触れますが、ここまでしっかりと押さえている受験生はほとんどいないのではないかと思います。
一般常識では、見たことも聞いたこともない内容が出題されることが多く、その場で戸惑ってしまうことも多いですが、そのようなときは「The 常識力」で対応しましょう。
問題文の中で注目すべきは、以下の箇所です。
事業主が必要な注意を払ってもその雇用する労働者が障害者であることを知り得なかった場合
障害の種類や状況は千差万別です。
外見的にわかることもあれば、普通に接しているだけでは障害の状態であることに気づかないこともあると思います。
そのように、「通常求められる注意を払っていても、当該労働者が障害者であることを知りえなかった場合」まで合理的配慮の提供義務違反が問われてしまうのは、事業主にとって酷と思いませんか?
ということで、結論としては、そのような場合は「合理的配慮の提供義務違反を問われない」となります。
念のため、根拠となる告示を示します。
第2 基本的な考え方
平成27年厚生労働省告示117号(合理的配慮指針)
2 合理的配慮の提供は事業主の義務であるが、採用後の合理的配慮について、事業主が必要な注意を払ってもその雇用する労働者が障害者であることを知り得なかった場合には、合理的配慮の提供義務違反を問われないこと。
本肢は○です。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第4問 イ
定年(65歳以上70歳未満のものに限る。)の定めをしている事業主又は継続雇用制度(その雇用する高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。ただし、高年齢者を70歳以上まで引き続いて雇用する制度を除く。)を導入している事業主は、その雇用する高年齢者(高年齢者雇用安定法第9条第2項の契約に基づき、当該事業主と当該契約を締結した特殊関係事業主に現に雇用されている者を含み、厚生労働省令で定める者を除く。)について、「当該定年の引上げ」「65歳以上継続雇用制度の導入」「当該定年の定めの廃止」の措置を講ずることにより、65歳から70歳までの安定した雇用を確保しなければならない。
高年齢者雇用安定法10条の2第1項2項
本肢は、高年齢者雇用安定法に関する問題です。
最近法改正があったテーマですので、出題されたのだと思います。
問題のポイントは「65歳から70歳までの安定した雇用を確保」するために、法律が求めている対応です。
根拠条文を確認します。
(高年齢者就業確保措置)
高年齢者雇用安定法
第十条の二 定年(六十五歳以上七十歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主又は継続雇用制度(高年齢者を七十歳以上まで引き続いて雇用する制度を除く。以下この項において同じ。)を導入している事業主は、その雇用する高年齢者(第九条第二項の契約に基づき、当該事業主と当該契約を締結した特殊関係事業主に現に雇用されている者を含み、厚生労働省令で定める者を除く。以下この条において同じ。)について、次に掲げる措置を講ずることにより、六十五歳から七十歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならない。ただし、当該事業主が、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合の、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の同意を厚生労働省令で定めるところにより得た創業支援等措置を講ずることにより、その雇用する高年齢者について、定年後等(定年後又は継続雇用制度の対象となる年齢の上限に達した後をいう。以下この条において同じ。)又は第二号の六十五歳以上継続雇用制度の対象となる年齢の上限に達した後七十歳までの間の就業を確保する場合は、この限りでない。
一 当該定年の引上げ
二 六十五歳以上継続雇用制度(略)の導入
三 当該定年の定めの廃止
とても長い条文ですが、このような条文をしっかり読む訓練をしておくことも、社労士試験の練習になります。
本肢の問題文は、ほとんどがこの条文からの引用ですので。
ただ、大事な部分は黄色マーカーをした箇所になります。
社労士試験あるあるの、「”努力義務”を、”義務”としている誤り」になります(その逆の出題パターンもあります)
本肢は×です。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第4問 ウ
労働施策総合推進法第30条の2第1項の「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」とする規定が、令和2年6月1日に施行されたが、同項の事業主のうち、同法の附則で定める中小事業主については、令和4年3月31日まで当該義務規定の適用が猶予されており、その間、当該中小事業主には、当該措置の努力義務が課せられている。
労働施策総合推進法30条の2 / 労働施策総合推進法令和元年法附則3条
本肢は「労働施策総合推進法」からの出題になります。
この法律の名称になじみがない方もいらっしゃるかもしれませんが、通称「パワハラ防止法」と言えば、「あーそれね」と気づかれる方も多いと思います。
今回は下記の条文の規定が、中小企業には義務ではなく努力義務として猶予されているかどうか、が問われています。
(雇用管理上の措置等)
労働施策総合推進
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
そこで、附則を確認します。
(中小事業主に関する経過措置)
労働施策総合推進法令和元年法附則3条
第三条 中小事業主(国、地方公共団体及び行政執行法人以外の事業主であって、その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下であるもの及びその常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下であるものをいう。次条第二項において同じ。)については、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日までの間、新労働施策総合推進法第三十条の二第一項(<中略>)中「講じなければ」とあるのは「講じるように努めなければ」<中略>とする。
ということで、「中小企業主については、一定の期間は、法第30条の2第1項の中の「講じなければ(義務)」となっている箇所は、「講じるように努めなければ(努力義務)」と読み替える、とあります。
したがって、問題文にあるとおり、中小企業主には猶予が認められている、となります。
ちなみに、「一定の期間」とは「令和4年3月31日まで」となっており、この記事を執筆している令和5年ではすでにこの猶予期間は終わっておりますので、今解くのであれば、問題文の文末は「当時は猶予が認められていた」とした方が良いかもしれませんね。
本肢は○です。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第4問 エ
A社において、定期的に職務の内容及び勤務地の変更がある通常の労働者の総合職であるXは、管理職となるためのキャリアコースの一環として、新卒採用後の数年間、店舗等において、職務の内容及び配置に変更のない短時間労働者であるYの助言を受けながら、Yと同様の定型的な業務に従事している場合に、A社がXに対し、キャリアコースの一環として従事させている定型的な業務における能力又は経験に応じることなく、Yに比べ基本給を高く支給していることは、パートタイム・有期雇用労働法に照らして許されない。
短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針
本肢は、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止」に関する問題です。
こちらも後ほど根拠となる指針を示しますが、存在すら知らない方も多いと思います(私も知りませんでした)
こういう時は…「The 常識力!!」です!!
シチュエーションを整理すると、以下のようになります。
Xさん…いわゆる「新卒総合職(異動・転勤あり)」
Yさん…いわゆる「ベテランパート社員(異動・転勤なし)」
Xさんは、新卒入社後数年間、Yさんの指導を受けながらYさんと同じ定型的な業務に従事
➡この場合、XさんとYさんの間に処遇差(Xさんの方が高い)があったら違法か?
常識的に考えて、将来的に異動・転勤のあるXさんが、入社直後に仕事を覚えるために、数年定型業務に従事していたからと言って、処遇差があることが即座に違法…とは考えにくいと思いませんか?
そこで仕事を覚えたら、Xさんはおそらく違う店舗に異動したり、違う部署に配属される可能性があるわけで、ずっと異動なし・転勤なしのYさんに比べて処遇が高く設定されることは、普通のことでしょう。
念のため、根拠となる指針を確認します。
第3 短時間・有期雇用労働者
1 基本給
(1) 基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するもの
基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の能力又は経験を有する短時間・有期雇用労働者には、能力又は経験に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、能力又は経験に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。
(問題とならない例)
A社においては、定期的に職務の内容及び勤務地の変更がある通常の労働者の総合職であるXは、管理職となるためのキャリアコースの一環として、新卒採用後の数年間、店舗等において、職務の内容及び配置に変更のない短時間労働者であるYの助言を受けながら、Yと同様の定型的な業務に従事している。A社はXに対し、キャリアコースの一環として従事させている定型的な業務における能力又は経験に応じることなく、Yに比べ基本給を高く支給している。
本問はこの指針の上記部分の「問題とならない例」からの出題ですね。
本肢は×です。
労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識 令和3年第4問 オ
女性労働者につき労働基準法第65条第3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として男女雇用機会均等法第9条第3項の禁止する取扱いに当たるが、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易な業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、上記措置につき男女雇用機会均等法第9条第3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないとするのが、最高裁判所の判例である。
男女雇用機会均等法9条3項 / 最判平成26年10月23日(広島中央保健生活共同組合事件)
本肢は「男女雇用機会均等法」に関する出題です。
「妊娠中の軽易な業務への転換を契機(きっかけ)として降格させる」ことは、同法の以下の規定により禁止されています。
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)
第九条
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
「その他不利益な取扱い」の中に「降格させること」が含まれているわけですね。
一方、問題文中にある今回のシチュエーションを以下のように整理してみます。
①自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する
→降格の承諾が強制的なものではなく、「今回の降格は私としても助かります。妊娠中は今のポジションの責任が果たせないこともあるため、自分としても降格していただいた方が気持ち的に楽です」というようなケースもあると思います。
②降格させることなく軽易な業務に転換させることが、円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある
→いろいろなケースが考えられますが、例えば、当該労働者が軽易な業務を担当するのであれば、当該ポジションを別の労働者に担当させないと円滑な業務運営に支障が出るようなケースや、現在のポジションの処遇が結構高く軽易な業務をやらせるにはバランスが悪いケースなど。
今回の問題のベースとなっている「最判平成26年10月23日(広島中央保健生活共同組合事件)」では、上記の①・②の事情が認められれば禁止事項に当たらないと示しています。
なお、判例そのものの結果ですが、そもそも当該労働者が裁判を起こしていることからも、①にある「自由な意思に基づいて降格を承諾した」という状況ではないよね、と労働者側勝訴という結果になっています。
本肢は○です。
以上のことから、肢イとエが誤りとなり、Cが正答となります。