労働安全衛生関係法令等の周知に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
労働安全衛生法 令和3年第10問 A
事業者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨を各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法により、労働者に周知させなければならないが、この義務は常時10人以上の労働者を使用する事業場に課せられている。
法101条1項
条文には以下の規定があります。
(法令等の周知)
労働安全衛生法
第百一条 事業者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨を常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法により、労働者に周知させなければならない。
こちらの条文と肢の前段が同じ内容となっておりますので、前段部分は正しい内容となります。
しかし、条文を読み進めても、後段に記載がある労働者の人数要件は出てきません。
「常時10人以上の労働者を使用する事業場」というと、労基法の以下の内容が浮かんだ人も多いと思います。
(作成及び届出の義務)
労働基準法
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
この就業規則の作成義務と混同させるために、後段の記載を入れたのではないかと思われます。
この肢は×となります。
労働安全衛生法 令和3年第10問 B
産業医を選任した事業者は、その事業場における産業医に対する健康相談の申出の方法などを、常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法により、労働者に周知させなければならないが、この義務は常時100人以上の労働者を使用する事業場に課せられている。
法101条2項
条文には以下の規定があります。
(法令等の周知)
労働安全衛生法
第百一条
2 産業医を選任した事業者は、その事業場における産業医の業務の内容その他の産業医の業務に関する事項で厚生労働省令で定めるものを、常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法により、労働者に周知させなければならない。
肢Aに続き、法第101条の第2項には産業医に関する規定があります。
こちらも肢Aと同様に、周知義務に関する規定はあるものの、労働者の人数要件はありません。
後段の記載は、人数も「100人」と多く設定していることから、「産業医の選任要件」と混同させようとしていると思われます。
なお、念のため産業医の選任要件を復習しておきましょう。
事業場の労働者の人数 | 産業医の人数 | 専属 |
~49人 | 0(義務なし) | ー |
51~999 | 1人以上 | ー |
1000~2999 | 1人以上 | 専属 |
3000~ | 2人以上 | 1人以上専属 |
この肢は×となります。
労働安全衛生法 令和3年第10問 C
事業者は、労働安全衛生法第57条の2第1項の規定(労働者に危険又は健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの等通知対象物を譲渡又は提供する者に課せられた危険有害性等に関する文書の交付等義務)により通知された事項を、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で当該通知された事項に係るものを取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法により、当該物を取り扱う労働者に周知させる義務がある。
法101条4項
条文には以下の規定があります。
(法令等の周知)
労働安全衛生法
第百一条
4 事業者は、第五十七条の二第一項又は第二項の規定により通知された事項を、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で当該通知された事項に係るものを取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法により、当該物を取り扱う労働者に周知させなければならない。
肢A・Bに続き、法第101条の第4項には化学物質等に関する規定があります。
この規定まではチェックできていなかった方も多いのではないでしょうか。
本来は条文を押さえておき自信をもって答えたいところですが、他の肢のように、特段ひっかけのような労働者数の記載もないため、単純に「化学物質等だから周知させておいた方が良いよね…」と、なんとなく○とする、ということで良いのではないかと思います。
この肢は○となり、本問の正解となります。
労働安全衛生法 令和3年第10問 D
安全管理者又は衛生管理者を選任した事業者は、その事業場における安全管理者又は衛生管理者の業務の内容その他の安全管理者又は衛生管理者の業務に関する事項で厚生労働省令で定めるものを、常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法により、労働者に周知させる義務がある。
法101条
本問は、この肢Dを○として正解肢としてしまう方が多いと思います。
しかし…法令ではなぜか産業医には周知義務が課せられているのですが、本肢にある「安全管理者」や「衛生管理者」の周知義務は課せられておりません。
正直なところ、このような違いがなぜ生じているのか理由はわかりませんが、条文はありませんので「義務はない」ということで「×」になります。
ちなみに、実務上では、産業医に加え衛生管理者や人事の担当者など、各事業場における産業保健の担当者は、社内イントラなどで周知させておくことが適切な産業保健体制の運営として望ましいのではないかと個人的には思っております。
社員の方が、仕事をしていくうえで困ったことや悩みがあるときに、どこの誰に相談すべきなのか明確になっていることが大切だと思うからです。
本肢は×となります。
労働安全衛生法 令和3年第10問 E
事業者は、労働者が労働災害により死亡し、又は4日以上休業したときは、その発生状況及び原因その他の厚生労働省令で定める事項を各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法により、労働者に周知させる義務がある。
則97条
本肢の内容は、一読して違和感を持たれた方が多いのではないでしょうか。
設問文のような状況が発生した場合は、事業者は「様式第23号(労働者死傷病報告書)」という報告書を遅滞なく所轄労働基準監督署へ届け出る義務があります。
それを知っていた場合は「それと混同させようとしているな…」と気づき、自信をもって「×」とできたかもしれません。
しかし、仮にそのことを知らなかったとしても、「事故の発生状況や原因を、社内周知させる義務があるのだろうか…」と冷静に考えてみてください。
誰がどこでどのような状況で事故に遭遇したのか…再発防止という観点では周知が必要かもしれませんが、いわゆる「事故報告書」のような事細かな内容を社員に周知させると、プライバシーの問題などで別の課題がありそうです。
本肢は×となります。