遺族厚生年金に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
厚生年金保険法 令和5年第5問 A
夫の死亡による遺族厚生年金を受給している者が、死亡した夫の血族との姻族関係を終了させる届出を提出した場合でも、遺族厚生年金の受給権は失権しない。
法第63条第1項
根拠条文を確認します。
(失権)
第六十三条 遺族厚生年金の受給権は、受給権者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。
一 死亡したとき。
二 婚姻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)をしたとき。
三 直系血族及び直系姻族以外の者の養子(届出をしていないが、事実上養子縁組関係と同様の事情にある者を含む。)となつたとき。
四 離縁によつて、死亡した被保険者又は被保険者であつた者との親族関係が終了したとき。
五 次のイ又はロに掲げる区分に応じ、当該イ又はロに定める日から起算して五年を経過したとき。
イ 遺族厚生年金の受給権を取得した当時三十歳未満である妻が当該遺族厚生年金と同一の支給事由に基づく国民年金法による遺族基礎年金の受給権を取得しないとき 当該遺族厚生年金の受給権を取得した日
ロ 遺族厚生年金と当該遺族厚生年金と同一の支給事由に基づく国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有する妻が三十歳に到達する日前に当該遺族基礎年金の受給権が消滅したとき 当該遺族基礎年金の受給権が消滅した日厚生年金保険法
本肢は、「失権」に関する問題です。
上記根拠条文が、遺族厚生年金の失権事由となります。
ご覧いただいてわかる通り、問題文にある「死亡した夫の血族との姻族関係を終了させる届出を提出した場合」というのは、失権事由としては掲げられていません。
本肢は○です。
厚生年金保険法 令和5年第5問 B
夫の死亡による遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給していた甲が、新たに障害厚生年金の受給権を取得した。甲が障害厚生年金の受給を選択すれば、夫の死亡当時、夫によって生計を維持されていた甲の子(現在10歳)に遺族厚生年金が支給されるようになる。
法第66条第1項
根拠条文を確認します。
第六十五条の二 夫、父母又は祖父母に対する遺族厚生年金は、受給権者が六十歳に達するまでの期間、その支給を停止する。ただし、夫に対する遺族厚生年金については、当該被保険者又は被保険者であつた者の死亡について、夫が国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有するときは、この限りでない。
第六十六条 子に対する遺族厚生年金は、配偶者が遺族厚生年金の受給権を有する期間、その支給を停止する。ただし、配偶者に対する遺族厚生年金が前条本文、次項本文又は次条の規定によりその支給を停止されている間は、この限りでない。
2 配偶者に対する遺族厚生年金は、当該被保険者又は被保険者であつた者の死亡について、配偶者が国民年金法による遺族基礎年金の受給権を有しない場合であつて子が当該遺族基礎年金の受給権を有するときは、その間、その支給を停止する。ただし、子に対する遺族厚生年金が次条の規定によりその支給を停止されている間は、この限りでない。第六十七条 配偶者又は子に対する遺族厚生年金は、その配偶者又は子の所在が一年以上明らかでないときは、遺族厚生年金の受給権を有する子又は配偶者の申請によつて、その所在が明らかでなくなつた時にさかのぼつて、その支給を停止する。
2 配偶者又は子は、いつでも、前項の規定による支給の停止の解除を申請することができる。厚生年金保険法
本肢は、「支給停止」に関する問題です。
原則として、子に対する遺族厚生年金は、配偶者が遺族厚生年金の受給権を有する期間、その支給を停止することとなります。
ただし、上記根拠条文のとおり、例外として配偶者に対する遺族厚生年金が、
(1)支給開始年齢に係る支給停止になる場合
(2)子のみが遺族基礎年金の受給権を有する所定の場合
(3)配偶者の所在が1年以上明らかでない場合
によりその支給を停止されている間は、支給停止されないこととされています。
問題文のケースである「配偶者の障害厚生年金の受給」は上記(1)~(3)のいずれにも該当しないため、子の遺族厚生年金は支給停止が解除されません(支給されないまま)。
本肢は×となり、本問の正解となります。
厚生年金保険法 令和5年第5問 C
船舶が行方不明となった際、現にその船舶に乗っていた被保険者若しくは被保険者であった者の生死が3か月間分からない場合は、遺族厚生年金の支給に関する規定の適用については、当該船舶が行方不明になった日に、その者は死亡したものと推定される。
法第59条の2
根拠条文を確認します。
(死亡の推定)
第五十九条の二 船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となつた際現にその船舶に乗つていた被保険者若しくは被保険者であつた者若しくは船舶に乗つていてその船舶の航行中に行方不明となつた被保険者若しくは被保険者であつた者の生死が三月間わからない場合又はこれらの者の死亡が三月以内に明らかとなり、かつ、その死亡の時期がわからない場合には、遺族厚生年金の支給に関する規定の適用については、その船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となつた日又はその者が行方不明となつた日に、その者は、死亡したものと推定する。航空機が墜落し、滅失し、若しくは行方不明となつた際現にその航空機に乗つていた被保険者若しくは被保険者であつた者若しくは航空機に乗つていてその航空機の航行中に行方不明となつた被保険者若しくは被保険者であつた者の生死が三月間わからない場合又はこれらの者の死亡が三月以内に明らかとなり、かつ、その死亡の時期がわからない場合にも、同様とする。厚生年金保険法
本肢は、「死亡の推定」に関する問題です。
問題文のケースである「船舶乗船中に行方不明」となってしまった場合は、上記根拠条文のとおり、
「生死が3月間不明→行方不明となった日に死亡した者と推定する」
という取扱いになります。
本肢は○です。
厚生年金保険法 令和5年第5問 D
配偶者と離別した父子家庭の父が死亡し、当該死亡の当時、生計を維持していた子が遺族厚生年金の受給権を取得した場合、当該子が死亡した父の元配偶者である母と同居することになったとしても、当該子に対する遺族厚生年金は支給停止とはならない。
法第66条第1項
根拠条文は肢Bと同じなので、そちらを参照してください。
本肢は、「支給停止」に関する問題です。
根拠条文のとおり、「子に対する遺族厚生年金は、配偶者が遺族厚生年金の受給権を有する期間、その支給を停止する」とされています。
問題文のケースでは、子の母は元配偶者である父と離別しているため、遺族厚生年金の受給権を有しません。
そのため、当該子に対する遺族厚生年金は支給停止とはならず、支給されることになります。
また、問題文の後半にある「同居」について考えてみましょう。
国民年金法における、子に対する遺族基礎年金については、「生計を同じくするその子の父若しくは母があるときは、その間、その支給を停止する」とする定めがあります。
一方、厚生年金保険法における遺族厚生年金には、同様の定めはありません。
そのため、問題文の子が母と同居することになったとしても、当該子に対する遺族厚生年金は支給停止とはなりません、
本肢は○です。
厚生年金保険法 令和5年第5問 E
被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時、その者と生計を同じくしていた配偶者で、前年収入が年額800万円であった者は、定期昇給によって、近い将来に収入が年額850万円を超えることが見込まれる場合であっても、その被保険者又は被保険者であった者によって生計を維持していたと認められる。
平成23年3月23日年発0323第1号
根拠通達を確認します。
4 収入に関する認定要件
(1) 認定の要件
① 生計維持認定対象者(障害厚生年金及び障害基礎年金並びに障害年金の生計維持認定対象者は除く。)に係る収入に関する認定に当たっては、次のいずれかに該当する者は、厚生労働大臣の定める金額(年額850万円)以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者に該当するものとする。
ア 前年の収入(前年の収入が確定しない場合にあっては、前々年の収入)が年額850万円未満であること。
イ 前年の所得(前年の所得が確定しない場合にあっては、前々年の所得)が年額655.5万円未満であること。
ウ 一時的な所得があるときは、これを除いた後、前記ア又はイに該当すること。
エ 前記のア、イ又はウに該当しないが、定年退職等の事情により近い将来(おおむね5年以内)収入が年額850万円未満又は所得が年額655.5万円未満となると認められること。生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて〔国民年金法〕(平成23年3月23日年発0323第1号)
本肢は「収入に関する認定要件」に関する問題です。
遺族厚生年金にかかる生計維持認定対象者に係る収入に関する認定に当たっては、上記根拠通達記載のア~エに該当する者が、厚生労働大臣の定める金額(年額850万円)以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者に該当するものとされています。
問題文のケースは、上記のアに該当します。
問題文にあるような「近いうちに…」という将来のことは特に書かれておりません。
本肢は○です。