労働基準法に定める賃金等に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
労働基準法 令和5年第6問 A
労働基準法第24条第1項に定めるいわゆる直接払の原則は、労働者と無関係の第三者に賃金を支払うことを禁止するものであるから、労働者の親権者その他法定代理人に支払うことは直接払の原則に違反しないが、労働者の委任を受けた任意代理人に支払うことは直接払の原則に違反する。
昭和63年3月14日基発150号
根拠通達を確認します。
法24条1項は、労働者本人以外の者に賃金を支払うことを禁止するものであるから、労働者の親権者その他の法定代理人に支払うこと、労働者の委任を受けた任意代理人に支払うことは、いずれも本条違反となり、労働者が第三者に賃金受領権限を与えようとする委任、代理等の法律行為は無効である。ただし、使者に対して賃金を支払うことは差し支えない
昭和63年3月14日基発150号
本肢は、「直接払いの原則」に関する問題です。
賃金の直接払いの例外は、「使者」…つまり、単に本人の指示を受けて動く人だけのみ、と覚えておきましょう。
その他の、本肢で述べられているような
・親権者
・法定代理人
・任意代理人
などの言葉を見かけたら、「認められていない!」と即答できるようにしておきましょう。
本肢は×です。
労働基準法 令和5年第6問 B
いかなる事業場であれ、労働基準法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出された者でないこと、という要件さえ満たせば、労働基準法第24条第1項ただし書に規定する当該事業場の「労働者の過半数を代表する者」に該当する。
平成11年1月29日基発45号
根拠通達を確認します。
第一三
労働基準法の一部を改正する法律の施行について(平成11年1月29日基発45号)
二 過半数代表者の要件
次のいずれの要件も満たすものであること。
(一) 法第四一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
(二) 法に基づく労使協定の締結当事者、就業規則の作成・変更の際に使用者から意見を聴取される者等を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であり、使用者の意向によって選出された者ではないこと。
なお、法第一八条第二項、法第二四条第一項ただし書、法第三九条第四項、第六項及び第七項ただし書並びに法第九〇条第一項に規定する過半数代表者については、当該事業場に上記(一)に該当する労働者がいない場合(法第四一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者のみの事業場である場合)には、上記(二)の要件を満たすことで足りるものであること。
本肢は、「過半数代表」に関する問題です。
労働者側の代表者となる「過半数代表」は、法の趣旨に則って選出される必要があります。
その「法の趣旨」とは、上記根拠通達にあるとおり、
①法41条2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
②投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。
となります。
ただし、例外的に法第24条1項ただし書等の所定の規定については、上記①に該当する労働者がいない場合、上記②の要件を満たすことで足りるとされています。
つまり、管理監督者の地位にある者であっても(①)、民主的な方法で選出された者(②)であれば、過半数代表としてもよい、ということになります。
本肢は×です。
労働基準法 令和5年第6問 C
賃金の所定支払日が休日に当たる場合に、その支払日を繰り上げることを定めることだけでなく、その支払日を繰り下げることを定めることも労働基準法第24条第2項に定めるいわゆる一定期日払に違反しない。
法第24条第2項
根拠条文を確認します。
(賃金の支払)
労働基準法
第二十四条
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
本肢は、「毎月払い」に関する問題です。
おそらく多くの企業において、給料日が土日にあたった場合は、その「前」の平日が給与支給日となることがほとんどだと思います。
しかし、法律上はあくまでも「毎月1回以上支給すること」しか義務として課されておりませんので、「後」の休日に支払うことも問題ありません。
もしかしたら、特に人事担当者・給与担当者の受験生がいたら、「前に払わないといかんでしょう」と×と判断された方が多いかもしれませんね。
本肢は○となり、本問の正解となります。
労働基準法 令和5年第6問 D
使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならないが、その支払いには労働基準法第24条第1項の規定は適用されない。
法第25条
根拠条文を確認します。
(非常時払)
労働基準法
第二十五条 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。
本肢は、「非常時払い」に関する問題です。
非常時払いであったとしても、上記根拠条文の通り「既往の労働に対する賃金」と規定されている以上は、通常の賃金となんら変わりませんので、第24条第1項の規定が適用されます。
本肢は×です。
労働基準法 令和5年第6問 E
会社に法令違反の疑いがあったことから、労働組合がその改善を要求して部分ストライキを行った場合に、同社がストライキに先立ち、労働組合の要求を一部受け入れ、一応首肯しうる改善案を発表したのに対し、労働組合がもっぱら自らの判断によって当初からの要求の貫徹を目指してストライキを決行したという事情があるとしても、法令違反の疑いによって本件ストライキの発生を招いた点及びストライキを長期化させた点について使用者側に過失があり、同社が労働組合所属のストライキ不参加労働者の労働が社会観念上無価値となったため同労働者に対して命じた休業は、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」によるものであるとして、同労働者は同条に定める休業手当を請求することができるとするのが、最高裁判所の判例である。
最判昭和62年7月17日(ノースウエスト航空事件)
本肢は「休業手当」に関する問題です。
最高裁の判例をもとにした問題です。
判例のポイントをまとめると「本件ストライキは組合が主体的判断と責任で行ったので、会社に責任がないため、休業手当の支給義務なし」となります。
問題文には「会社に法令違反の疑いがあった」などと、会社に責任があるような記載をすることで「休業手当を払わなければならないのではないか」と思わせようとしています。
しかし、あくまでも休業手当を支払う必要があるのは、「その休業自体に会社の責任があるかどうか」ですので、今回のケースは「会社に法令違反の疑いがあったとしても、それを理由にストライキ・休業しようと決めたのは労働者側」ということになります。
本肢は×です。