労働基準法第36条に定める時間外・休日労働協定(以下本問において「協定」という。)に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
労働基準法 令和7年第5問 A
労働者数が、本社、X支店及びY支店の合計で180人の企業において、100人の労働者で組織する労働組合があるとき、本社、X支店及びY支店のいずれの事業場においても労働者側の協定当事者は、それぞれの事業場の労働組合員数にかかわらず、その労働組合となる。
昭和36年9月7日基収4932号
根拠通達を確認します。
(問)
当局の職員は全員が○○労働組合に加入しており、当該組合には支部分会等の下部組織もありますが、当局限りではその支部分会は結成されておらず、又その代表者も当局にはおりませんので、当局の職員の過半数を代表するものと三六協定を締結し届出たいと思いますが労働基準法上適法な協定であるか伺います。(答)
法第36条第1項の協定は、当該事業場の労働者の過半数が加入している労働組合がある場合においては、その労働組合と締結すべきものであり、従って、設問の場合は適法な協定とはいえない。昭和36年9月7日基収4932号
本肢は「時間外・休日労働協定」に関する問題です。
上記根拠通達にあるとおり「法第36条第1項の協定は、当該事業場の労働者の過半数が加入している労働組合がある場合においては、その労働組合と締結すべきもの」です。
問題文のケースでは、極端な話…
・X事業所…所属社員数90人/うち労働組合員数80人
・Y事業所…所属社員数90人/うち労働組合員数20人
でも「X支店及びY支店の合計で180人の企業において、100人の労働者で組織する労働組合」という状態になります。
このような状態ですと、Y事業所では「当該事業場の労働者の過半数が加入している労働組合」という条件を満たしません。
したがって、問題文にある「それぞれの事業場の労働組合員数にかかわらず」という記載が誤りとなります。
本肢は×となり、本問の正解となります。
労働基準法 令和7年第5問 B
協定当事者である「労働者の過半数を代表する者」が、協定締結後に死亡した場合であっても、当該協定の効力は失われない。
法第36条
根拠条文を確認します。
(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。労働基準法
本肢は「時間外・休日労働協定」に関する問題です。
問題文のケースにあるような、36協定を締結した後に労働者側の協定締結者がが法定要件を満たさなくなった場合、36協定の効力はどうなるのでしょうか。
36協定の法定要件は協定の成立要件とされているので、その後に状況(協定当事者の変更や社員数の増減など)があっても締結のし直しは不要とされています。
本肢は○です。
労働基準法 令和7年第5問 C
協定当事者である「労働者の過半数を代表する者」の「労働者」の範囲には、労働基準法第41条第2号の「管理監督者」、同条第3号の「監視、断続的労働従事者で行政官庁の許可を受けた者」、満18歳に満たない者などのような、時間外労働又は休日労働を考える余地のない者を含む全ての労働者と解すべきであるとされている。
昭和46年1月18日基収6206号
根拠通達を確認します。
(問)
一 疑義事項
法第36条第1項の規定でいう「当該事業場の労働者の過半数」について、次のような者を「労働者」のなかに包含して差し支えないか。
(一) 法第41条第二号の規定に該当する者
例えば、管理職手当又は役付手当等の支給を受け、時間外等の割増賃金が支給されない者であって、労働組合との関係においては、非組合員として扱われている者。
(二) 病欠、出張、休職期間中等の者
例えば、病気、出張、休職等によって、当該協定締結当日出勤していない者又は当該協定期間中に出勤が全く予想されない者。
二 当局の見解
(一) 前記一の(一)について
法第36条第1項では、「労働者」について特段の規定がないうえ、労働基準法の他の規定、すなわち、第18条、第24条、第39条、第90条においても同一の表現が用いられており、第36条第1項に限って、労働者の範囲を制限的に解する理由はなく、また、他の場合に法第41条第二号の規定に該当する者を除外する合理的な理由がないこと、法第36条第1項の「労働者」から法律上あるいは事実上時間外労働又は休日労働がありえない者(例えば、年少者、女子等)を除外することは明文に照して無理があること等を考慮すると、法第9条の定義によるべきが妥当と考えられる。
(二) 前記一の(二)について
前述(一)のような見地からすれば、事実上時間外労働又は休日労働がありえないこれらの者といえども当該事業場に在籍している限り、その者を、法第36条第1項の規定にいう「労働者」から除外する理由は何等存しないものと考えられる。(答)
労働基準法第36条第1項の協定は、当該事業場において法律上又は事実上時間外労働又は休日労働の対象となる労働者の過半数の意思を問うためのものではなく、同法第18条、第24条、第39条及び第90条におけると同様当該事業場に使用されているすべての労働者の過半数の意思を問うためのものであり、設問の(一)、(二)とも貴見のとおりである。昭和46年1月18日基収6206号
本肢は「時間外・休日労働協定」に関する問題です。
上記根拠通達にあるとおり、「法36条1項の協定は、当該事業場において法律上または事実上時間外労働又は休日労働の対象となる労働者の過半数の意思を問うためのものではなく、当該事業場に使用されているすべての労働者の過半数の意思を問うためのもの」とされています。
そのため問題文にある、「時間外労働又は休日労働を考える余地のない者」も含みます。
本肢は○です。
労働基準法 令和7年第5問 D
協定当事者である使用者は、労働基準法第10条の「使用者」であるから、各事業場の長ではなく、株式会社の社長自らが協定当事者となることも可能である。
法第36条
根拠条文は省略します。
本肢は「時間外・休日労働協定」に関する問題です。
第10条の使用者は
①事業主
②事業の経営担当者
③その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者
です。
①の事業主は、原則は当該事業場における事業主(支店長など)ですが、複数の事業場を束ねる「社長」でもよいとされています。
本肢は○です。
労働基準法 令和7年第5問 E
法人の役員を含む全従業員により構成されており、その目的・活動内容に照らし労働組合とは認められない親睦団体の代表者が自動的に協定を締結したにすぎない場合、当該代表者は、「労働者の過半数を代表する者」に当たらないとされている。
トーコロ事件(最高裁平成13年6月22日第二小法廷判決)
本肢は「時間外・休日労働協定」に関する問題です。
上記解答の根拠に挙げた判例では、「役員を含む全従業員で構成された親睦団体の代表者が民主的に選出されたとはいえないことなどに照らすと、これと締結した36協定は無効」とされています。
本肢は○です。


